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異世界転生したら魔王軍の通訳官に転職しました 〜スキルなしおじさん、言葉で世界を変える〜  作者: 四郎


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第17話 言霊の加護、声が世界を癒す時。

――空が裂けた。

白と黒の閃光がぶつかり、世界が悲鳴を上げている。


魔王の闇が地平線を飲み込み、

勇者リュウガの聖剣が天を貫く。

その光景は、まるで“世界の終わり”そのものだった。


「う、うそだろ……」

俺は崩れた塔の上からその戦いを見つめていた。

風が暴れ、砂が舞い、耳を塞いでも何も聞こえない。

音が、消えるほどの力のぶつかり合い。


リュウガの目には、狂気にも似た“信仰の炎”が宿っていた。


「神の名において、悪を――滅する!」


聖剣が閃き、

光の柱が地を割った。


魔王の軍勢が吹き飛び、地が抉れ、炎が咲く。

空気そのものが焼ける。

熱風が頬を切り裂き、息が苦しい。


「……やめろ! リュウガ!」

俺の声なんて、届くわけがなかった。


魔王はその光の中に立ち、微動だにしない。

黒炎の翼を広げ、静かに呟いた。


「人は、光を得てなお……闇を知らぬ」


その言葉と同時に、地面から黒い雷が噴き上がった。

大地が反転し、空が歪む。

世界が――“壊れかけていた”。


ヴェルドが叫ぶ。

「セージ! 逃げろ!」

「もう……逃げられません。

これ、止めなきゃ……全部消える!」


俺は自分の足で、戦場へ降りた。

膝が震える。息もできない。

でも、それでも進んだ。


(止めたい。誰も死なせたくない――)


リュウガが聖剣を振り上げる。

魔王の胸に光が集まる。


「これで終わりだ! 神の審判を受けろォ!!!」


世界が爆発した。

光が全てを塗りつぶした。


――その瞬間。


俺は叫んでいた。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


――世界が、止まった。


風も、炎も、音も、光も。

全てが、凍りついたように静止していた。

空気が止まる。

心臓の鼓動だけが響く。


「……今の、俺の声……?」


胸の奥が熱い。

体が震える。

そして――頭の中に、あの声が響いた。


『おめでとうございます。

あなたの加護、“言霊ことだま”が発現しました♡』


(言霊……?)

『あなたが“心から信じた言葉”は、この世界の理を変えます。』


息を呑む。

世界が止まっている。

あの最強の勇者も、あの魔王でさえも、動けない。


(信じた言葉が、真実になる……?)


俺は小さく息を吐いた。

そして、つぶやいた。


「――元に戻れ」


静寂が、光に変わった。


割れていた大地が、ゆっくりと閉じていく。

崩れていた城壁が再生し、焦げた森が緑を取り戻す。

死んでいた兵たちが、息を吹き返した。

その目が、ゆっくりと開く。


「……うそだ……生きてる……!」

「傷が……消えた……!」


ヴェルドが呆然とつぶやいた。

「……死人すら、蘇ったのか……」


魔王が俺を見た。

「貴様の“声”……死すら拒むか」

「俺は……死なせたくなかった。ただ、それだけです」


すると、勇者リュウガの体を包んでいた光が、静かに揺らいだ。

まるで、その中から“闇”が抜け出していくように。


「ぐ……あああ……!」

リュウガが膝をつく。

その瞳から、金の光が消えていく。


俺は駆け寄った。

「リュウガ!」


リュウガの手が震えていた。

その顔は苦しみに歪んでいる。

「俺は……何を……していたんだ……」


聖剣が手から落ち、鈍い音を立てた。

光の刃が消え、ただの鉄のように冷たく沈む。


「神の声が……俺の中に……あれは、俺じゃなかった……!」

「もういい。お前は戻ってきたんだ」

「俺は……仲間を殺したんだぞ……!」


俺は首を振った。

「死んでない。みんな、生き返った。

お前の“信仰”も、“罪”も、全部……戻ったんだ」


リュウガは顔を上げた。

その瞳には涙が浮かんでいた。


「……どうして、そんなことが……できるんだ」

「俺は通訳官だから。人の“声”を信じるのが仕事なんだよ」


沈黙のあと、リュウガは小さく笑った。

「……セージ。ありがとう」


魔王が一歩前に出た。

「勇者よ。光に呑まれたとはいえ、お前は戦った。

次は、剣ではなく“言葉”で来い」


リュウガは深く頭を下げた。

「……分かった。俺はもう、神の代弁者じゃない。

ただの、人間として――やり直す」


空が静かに晴れていく。

風が草を揺らし、陽の光が差し込んだ。

戦場だった場所が、まるで“春”のように変わっていく。


ヴェルドが深く息をついた。

「……終わったな」

「はい。もう、誰も戦ってない」


俺は空を見上げた。

青い空が広がっていた。

雲ひとつない、静かな空。


その時――あの女神の声が響いた。


『……お見事です、セージ。

あなたの言葉は、神の奇跡を超えました』


「奇跡なんかじゃないですよ。

俺はただ、信じたことを言っただけです」


『だからこそ、奇跡なのです。』


女神の声が消え、代わりに風が優しく吹いた。

その風に乗って、パンの香りがした。


クロが駆けてきた。

「セージさん! 戦が終わったお祝いに、新作焼きました!」

「またパンか!」

「平和には炭水化物ですよ!」

「どんな理論だ!」


ナカが笑いながら言う。

「田んぼの芽も生き返ってます! これ、もう豊作確定ですよ!」

「それ、俺の加護で勝手に成長してないよな!?」


ヴェルドがため息をつきながら笑った。

「通訳官が神を超えるとはな。忙しくなるぞ、セージ」

「働きたくないでござる!!」


笑い声が響いた。

戦争のあった場所に、ようやく“笑い”が戻っていた。


俺は空を見上げ、そっとつぶやいた。

「……この声で、世界を守る。もう、二度と壊させない」


風が吹き、遠くで鐘が鳴った。

その音が、まるで世界が“再び息をした”ように響いていた。


そのとき、頭の中にまたあの声。


『……あ、そういえば。チョコ、まだですか?♡』

「平和になった瞬間に甘い要求!? 女神様ぁ!!!」


空に笑い声がこだまし、

その音は――まるで“新しい時代の始まり”のようだった。

ここから世界は平和に向かっていきます。

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