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異世界転生したら魔王軍の通訳官に転職しました 〜スキルなしおじさん、言葉で世界を変える〜  作者: 四郎


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19/19

最終話 言葉は時を越えて。

――眩い光が、世界を包んだ。


温かく、柔らかく、それでいて胸の奥を貫くような光。

意識が遠のく。

重力も、痛みも、何もかもが溶けていく。


(ああ……これで本当に、終わるんだな)


「セージさん。……やっぱり寂しいですね」

「はい。でも、これでいいんですよ。

帰る場所があるって、幸せなことだと思います」


光の中に三人の影が溶けていく。

そして――世界が音を取り戻した。



――ゴォォォ……!

耳をつんざく轟音。

金属の軋み。ざわめき。風の音。


「っ……!?」

目を開けた瞬間、視界に見覚えのある景色が飛び込んできた。


座席。通路。機内アナウンス。

そして、窓の外――白い雲の海。


「……ここ、飛行機の中……!」

クロが震える声を上げた。

「戻ってきた……本当に……!」


俺は息を詰め、前の座席を見つめた。

小さな液晶モニターに映る時刻と日付。


――2025年11月16日 13:42。


……あの、事故の日付。


「……まさか、戻ったのが……ここ!?」

喉の奥から変な声が出た。

「おいおい、よりによって“墜落前”!? 神様センス悪すぎだろ!!」


その瞬間――機体が大きく揺れた。

警告音。

客室乗務員の叫び声。

『乱気流に入ります! お座席のベルトを――!』


「ちょ、待て待て待て待て!!!」

俺はベルトを掴みながら叫んだ。

「これ、デジャヴとかじゃないよな!? 本番だよな!?」


ナカが青ざめた顔で俺を見る。

「セージさん、もしかして……また死ぬんですか……?」

「縁起でもないこと言うなぁぁ!!」


クロが泣きそうな顔で叫ぶ。

「女神様ぁ! 帰還地点の設定ミスってますぅぅぅ!!」


「落ち着け! 冷静に死ぬ準備を――いや違う! 落ち着け!」


ナカが顔を真っ青にして窓を見つめる。

「この高度……これ、もうすぐじゃないですか!?」

「知ってる!! 知ってるけど言わないで!!」


そのとき――少し離れた席から声がした。


「……なんだここは……俺、また夢か?」


振り向くと、見覚えのある顔。

リュウガだった。

制服姿のまま、寝ぐせつき。

完全に“ただの高校生”に戻っている。


「おいリュウガ、起きたか!」

「セージ!? なんでお前が……てかこの揺れなに!?」

「うん、懐かしの“あのとき”だ」

「……あの事故の!? おい、ふざけんなよ!?」

「俺もそう思う!!!」


ルシア(今はCAの制服)が通路で叫ぶ。

「勇者様、シートベルトをお締めください!」

「勇者じゃねぇよ!!」


クロが手を合わせる。

「女神様ぁぁぁ!! 今度こそ安全運転でお願いしますぅぅ!!」


その瞬間――頭の奥で、聞き覚えのある甘ったるい声が響いた。


『大丈夫です♡ 今回はチュートリアルですから』

「命がけのチュートリアルすんなぁ!!!」


『セージ。言葉は世界を変えるって言いましたよね?

