試練の白光
視界が白い光に包まれ――次の瞬間、鋭い金属音が耳を打った。
「そこまでだ、ウィング!」
鋭い声が響く。
光が収まった先で、俺の前に立ちはだかっていたのは――さっきまで黙って見ていた、天人族の王子だった。
「……っ!? 王子……?」
彼は静かに剣を構え、ウィングの前に立つ。
その瞳には、迷いのない確信が宿っていた。
「ウィング、もういいだろ。お前もわかっているはずだ。
――こいつは、やっていない。」
静寂。
風が吹き抜ける音だけが響く。
ウィングはしばらく俺を見つめていたが、やがて深く息を吐いた。
気の流れが収まり、彼の周囲を覆っていた光が消える。
「……すまない。」
低く、重い声。
「久しぶりの戦闘で……楽しくなってしまったようだ。
疑いをかけておきながら、この有様だ……」
ウィングはゆっくりと剣を納め、俺の方へ歩み寄る。
そして――迷いなく、俺に手を差し出した。
「俺の勘違いだ。……昔の恩人が殺されたことで、冷静さを失っていた。
すまなかった、エムリス・メトルナーサ。」
純白の翼が、静かに揺れる。
その姿は威圧ではなく、今はただ誠意そのものだった。
俺は戸惑いながらも、その手を握り返した。
「……やめてくださいよ。僕も……いい経験になりました。
まさか、“本気の天人”と戦うことになるとは思いませんでしたけどね。」
軽口を叩きながらも、心の奥ではまだ震えが残っていた。
――本気を出していたら、確実に負けていた。
ウィング、あまりにも強すぎる。
(魔人王との決戦……こんな戦力、ぜひ欲しいところだ……)
その時、王子が一歩前に出た。
落ち着いた声で、俺に向かって言う。
「ウィングが疑ったこと、私からも謝罪する。何か、望むことはあるか?」
「え、望むこと……?」
俺は少し考えた。
“ウィングが欲しい”なんて、流石に図々しすぎる。
でも、彼の力は間違いなく必要だ。
ならば――。
「……では、こういうのはどうでしょう。
王様が亡くなった今、王都は混乱していると聞きます。
もし、後継争いや政変が起こるようなことがあれば……
僕が“護衛”としてお手伝いさせていただけませんか?」
王子の眉がわずかに動く。
「護衛……として?」
「ええ。僕は戦闘に特化しています。外敵や暗殺者の排除なら自信があります。
今はまだ未熟ですが、いずれ必ず、天人族の力になれるはずです。」
静寂。
王子はしばらく考え込み、やがて穏やかに頷いた。
「……いいだろう。ウィング以外にも伝えておく。後日、正式に連絡を入れる。」
ウィングも口を開いた。
「今はまだお前の力を完全には測れていない。だが――戦場で共に立てばわかるだろう。
その時までに、さらに強くなれ。」
「……はい。」
王子は付き人の天人族に目配せをした。
「そこの君、彼らを寮まで送り届けて差し上げなさい。」
「はっ。」
ウィングは俺にもう一度、深々と頭を下げた。
その姿に、周囲の観客たちは静まり返っていた。
誰もが、ウィングが誰かに頭を下げる姿を、初めて見たのだ。
⸻
闘技場を出ると、ナエリアが駆け寄ってきた。
「メト!! 大丈夫!?」
彼女はすぐに治癒魔法を展開し、俺の肩の傷口に温かな光を当てる。
痛みが和らぎ、血が止まる。
「……助かる。ありがと。」
「もう……心臓止まるかと思ったよ! なんであんな危ないこと……!」
「俺も望んでやったわけじゃないんだけどな……」
ナエリアの目には、うっすら涙が滲んでいた。
その姿に、少しだけ胸が痛んだ。
ジニアも駆け寄ってくる。
「おい……お前、“フィジカル・シングル”使えたのかよ!?」
「……まぁ、父親が教えてくれたから」
ジニアが呆れながらも感心している。
ナエリアはため息をつきつつ、微笑んだ。
