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異世界転生したら魔王軍の通訳官に転職しました 〜スキルなしおじさん、言葉で世界を変える〜  作者: 四郎


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15/19

第15話 勇者、神を名乗る。

――人間領・前線司令本部。


まだ夜が明けきらない薄闇の中、

訓練場の中央で、ひときわ強い光が爆ぜた。


ドガァァンッ!!


地面が裂け、砂が浮かぶ。

振るわれた剣が残光を引き、空気が焼ける。

勇者――リュウガは、荒い息を吐きながら立っていた。


「……まだだ。まだ足りない」


手の中の聖剣が、脈打つように光る。

その光が彼の頬を照らし、まるで何かを急かすように明滅していた。


周囲で見ていた兵士たちは、誰一人声を出せない。

恐怖と敬意がないまぜになったまなざし。

それを背に、リュウガは静かに剣を下ろした。


(この力が……通じなかった?)


脳裏に、あの戦場の光景がよぎる。

砂煙。血。咆哮。

そして、あの声。


「下がるな! 恐れるな! 俺たちはまだ、生きてる!」


通訳官の声。

魔族を鼓舞し、全軍を動かした“あの男”――セージ。


あの瞬間、確かに感じた。

自分の剣が鈍った。

心の奥で、何かが“止まった”。


「……なぜ、あの声に惑わされた……?」


唇を噛む。血の味が広がった。


その時、背後から静かな声がした。


「勇者様」


振り向けば、一人の巫女が立っていた。

淡い金髪に、光の紋章が浮かぶ白衣。

“神託の巫女”――ルシア。


「また訓練を? 体を壊します」

「壊れたって構わない。俺が弱かったから……前線が崩れた」

「いいえ、あれは敵の策略です。あの通訳――“魔声の使い”です」


リュウガの目が細められる。

「魔声……?」

「はい。魔族に与する異端の人間。

声で人の心を操る、悪しき加護を持つ者。神の敵です」


「……そうか。なら、あいつは――倒すべき敵だ」


ルシアは微笑んだ。

その笑みはどこか、神殿の絵画に描かれる天使のように美しかった。

だが、どこか冷たい。


「神は申しております。“躊躇は罪”と」


「罪、か……」

リュウガはゆっくりと聖剣を見下ろした。

柄に刻まれたルーンが、脈のように光る。


(なら俺は、迷わない。

神がそう言うなら、俺はこの剣で――すべてを浄化する)