では、今度は“空”を変えてみましょう』


「……そういう無茶ぶりをさらっと言うのやめて!!」


機体がさらに傾く。

悲鳴。

金属の悲鳴。


俺は深呼吸をして、目を閉じた。

「――“墜ちない”」


それだけを言葉にした。


静寂。


次の瞬間、機体の揺れが――止まった。

乗客がざわめき、誰かが泣いた。

窓の外、光がやわらかく差し込む。


クロがぽかんと俺を見た。

「い、今の……」

「たぶん、“言霊”」

「やっぱチートですよそれ!」


リュウガが隣の席から笑った。

「ははっ、結局最後までセージらしいな」

「お前も笑ってる場合か!」

「だって、もう泣き尽くしたからな。次は笑う番だろ」


機内に安堵の笑いが広がる。

CAたちが慌ててマイクを取る。

『……き、機体は安定しました。皆さま、ご安心ください……!』


俺はシートに沈みながら、空を見上げた。

「……終わったな」

「うん。けど、なんかさ」

リュウガが笑う。

「まだ“あっち”でパン焼いてそうな気がするよな」

「だな」

「ヴェルド将軍、絶対パン買ってる」

「間違いない」


クロが鼻をすすりながら笑った。

「帰ってきても、あの世界が恋しいなんて、変ですよね」

「変だけど、いいことだ」

ナカが静かに言う。

「俺たち、どっちの世界にも根を残せたってことです」


――ゴォン。


軽い衝撃。

アナウンスが響いた。


『皆さま、ただいま着陸いたしました。おかえりなさいませ』


窓の外には、日本の街並み。

灰色のビルと、遠くの海。

懐かしくて、泣きたくなるほど現実だった。


クロが深呼吸をして笑った。

「……帰ってきた」

ナカが頷く。

「はい。やっと、本当の意味で」


俺はゆっくり立ち上がり、言った。

「じゃ、降りようか。俺たちの“二周目の人生”へ」


リュウガが苦笑する。

「なんか、そう言われるとまた異世界始まりそうだな」

「それはそれで楽しそうじゃん?」


ルシア(CA)がにこやかに言う。

「皆さま、通路までお気をつけてお進みください♡」

「キャラ崩れてるって!」


俺たちは笑いながら通路を歩いた。

ドアの向こうに、光があった。


外に出た瞬間、風が吹く。

暖かくて、懐かしい風。

その中で、ふっと声が聞こえた。


『――言葉を信じる限り、あなたたちはどこにいても繋がっています♡』


「……最後までうるさい女神だな」

「聞こえてますよ?」

「うわっまだ通信中!?」

『Wi-Fiです♡』

「神界にWi-Fiあんのかよ!!!」


みんなが吹き出した。

空に笑い声が混ざる。


俺は空を見上げて、手をかざした。


「女神様。あっちの世界、ちゃんと残しておいてくださいね」

『もちろんです。

言葉がある限り、“物語”は終わりませんから♡』


風が髪を撫でた。

青い空が、まるであの異世界の空と重なって見える。


俺は笑った。


「じゃあ、また話そう。――どこかの世界で」


そして、俺たちはそれぞれの道へ歩き出した。


パン職人はパン屋へ。

農家は畑へ。

勇者は普通の高校へ。

そして俺は――翻訳アプリを起動して、つぶやいた。


「“言葉”で、世界を救う。

……あながち嘘じゃなかったな」


スマホの画面に、“翻訳完了”の文字が浮かぶ。

風が通り過ぎ、空にひとすじの白い雲。


それはまるで、もうひとつの世界へ続く道のようだった。



数年後。

都心の朝。ガラス張りのオフィスに陽が差し込む。


「はい、それでは“新人研修”を始めます!」


会議室の前に立つのは――高槻誠司。

かつて異世界で“通訳官”として戦った男だ。

今は一企業の研修担当、言葉を教える講師になっていた。


「今日のテーマは、“ありがとう”という言葉の力です」


新入社員たちが笑う。

「また高槻さんの“言葉の魔法”講座だ〜!」

「バカにするな、それで世界救ったんだぞ」


会議室に笑い声が広がる。

誠司は照れくさそうに苦笑しながら、スライドを切り替えた。


画面には、一枚のスケッチ。

田んぼで泥だらけの男――ナカ。

石窯の前でパンを焼く、笑顔のクロ。

そして、どこか遠い空の下で肩を並べるヴェルドとバルザーク。

それは、誠司が自分の記憶を頼りに描いた絵だった。

あの世界の風景を、少しでも忘れたくなくて。


その絵を見つめながら、誠司はマーカーを走らせる。

ホワイトボードに、ひと文字。


――言葉。


「人は、言葉で繋がる。

たとえ国が違っても、世界が違っても。

“伝えよう”って想いがあれば、奇跡は起きる」


静かな空気が流れる。

誠司はゆっくり笑って言った。


「だから――信じてください。

あなた自身の声を。必ず、誰かに届きます」


その言葉と同時に、エアコンの風がふっと動いた。

まるで、あの異世界の風が一瞬だけ通り抜けたように。


そして――頭の奥に、やっぱり聞こえた。


『……チョコ入りクロワッサン、まだですか?♡』


「だから職場にまで出てくんなっての!!」

「高槻さん!? 誰と喋ってるんですか!?」

「気にするな! 神様だ!」


会議室がどっと笑いに包まれた。


誠司は笑いながら、心の中で呟く。

(言葉は、まだ俺を繋いでくれてる。

あの世界と、この世界を――)


窓の外、青い空が広がっていた。

その先に、確かにもうひとつの世界が続いている気がした。


――完。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!

また新しい物語で、どこかの世界でお会いしましょう!

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