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筆記0実技満点


学校についた瞬間、目の前に広がる光景に圧倒された。

門の前には、試験を受ける受験生の波。

ざっと見ても数百人。

皆、緊張した面持ちで、魔導書や詠唱ノートを握りしめている。


「すごい人数……」

ナエリアが少し不安そうに呟いた。


「まぁ、受かるのは一握りってことだな」

俺は落ち着いて答えた……(つもりだった)。


――が、内心では少しだけ緊張していた。

何せ、こういう“集団試験”は久しぶりだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

長机が整然と並ぶ広い講堂。

受験生たちは席につき、静寂が訪れる。

試験官が入ってきて、威厳ある声で告げた。


「これより筆記試験を開始する。

内容は、魔力制御理論・魔法陣構築・詠唱式の基礎知識だ。」


……詠唱式、か。


俺は魔法を“理屈”で操る。

詠唱なんて使ったことがない。


まぁ、なんとかなるだろ――と思っていた。


が。


1問目を見て、俺は固まった。

『問1:E級水魔法ウォーターショットの詠唱を正しく書きなさい。』

……え?

詠唱って、何だっけ?

「水よ集え」とかそんな感じ?いや、違うのか?

2問目。

『問2:火属性魔法陣を安定化させるための定数を選びなさい。』

定数?知らん。使ったことない。

3問目。

『問3:魔力流路の詠唱律におけるテンポの基準を答えよ。』

テンポ?歌なのか?

……完全に詰んだ。

頭の中が真っ白になった。

「……詰み、確定」

俺はため息をつきながら、1問目を見直す

やっぱりわからん。2問目も。3問目も。

「……うん、とばそう。」

次。

……わからん。

次。

……知らん。

次。

……読めん。

――気づけば、最後のページまで「とばす」を繰り返していた。

終了の鐘が鳴る。

試験官の声が響く。

「筆記試験、終了です。答案を前に出してください。」

俺は真っ白な用紙を提出した。



「……ゼロ点、確定だな」


隣のナエリアは、ペンを置きながらホッと息をついた。


「難しかったね。でも、詠唱は練習してたから何とか……」

「そ、そうか……俺も、まぁ、ぼちぼち……」


笑顔で誤魔化すが、心の中は冷や汗だらけ。


(やばい……俺、理論派すぎて、詠唱なんも知らんじゃん……)


でも――落ち込んでる暇はない。


「ま、まぁ実技で巻き返そう」


俺は自分に言い聞かせた。


実技なら、誰にも負けない。

詠唱なんて関係ない、“本物の魔法”を見せてやる。


拳を握り、俺は実技試験会場へと歩き出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


筆記試験が終わり、俺は気持ちを切り替え、実技会場へと足を運んだ。


そこは巨大な円形の闘技場のような場所だった。

中心には、魔力を吸収する特殊素材で作られた“サンドバッグ”のような標的が並んでいる。

観覧席には試験官たちが座り、一人ひとりの魔法を見極めていた。


「最初の課題は――」

試験官が声を張る。

「“自分が使える中で最も得意な魔法”を標的に撃て。

威力・制御・構築速度を評価する。」


……なるほどな。

手加減しなきゃ、たぶんこの会場が吹き飛ぶ。

壊さず、“ヤバい奴”だと印象づける。

それが今回の目的だ。


周囲の受験者たちが次々と前へ出ていく。

一人目の少年は大きく息を吸い、詠唱を始めた。


「紅蓮の炎よ、燃え盛りて我が敵を焼け――ファイアブラスト!!」


轟音とともに炎がサンドバッグを焼き焦がす。

試験官が「威力D級、安定性良好」とメモを取る。


次の受験者は風属性。

「荒ぶる風よ、刃となれ――ウィンドカッター!」

斬撃がサンドバッグを切り裂いた。

評価はC級。

会場にどよめきが走る。

「すごい……C級だって!」

「やっぱこの学校の受験者、レベル高いな……」


俺は静かに目を閉じた。

……そういえば、バハラもこのくらいだったな。

あいつ、強かったよな。

俺に負けたけど、努力家だった。


――さて、俺の番か。


試験官の声が響く。

「次、エムリス・メトルナーサ。」


俺はゆっくりと標的の前に立つ。

周囲の視線が集まるのを感じる。


(さて……何を撃つか。氷結は強すぎるし、爆発は危険すぎる。

壊さず、でも印象を残す……なら、雷魔法だな。)


俺は手を前に出し、魔力を集中させる。


雷の本質は、“電位差”による放電現象。

魔力で空気中の電子を偏らせ、正と負の極を作り出す。

高電圧を形成し、一気に解放することで、稲妻が生まれる。


原理は単純。

でも、制御には緻密な計算が必要だ。


「――ライトニング」


バチィィィィィン!!!


