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ジニアの決意と努力


護衛といっても、ウィングのように四六時中ルシエルの隣に張り付いているわけじゃない。

俺の役目は、ルシエルの周囲で起こる“厄介ごと”の処理だ。


最近では――

「剣術学校の生徒同士が喧嘩して、収拾がつかないから仲裁に入ってほしい」

とか、

「生徒会の書類が一部消失したから調査してほしい」

とか。


まるで便利屋だ。

……いや、ルシエルは生徒会長でもあるから、護衛というよりは“雑務係”に近いのかもしれない。


まぁ、ルシエルの信頼が得られているなら悪くない。

だがそれより――今の俺には、もっと大きな課題がある。


筆記試験、だ。



「おぉ、メト。今回は赤点回避だな!」


担任のブルクス先生が珍しく笑顔を見せた。

点数はギリギリだが、俺にとっては大進歩だ。


これは完全に、ナエリアとジニアのおかげだ。

夜な夜な勉強を見てくれた二人には頭が上がらない。


(……なんか昔、大学の予備校で“平均点取って褒められるやつ”がいたけど、今の俺、まさにそれだな)


まぁいい。進歩は進歩だ。



ある日の放課後。

図書館の一角でノートをまとめていると、ジニアが神妙な顔つきでやってきた。


「メト……話がある」


「どうした? そんな顔して」


「……お前が言ってた通り、ルシエル先輩はいずれ王位継承戦をするはずだ」


「まぁ、避けられないだろうな」


「その時、俺は戦闘で役には立てない。だから――頭脳面でお前をサポートしたい」


(勝手に一緒に行く気満々じゃねぇか……まぁ、心強いけどな)


「助かるよ。お前の理論は俺の魔術には欠かせないからな」


ジニアは頷いた。


「そこで提案だ。俺にできること、何かあるか?」


俺は少し考えて、ふと口を開いた。


「じゃあ……俺が理論で組み立てた氷結魔法と雷魔法の“詠唱”と“魔法陣”を、正式な形にできないか?」


「……詠唱と陣の構築か。

理論はお前が持ってる。でも、構築には術式と流路の解析が必要だ。

ナエリアの魔力観測の精度も借りれば……可能かもしれない」


ジニアの目がわずかに輝く。


「面白い。詠唱による再現性を高めれば、誰でもお前の魔術を扱えるようになる。

つまり、“戦場の総合戦力”が跳ね上がる」


「そうだ。ナエリアにも使えるようになれば、前線がぐっと楽になる」


ジニアは手帳を取り出し、すでに何かを書き始めていた。


「よし、まずは“氷結”から始めよう。流路の温度変化を安定させる詠唱パターンを探す。協力してくれ」


「もちろんだ!」


こうして――

俺たちは、新たな魔術体系の研究を始めた。

王位継承戦に向けて、戦力を整えるために。

ーーーー


「静寂の霧をまとう氷精たちよ、我が声に応えよ。

熱を奪い、時を止め、敵を鎖で封ぜよ――

《フロスト・バインド》!」


ナエリアの声が訓練室に響いた。

空気がわずかに震え、魔力の流れが一瞬だけ集束する――が、

次の瞬間、何も起こらなかった。


「……だめ、また失敗。」


詠唱も魔力制御も完璧なはずなのに、氷精たちは応えない。

ナエリアは眉を寄せ、唇を噛んだ。


ジニアが手元のノートを何度も見返しながら唸る。


「あぁ……精霊系の詠唱構文、理論上は合ってるはずなんだ。

呼びかけの単語も、“静寂”と“封印”を主軸にしてる。

でも……応答がゼロ。反応すらないってのはおかしい。」


「魔法陣はちゃんと光ってたし、構築も問題なさそうだったのにな……」

俺が首をかしげると、ジニアは悔しそうに頭をかいた。


「くそっ……やっぱり一から詠唱を作るって、相当ハードル高いな……!」


その様子を見ていたナエリアが、そっと声をかける。


「ジニア、ちょっと休みなよ。

王位継承戦の予兆はまだないんだし……焦らなくても大丈夫。」


ジニアは深く息をつき、そして苦笑した。


「……いや、休めないよ。

今、すごく楽しいんだ。

頭の中で理論が少しずつ繋がっていく感覚がある。

あと少しで、“何か”掴めそうなんだ。」


ナエリアは目を細めて、少し心配そうに言う。


「……ほんと、研究になると止まらないんだから。」


(まぁ、それがジニアの強みでもあるんだけどな……)


