晴天の影
朝になった。
天気は清々しい――だが俺の顔色は最悪だ。
あの悪夢のせいでほとんど眠れなかった。
(この世界、悪夢を見せる魔法でもあるのか?)
……まぁ、考えても仕方がない。
今日の昼にはルシエル様に別れを告げ、王都を発つ。準備をしなければ。
宿を出ると、すでにウィング・ナエリア・ジニアの三人が待っていた。
ナエリアが頬を膨らませて言う。
「もぉー、集合時間から遅れすぎだよー!」
俺は苦笑して肩をすくめた。
「悪い、ちょっと寝不足でさ。」
好青年を装いながら。
ジニアが腕を組みながら呟く。
「まぁ、早めに集合時間伝えといて正解だったな。」
(……絶対俺の取扱説明書、裏で作ってるだろ)
ウィングが確認するように言う。
「昼にルシエル様と会食、その後に出発だな?」
「そうだ。俺たちは“天人国発ギルド”として登録されてる。
出発式もあるらしい。」
「了解だ。」
⸻
昼。
案内されたのは、王都でも最上級の高級料理店だった。
ナエリアが思わず目を輝かせる。
「こんないいとこ来たことないよ……!」
ルシエルが笑みを浮かべる。
「ナエリア。君には回復術師として大きな貢献をしてもらった。ありがとう。」
頭を下げる王に、ナエリアはあたふたと手を振った。
「そ、そんな……っ!」
ルシエルがすぐに姿勢を正す。
「さて、本題だ。――メトルナーサ。」
メイドが一枚の紙を俺の前に置く。
「これがギルドへの年間支援額だ。
復興で財源は限られている。正直、これが限界だ。」
紙にはこう記されていた。
年間支援金:白銀貨10枚
白銀貨10枚。
金貨換算で一千万近い。
俺は思わず息を呑む。
「……十分すぎます。ありがとうございます!」
深々と頭を下げた。
⸻
料理が運ばれてくる。
「魔大陸産の魔蟹獣の足をほぐし、甘酸っぱいフィフ果実のソースで……」
(要するに蟹ハンバーグのオレンジソース添え、ってことか。)
一口食べて、思わず頷く。
「うまい。」
「気に入ってくれたか?」とルシエル。
全員が無言で頷く。
ルシエルは満足げに笑った。
その後もメイン級の料理が三品。
ジニアは珍しく黙々と食べ続け、デザートまで完食。
結局、俺の分まで少し分けてやった。
⸻
食事を終え、外へ出たところでルシエルが言った。
「メトルナーサ、これを持っていけ。旅で役立つはずだ。」
側近が恭しく包みを差し出す。
中には――一本の杖。
龍の牙を象った柄に、拳大の魔法球。
一目で“最高級品”とわかる。
「こ、こんなの……受け取れません!」
ルシエルは笑って首を振った。
「父上の武器庫から出てきたものだ。
剣士のくせに杖まで集めていたらしい。
掘り出し物だ、気にせず持っていけ。」
俺は改めて礼を述べた。
⸻
1時間後、出発式。
天人国の民が見送る中、俺たちは玉座の間でルシエル、ヤムル、第一部隊隊長らと別れを告げた。
「メトルナーサ、ウィング。
この国はお前たちの旅の成功を祈っている。
――そして、いつかまたここで会おう。」
ルシエルの言葉に、俺たちは深く一礼した。
春風が吹く。
空は青く澄み、遠くの雲がゆっくりと流れている。
(……ここからが、本当の始まりだな。)
俺たちは天人国を後にした。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
面白かったら★評価・ブックマークで応援してもらえると励みになります!