眩い閃光と轟音。

稲妻が一直線に走り、サンドバッグを貫いた――と思った瞬間、

サンドバッグが、跡形もなく消滅した。


静寂。


砂煙だけが、ゆっくりと舞い上がっている。


試験官の顔が凍りついた。

審査員席にいた教師らしき人物も、慌てて立ち上がる。


「な、なんだ今のは!?」

「無詠唱……!?」

「いや、それ以前に、魔力出力がB級を超えていたぞ!?」

「詠唱なしで……高位属性魔法を……?」


会場がざわめく。

他の受験者たちの視線が一斉に俺に注がれる。

畏れと驚愕が混じった、熱のある眼差し。


俺は静かに手を下ろした。


「……ちょっと、強すぎたか」


サンドバッグの残骸もない。

まさか、分子レベルで分解してしまったか……。

まぁ、事故だ。うん。


試験官が震える声で告げた。

「……え、エムリス・メトルナーサ、実技評価……S。

詠唱なし、構築速度・制御・威力、すべて満点……!」


やったな。

筆記ゼロ点でも、これなら合格だろ。


(ま、満点確実だな……)


俺は軽く息を吐き、後ろに下がった。

観客席からはまだざわめきが止まらない。


「今の、なんだったの……?」

「詠唱してなかったよな?」

「いや、俺見たぞ。あれ、“構築”すらしてなかった!」


――うん、まぁ。

ちょっとやりすぎたかもな。


けど、悪くない。

これで俺が“ただの受験者”じゃないってこと、みんなに伝わったはずだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


第一次審査――つまり威力テストを通過した者だけが挑める、第二次審査。


内容は、実戦形式の模擬戦だ。

試験官の指示のもと、受験者同士が一対一で戦う。


ルールは単純。

相手を戦闘不能にするか、ギブアップさせれば勝利。

ただし――殺しは禁止。


つまり、手加減が求められる。

……これが一番、難しい。


俺は出場順を確認した。

相手の名前は「カシハ」。

中背の少年で、魔力量は平均より少し上といったところ。

落ち着いた目をしていて、油断はなさそうだ。


開始の合図が響く。


「始めッ!!」


カシハが素早く詠唱を始めた。

「聖なる水の精霊よ、我が呼びかけに応えよ――ウォータースピア!」


鋭い水の槍がこちらへ飛んでくる。

速度も精度も悪くない。

だが――まだ甘い。


俺は軽く息を吐き、片手を上げた。

「――フレイム」


掌から小さな火球を生み出し、水の槍へとぶつける。

瞬間、ジュッと音を立てて水蒸気が立ち上がった。


「なっ……!? 詠唱なし……!」


カシハが目を見開く。

俺は冷静に次の動きを見極めた。

(今のは最低出力。焦るな、まだ“強すぎる”と気づかせるな)


カシハがすぐに態勢を立て直す。

「大地の欠片よ、我が腕に集え。

空を裂き、敵を打ち砕け――

ストーンバレット!」


土の弾丸が連射される。

俺はその足元に魔力を流し込む。


「――アースウォール」


地面が隆起し、瞬時に土壁が形成される。

ストーンバレットは次々と壁に命中し、砕け散った。


防御成功。

監督席をちらりと見る。

試験官たちは何やらメモを取りながら、頷いている。


(感触よし。制御と対応力は見せられた。……そろそろ終わらせるか)