俺はため息をついて、別の方法を考えた。

理論班が詰まってるなら、外部の知恵を借りるのも手だ。


俺は詠唱学の教師、カリュス先生の研究室を訪れた。

机には無数の古書と巻物が積み上がり、魔法陣が描かれた黒板には

複雑な詠唱式がびっしりと書かれている。


「ふむ……なるほどね。

ジニア君が詰まるのも無理はない。

メトルナーサ君の魔術体系は、そもそも既存の詠唱理論と合っていない。」


「……どういうことですか?」


「普通、詠唱は“魔力の流れ”と“言葉の響き”を同調させて発動する。

でも君の魔法は、“理屈”で現象を再現している。

これは、構築型魔術じゃなくて、理論再現型に近い。」


先生は鼻と口の間に指を当て、静かに言った。


「どうしてもアドバイスを出すなら――

**“魔術形式”**を、一度ゼロから見直してごらん。

詠唱、魔法陣、イメージ、魔力流路……どれかが根本的にずれてる。

だが、それを正せば、“新しい体系”が生まれるかもしれない。」


「……ありがとうございます!」


俺は深く頭を下げ、研究室を後にした。


(“魔術形式”の見直し……)

正直、俺にはちんぷんかんぷんだが、ジニアに伝えれば何かひらめくはず。


ナエリアは俺の顔を見て微笑んだ。


「また何か、掴めそう?」


「……ああ。先生が言ってた。“新しい体系”って言葉が、ちょっと気になる。」


「そっか……じゃあ、次はそれを試してみよう。私も手伝うから。」


研究の道はまだ遠い。

だが、少しずつ、確実に前へ進んでいる気がする。

ーーーー


ある日、寮の中庭で魔力の流れを整えていた俺のもとに、

大きな翼の影がふわりと降り立った。


「……ウィング先輩?」


振り向くと、純白の翼をたたみながら、ウィングが静かに立っていた。

鋭くも穏やかな眼差し――前回の戦いの時とはまるで別人のような雰囲気だった。


「やあ、メトルナーサ。急にすまないな。」


「いえ……今日はどういったご用件で?」


俺が姿勢を正すと、ウィングは手を軽く振った。


「そんなに畏まらなくていい。

敬語なんて、俺は好きじゃない。

お前とは――対等な仲間として関わりたい。」


その言葉に、思わずまばたきをした。

ウィングが“対等”という言葉を使うなんて、少し意外だった。


「今日はな、親睦を深めたくて来たんだ。」


「親睦……ですか?」


「そうだ。

どうやら、ルシエル様とお前の生徒会長が合同交流会を開くらしい。

形式はトーナメント戦。

こちらから5人、そちらからも5人――計10名のチーム戦になる。」


「……トーナメント?」


ウィングは頷いた。


「形式上は“交流”だが、実際は実戦訓練に近い。

腕を磨くいい機会だ。

そして――当然、お前にも参加してもらう。」


(……マジかよ)


あの戦闘狂のウィングが出るなら、

再戦の可能性もあるってことじゃないか。


「……王位継承戦が近いって噂もあるのに、交流会なんてしてていいんですか?」


「戦は、避けられぬ時に備えるものだ。

だが――戦を制する者は、常に“力”を磨いている。

今のうちに己の限界を知れ。そういうことだ。」


まるで戦場を見てきた戦士の言葉だった。


ウィングはふっと笑みを浮かべ、背中の翼を広げた。


「今日はそれを伝えに来ただけだ。

詳細はルシエル様から追って通達がある。準備しておけ。」


そして一度、俺の肩に手を置いた。


「次に会うときは、共に戦う仲間としてでありたい。」


その言葉を残し、

ウィングは大空へと舞い上がっていった。


風が巻き起こり、白い羽が一枚、俺の足元に落ちた。


「……共に、戦う仲間……か。」


思わず、拳を握る。

交流会――トーナメント。

そこには、また新たな試練が待っている気がした。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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