「でも……よかった。無事で。」
「……ああ。」
完膚なきまでの敗北だったが、生きて帰れたのだからよしとしよう
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
闘技場での戦いから一日。
体の傷も癒え、夜の男子寮には穏やかな灯りがともっていた。
俺は、部屋の共用ラウンジで3人のルームメイトとテーブルを囲んでいた。
メンバーは――
・ジニア:筆記満点の理論魔術オタク
・レイセル:感覚派の火属性使い。勢い重視の直感型
・カイロ:情報通で噂好き、補助魔法を得意とする分析型
そして俺、メト。
雑談の流れは自然と“恋バナ”に転がっていった。
「なぁメト。お前、ナエリアちゃんと付き合ってるって噂……あれ、マジなん?」
レイセルが火の玉を指先で転がしながら、にやにやと聞いてくる。
「いやいや、付き合ってない。
ただの幼馴染だよ。勉強とか訓練を一緒にしてるだけ。」
「ふーん……
“ただの幼馴染”が一緒に勉強して、毎日行動して、噂になるって、
もうそれ“ただの”じゃないと思うけどな~?」
カイロが、悪戯っぽく目を細めて突っ込んできた。
「ち、ちがうって! あいつは真面目で、俺がバカだから仕方なく面倒みてくれてるだけだ!」
「おお、出た“言い訳詠唱”!」
レイセルが笑いながら、炎の小球をパチッと弾かせた。
場が笑いに包まれる。
「……で、ジニア。お前はどうなんだ?」
俺が話を振ると、ジニアは淡々と答えた。
「僕? 恋愛には興味ないね。
構築式と詠唱律の研究のほうが、よっぽどロマンチックだよ。」
「出たよ!また理論脳!」
カイロが吹き出す。
「恋愛なんて不安定な変数だらけだろ?
だったら“魔力流路の安定化”を研究してる方がよっぽど美しい。」
「……それを言われると、なんか反論できねぇ。」
俺たちは顔を見合わせて、また笑った。
⸻
笑いが落ち着いたあと、カイロが真面目な顔になった。
「でもさ、こうして笑って話してるけど……
昨日の戦い、見てたやつらはみんな震えてたよ。
ウィング先輩、強かっただろ。」
「……ああ。」
俺は肩をさすりながら、小さく息を吐いた。
まだ、剣の風圧が肌に残っている気がした。
「正直、怖かったよ。でも……
“気”っていう力を目の前で見て、興味も湧いた。
あれ、魔力とはまったく別の制御だ。」
ジニアが顎に手を当てる。
「うん、観測データ的にも“気”は魔力と違う波形だった。
体内の流動エネルギーを意識で増幅する……まるで、生体式魔力回路の変形だね。」
「おいおい、理論の話やめろよ~。せっかくの夜だぞ?」
レイセルが笑いながら、ベッドに寝転ぶ。
「いいじゃん。こういう時こそ語るんだよ、未来の大魔導士たちがさ。」
そう言ってカイロが笑うと、俺もつられて笑った。
⸻
気づけば夜は更け、窓の外には満天の星。
部屋には笑いと、焚き火のような温かさが満ちていた。
(……悪くないな。
前の俺なら、こんな時間、想像もしなかった)
“復讐”だけを胸に抱いていた頃の俺には、
仲間と笑い合う夜なんて、縁のないものだと思っていた。
けれど今は違う。
共に学び、戦い、笑う仲間がいる。
――それが、少しだけ俺を強くしてくれる気がした。
「さて……明日も授業か。寝るか?」
「おう。俺、明日の“詠唱基礎”すでに不合格の未来が見える。」
「じゃあ俺が特別講義してやるよ、“恋人にしたくなる魔法陣の描き方”をな!」
「いや誰もそんなの求めてねぇ!!」
また笑いが響く。
静かな夜が、魔法学校の寮に優しく降りていた。
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