俺は静かに手を伸ばした。


魔力を地面に流し込む。

周囲の温度が一瞬で下がり、白い霧が立ちこめる。


――氷結魔法の原理は単純だ。

魔力を媒介として空気中の水分子の運動エネルギーを奪い、急速に凝固させる。

つまり、温度を下げるのではなく、分子の振動を止める。

物質の自由を奪う、完全なる“静止”の魔術。


「――アイスロック」


カシハの足元から氷が這い上がり、瞬く間に脚を包み込む。

「うわっ!? 足が――!? 冷てぇっ!!」


氷が地面ごと固定し、カシハは動けなくなった。

俺は攻撃の構えを取らず、ただ静かに見つめる。


「……これ以上続けるか?」


カシハは苦笑いを浮かべて、両手を上げた。


「……参った。ギブアップだ。」


試験官の声が響く。


「勝者、エムリス・メトルナーサ!」


歓声とどよめきが入り混じる中、試験官たちがざわついている。


「いまの魔法……初めて見る構築式だぞ」

「詠唱なし、しかも氷結!? 理論上はA級相当の制御だ……!」


俺は深呼吸をしながら、凍った地面を解放した。

氷が霧散し、温度が元に戻る。


カシハが息をつきながら言った。

「……お前、何者だよ……。あんな魔法、見たことねぇ」


俺は苦笑して答える。

「ただの受験者だよ。……たぶんね。」


こうして、俺は第二次審査を突破した

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


試験が終わって二日後。

魔法学園の掲示板前には、早朝から大勢の受験者たちが集まっていた。

息を呑むような緊張感が漂っている。

ざわめきの中、俺とナエリアも掲示板の前に立った。


「ね、ねぇメト……緊張するね……」

ナエリアの手が少し震えていた。

俺は苦笑しながら答える。


「大丈夫。ナエリアは筆記満点、実技も完璧だっただろ。落ちるわけない。」


「そ、そうだけど……メトは?」

「俺は……まぁ、筆記はゼロ点かもしれないけど、実技は問題ないだろ。」


ナエリアがくすっと笑った。

「相変わらずだね、メト。」


⸻そして、合格者の一覧が貼り出された。


人だかりが一気に押し寄せる。

名前を探す。上から順に、目で追っていく。


「……あった!リュミエラ・ナエリア!」

ナエリアが嬉しそうに叫んだ。

胸をなでおろすように笑う。


そして――


「……あった。エムリス・メトルナーサ。」


俺の名は、一番上に記されていた。


しかも、その横には金の文字でこう刻まれている。

特待合格(主席)

「しゅ、主席……!?」

ナエリアが目を丸くして、俺を見た。「筆記ゼロ点なのに……?」

「いや……多分、実技の加点がエグかったんだろ……」

周囲のざわめきが一気に俺へと向く。「主席……?」

「あの少年だ」

「無詠唱で氷結使ってたって噂の……!」

一気に視線が集まり、正直居心地が悪い。

だが、その中で一人だけ――静かに俺を見ている少年がいた。

柔らかい髪、目元と頬に模様の入った整った顔立ちに、背中から伸びる純白の翼。

天人族特有の威厳をまとい、どこか孤高の雰囲気を放っている。

俺は視線を交わしたまま、小さく息を吐く。

この時はまだ知らなかった――

この少年が、のちに俺の運命を大きく変える存在になることを。

一方その頃、学園の職員室。

入学試験を監督していた三人の試験官が、資料を並べて話し込んでいた。

「……この“エムリス・メトルナーサ”という受験者、どう思う?」

一人がデータ表を指差した。

「筆記は……ゼロ点。だが、魔力制御、反応速度、構築速度、全てが規格外だ。

特に氷結魔法……あれは“詠唱構築なし”では理論的に不可能だ。」

「理論を超えている、ということか……」

「しかも、魔力量の波形が安定しすぎている。

まるで神が味方しているかのようだ。」三人の間に、沈黙が落ちた。

「ウィングぶりですよ、彼は」

一人が資料を閉じ、静かに笑った。

「間違いなく“特級”の逸材だ。

この学園に、新たな歴史が刻まれるだろう。」

掲示板前に戻る。

ナエリアが俺の腕を引っ張って笑う。「すごいよ、メト!主席合格なんて、本当にすごい!」

「……まぁ、筆記以外は頑張ったからな。」

そう言いながらも、胸の奥で小さな誓いが再び燃え上がる。

――ここからが始まりだ。

復讐を忘れたわけじゃない。

そして、もう一度“仲間”と生きるために。

俺の新しい日々が、今、幕を開ける。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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