復讐の炎と希望の光
両親が死んでから、三ヶ月が経った。
あの日から、俺の時間は止まったままだ。
ナエリアとの稽古もやめ、ただひたすら、机に向かい続けた。
目的はただ一つ――魔人族の王を殺すこと。
復讐の炎が、俺の心を焼き尽くしていく。
怒りと悲しみを、魔法の研究にぶつけた。
そして――俺は新たな魔法を生み出した。
氷結魔法。雷魔法。
どちらも、破壊力において今の俺の中で最強だ。
だが……それでも、胸の空洞は埋まらない。
⸻
その日、祖父母に呼ばれた。
居間に入ると、ナエリアの姿もあった。
彼女の顔には安堵と、少しの寂しさが浮かんでいる。
祖父母は静かに俺を見つめ、言葉を選ぶように口を開いた。
「メト……ユイラとトワフくんと、中等部から入るって約束したでしょ?
お金は心配しなくていい。私たちが全部出す。行きなさい。」
俺は少し考えてから、ゆっくりと答えた。
「ありがたいのですが……僕が中等部で学ぶことはありません。
魔法なら、もうB級までは使えます。入学まで七年もありますし……」
祖父の眉が、静かにひそめられた。
「メト……両親が亡くなって、辛いのはわかっている。
だがな……お前は“人”と関わらなさすぎだ。
どれだけ強くても、一人では立てない時が来る。
その時、支えてくれる仲間がいなければ――お前は、折れてしまうぞ。」
その言葉が胸に刺さる。
確かに、今の俺には「復讐」しかない。
けれど、それだけで本当に前へ進めるのか――?
祖父は、まっすぐに俺を見た。
「頼む。中等部から行ってくれ。……ナエリアちゃんも行くそうだ。」
ナエリアが、少し不安そうにこちらを見ていた。
心配をかけたことに、胸が痛む。
俺は深く息を吐いた。
「……わかりました。行きます。」
祖母が安堵の表情を浮かべ、ナエリアは微笑んだ。
こうして俺は、四年後の入学に向けて歩き出すことを決めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「久しぶりに……稽古、つけてくれない?」
ナエリアの声が静かに響いた。
俺は一瞬、返事に迷った。
だが、祖父の言葉が頭をよぎる。
――「お前は人と関わらなさすぎだ。」
小さく息を吐き、頷いた。
「……いいよ。」
ナエリアの表情がぱっと明るくなる。
彼女の魔力は以前よりも明らかに鋭く、安定していた。
恐らく、ギルドに入れば即戦力になるだろう。
その成長に、ほんの少しだけ胸が熱くなった。
「メト! 学校楽しみだね!」
三ヶ月も稽古を無視していたのに、彼女は変わらず笑っている。
まるで、全部を許してくれたかのように。
「……楽しみだね。」
口ではそう言ったが、心の奥はまだ濁っている。
復讐の炎が、消えずに燻っていた。
それでも、ナエリアは何度も話しかけてくれた。
その度に俺は、無意識に素っ気ない返事をしてしまう。
気づけば、彼女の笑顔を見るのが怖くなっていた。
――最低だ。
こんなにも優しくしてくれるのに、俺は何をしている。
「そういえば……」
ナエリアがふと思い出したように言う。
「最近、魔術の研究してたんでしょ? どんな魔術?」
俺は少し間を置いて答えた。
「……氷結魔法とか、雷魔法とかかな。
新しい魔法を……いくつか、開発してた。」
「へぇ、すごいじゃん! さすがメトだね!」
屈託のない笑顔。
それを見て、胸が痛くなる。
あの日、誓った家族との幸せを守れなかったことが頭をよぎる。
でも――この笑顔だけは、もう失いたくない。
(この子のことは……必ず守る)
その瞬間、心の奥で何かが静かに動いた。
復讐だけだった世界に、ひとつ“光”が差し込む。
「……ナエリア。次の稽古も、一緒にやろう。」
「うん! もちろん!」
もう、無視もしない。
もう、冷たくもしない。
俺は――もう一度、人と向き合うおう、そう思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれから七年――。
両親を失ったあの日から、俺はひたすら前だけを見てきた。
復讐の炎は、今も胸の奥で静かに燃えている。
けれど、毎日欠かさず続けてきた稽古と魔法の研究が、少しずつ俺の心に“余裕”という風を運んでくれた。
そして今、俺は十四歳。
隣には、いつも通り笑顔のナエリアがいる。
「試験、緊張するね」
ナエリアが少し不安そうに言った。
「何言ってんだよ。ナエリアは胸張って踏ん反り返ってれば合格だよ」
俺が冗談めかして言うと、彼女はクスッと笑った。
「そんなわけないでしょ。メトだって一緒に受けるんだから、ちゃんと緊張してよ」
「俺は余裕だよ。B級魔法まで使えるんだぞ?中等部レベルの試験なんて楽勝だ」
言いながらも、ふと横顔を見つめて思う。
ナエリアは、この七年で驚くほどの美少女に成長した。
銀の髪は陽光を受けて輝き、瞳にはまっすぐな意志が宿っている。
……学校に行ったら、絶対モテるだろうな。
そう考えると、なんだか胸の奥が少しだけモヤモヤした。
「どうかした?」
「いや、なんでもない。……行くか、明日はいよいよ試験だしな」
⸻
入学試験前日。
祖父母は玄関先で見送りの準備をしていた。
「もう行くのかい……。メトがいなくなると寂しくなるねぇ」
祖母が目を潤ませながら言う。
「そんなこと言うなら行かないけど?」
「もう、そんな意地悪言わないの。……これはね、決まり文句なんだよ。行ってらっしゃい」
「行ってきます。おじい様も元気で」
「おう。気をつけてな」
ナエリアも両親に別れを告げていた。
いよいよ出発の時――。
「さて、魔法学校に出発しますか!」
「おー!」
……と言ったものの、ふとナエリアが首をかしげた。
「ねえ、どうやって行くの? まさか……徒歩?」
俺はにやりと笑って、手を差し出した。
「捕まってろ、ナエリア」
「えっ……えっ?」
俺は魔力を手のひらに集中させる。
火と風――二つの元素を組み合わせ、燃焼反応を瞬間的に起こす。
急激な酸化・発熱反応が空気を高温・高圧に変え、掌で圧縮された魔力がうなりを上げる。
「――エクスプロード!」
ドンッ――と空気が弾け、強烈な爆風が足元から突き上げた。
次の瞬間、俺とナエリアの体は宙に舞い上がる。
「きゃああああああああ!?!?!?」
風が頬を叩き、視界がぐんぐんと広がっていく。
地面が一気に遠ざかり、雲が目前に迫る。
「どうだ! これが俺の新魔法、爆発推進だ!」
「こんなの聞いてないってばぁぁぁ!!」
ナエリアの叫びが空に吸い込まれていく。
でも、その声はどこか楽しそうだった。
俺は思わず笑った。
――あの日、何も守れなかった俺が、
今はこうして誰かと笑い合い、空を翔けている。
風が頬を撫でる。
新しい日々の始まりを、爆風が告げていた。
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