司令室では、参謀たちが慌ただしく動いていた。


「勇者隊の被害、七十名。再起不能が二十。

しかし、敵軍は整然と撤退したようです」


「……魔族が、秩序的に撤退? そんなこと、ありえんだろう」


「報告では、“声”による指示があったそうです。

遠く離れていた兵にも届いたとか……」


「声? 魔法通信か?」


「いえ……誰も詠唱を聞いていません。

ただ、“心に響いた”と……」


ざわめきが広がる中、リュウガが入室する。

会話が止まり、全員が頭を下げた。


「報告は聞いた。――セージの動きは?」


参謀が答える。

「魔族軍の通訳官として、兵たちをまとめ、戦場で“声”を使ったとか」


リュウガの拳が、ぎり、と鳴った。

「……あいつが、また口で人を操ったか」


聖剣の光が、怒りに呼応して強く脈打つ。

その光に照らされる顔は、もはや“英雄”ではなく――“信仰に呑まれた者”だった。


ルシアが一歩前に出る。

その瞳には、熱と確信が宿っている。

「勇者様。やはり、放置すべきではありません。

あの男の“言葉”は毒です。

人の心を惑わせ、神の教えをねじ曲げる……異端者そのものです」


リュウガは目を閉じ、静かに頷いた。

「……そうだな。俺もあの目を覚えている。

人間の皮をかぶった、魔族の代弁者だ」


ルシアはさらに言葉を重ねる。

「神は“異端を断て”と仰いました。

セージという男の存在そのものが、我らの信仰を汚しています。

あれを討つことが、この世界を浄化する一歩です」


「……浄化、か」


リュウガの唇がゆっくりと歪んだ。

その笑みにはもはや“人間らしさ”はなかった。


「いいだろう。神の名のもとに――あの男を処す。

剣で、声を封じる」


聖剣が眩しく光り、周囲の空気が震える。

参謀たちが思わず膝をついた。


ルシアが恍惚としたように言う。

「勇者様……それこそが、神の御心です」


リュウガの瞳に、光が宿る。

「神は言った。“信じぬ者は裁かれる”。

ならば、俺がその手になる。――神の代行者として」


聖剣を掲げ、リュウガは天を見上げた。

光の粒が舞い、まるで天が答えるように、白い輝きが広間を包んでいく。


その光の中で、彼の声だけが静かに響いた。


「セージ……次に会ったら、貴様の“言葉”を断ち切る」



――夕刻。

司令塔の地下、聖堂のような儀式の間。


淡い光が降り注ぐ中、リュウガはひざまずいていた。

その前には、神聖術師たちが円陣を組み、

中央の祭壇には、白銀の剣――新たな聖剣ルクス・アークが浮かんでいる。


「……ついに完成しました。神の意志を宿す、第二の聖剣です」

老神官が深く頭を垂れる。

「この剣は“裁き”そのもの。かの異端者をも、一振りで沈黙させるでしょう」


リュウガは静かに立ち上がる。

その瞳には、もう迷いの影はない。

「この力があれば……神の正義は揺るがない」


白光が広間を包み、剣が彼の手に吸い込まれていく。

聖印が肌に刻まれ、腕から肩へと光の文様が広がった。


「勇者様……!」

ルシアが一歩前に出る。

その目は、崇拝にも似た熱を帯びていた。

「まさに……神の祝福です」


「祝福……いや、これは試練だ」

リュウガの声は静かに震えていた。

「神は俺に問うている。“人の声か、神の声か”。

俺はもう、答えを選んだ」


聖剣が淡く唸る。

その刃から、まるで呼吸するように光が漏れた。


ルシアがそっと口を開く。

「……セージ。あの男を、どうなさいますか」


リュウガは剣を持ち上げ、光を見つめた。

「言葉で人を惑わす者――それが罪だ。

ならば、俺がその“声”を断つ」


「勇者様……それこそが、神の御心です」

ルシアは微笑みながら膝をつく。


「いいや、ルシア」

リュウガの声が、低く、ゆっくりと響く。

「神は俺に“剣”を与えた。

ならば――この剣を振るう俺こそが、神の意志だ」


聖堂の天井がきらめき、光の羽が舞う。

その姿は、もはや“救世の勇者”ではなく、

“裁きを名乗る神”そのものだった。


「次に会う時――セージ、お前の声は、この剣で断ち切る」


ルシアはその横顔を見つめ、静かに微笑んだ。

「神の声が、世界を導かんことを……」



夜。

リュウガは天幕の中で一人、聖剣を磨いていた。


刃に映る自分の顔が、どこか他人のように見える。

かつての俺は、ただの高校生だった。

どこにでもいる、普通の青年。


(本当に……これが神の力なのか?)


一瞬だけ、迷いが生まれる。

だが、次の瞬間――頭の奥に“声”が響いた。


『疑うな。進め。信じる者こそ救われる。』


リュウガの瞳が、再び光を宿す。


「……そうだ。俺は、信じる。

神の声に、俺の正義を預ける」


テントの外で、ルシアが月を見上げて微笑んだ。

その背後――夜空の雲が裂け、うっすらと光の亀裂が浮かぶ。


まるで、空そのものに“扉”が刻まれたように。



その夜、風が囁いた。


「勇者軍、再出撃の準備を開始――」


そして遠く、魔王城の鐘が鳴る。


セージたちが、まだ知らぬまま。

再び、“言葉と光”がぶつかる時が近づいていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

物語終盤です。

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