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隕鉄の審判


隕石は――囮だ。

悪いが、見方までだます。


「ウィング! ヤムル! 俺はこの魔術で恐らく魔力切れを起こす!

これで決めるぞ!!」


俺の叫びに、二人は即座に頷いた。

ウィングの翼が風を裂き、ヤムルが剣を構える。

二人はトゥワロへ突撃する。断魔の剣を前にしても、一歩も退かない。


俺は両手を天に掲げた。

魔力の練成地点を、上空数百メートル――断魔の剣の効果範囲外に設定する。

そこなら魔力は遮断されない。

地上の断魔領域に届かないほどの高さだ。


(断魔の剣の範囲は地表からおよそ50メートル……それ以上なら“干渉”されない。

だったら――あとは落とすだけだ。)


「鉄魔法――ランス!」


空の彼方で光が弾け、巨大な鉄の槍が形成される。

それは雲を貫き、重力に従って静かに落下を始めた。

まるで天の制裁。


だがトゥワロは黒翼をはためかせ、一瞬で察知。

軽やかに身を翻して避ける。

鉄槍は地面に突き刺さり、轟音を響かせた。

大地が震え、爆風が吹き荒れる。


「見え見えだな。」

包帯の下から、冷ややかな声が漏れる。


それでもいい。狙いはそこじゃない。

ウィングとヤムルの猛攻が、トゥワロをその場に釘づけにしていた。

断魔の剣が振るわれるたびに、空気が裂け、砂が爆ぜる。

黒い翼が風を巻き起こし、二人の攻撃を防いでいく。


そして――

俺の「もう一つの仕掛け」が、静かに動き出した。


雲の流れが重くなる。

空気が湿り、風が唸る。

上空の火魔法連射で加熱された空気が、上昇気流を作り出していた。


(そうだ……これでいい。これが本命だ。)


空が鳴る。

冷たい雨が降り始める。


「ちっ……雨か。厄介だな。」

トゥワロの黒翼が雨を吸い、わずかに重く沈む。

飛翔が鈍った。


その瞬間、俺は叫んだ。


「二人とも離れろ!!」


即座にウィングとヤムルが後退。

トゥワロはどちらを追うか、一瞬判断を迷った――。


上空で雷鳴が轟く。

そして、“隕石”が割れた。


閃光。

雷が鉄槍へと吸い込まれ、伝導した。


鉄は、最高の導体。

落雷は鉄槍を伝い、真下にいるトゥワロへ直撃した。


「――ッ!!」


青白い閃光が大地を貫き、空気が焼けた。

電撃は気の防御をも貫通する。

断魔の剣では“自然現象”を防げない。

トゥワロの体が硬直し、焦げた匂いが立ちこめる。


「……龍人族と契約していたか……!」

震える声が、雷鳴の中で響く。


俺はゆっくりと顔を上げた。

雨に打たれながら、静かに笑う。


「違いますよ。

隕石で隠して、上空に“火魔法”を撃ち続けていたんです。

その熱で空気を上昇させ――天候を、操作したんですよ。」


トゥワロの目がわずかに見開かれた。

気が乱れた、その瞬間――。


「今だ!!」


ヤムルとウィングが同時に跳ぶ。

二人の剣が交差し、黒包帯を裂いた。

そしてヤムルが低く呟く。


「さっきと状況が真逆だな。」


剣閃が走る。

黒翼が散り、トゥワロの首が宙に舞った。


雷鳴が遠ざかり、雨音だけが残る。


「……終わったのか。」


俺は、膝から崩れ落ちた。

体中から魔力が抜けていく。

上空で火魔法を撃ち続けた反動で、魔力回路が焼けるように痛い。


「ウィング……悪い。

ルシエル様の援軍……行けそうにないや……」


声が掠れ、視界が滲む。

そのまま、俺は静かに倒れた。


目を覚ました瞬間、視界がぼやけた。

白い天井、木の香り。――宿の自室だ。

重い頭を起こすと、横の椅子に座る影が目に入る。


「起きたか。」


静かな声。

ルシエルだった。

鎧は脱いでいるが、その眼だけはまだ戦場を映していた。


俺は慌てて体を起こし、姿勢を正した。

「ルシエル様……! 戦争の結果は――」


彼は口の端を上げた。

疲れを隠しきれない笑みだった。


「おかげさまで、勝利を得たさ。

 本当にありがとう、メトルナーサ。」


そう言うと、ルシエルはゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げた。

王族が、俺に頭を下げる――その光景に、思わず息を呑んだ。


「い、いえ……そんな。

 ルシエル様の作戦と皆さんの力があったからこそです。」


「お世辞が上手いな。」

ルシエルが小さく笑う。

だが、その笑みの奥には、どこか痛みがあった。


「……ヒンテ様は?」

恐る恐る尋ねる。


ルシエルの笑みが、静かに消えた。

彼は少しだけ窓の外を見てから、淡々と語った。


「王都は広い。

 だから虱潰しに探した。

 ヒンテの部下を一人、また一人と倒していったが……

 やっと見つけたときには、すでに遅かった。」


部屋の空気が一気に冷えた気がした。

ルシエルの手が、無意識に拳を握っているのが見えた。


「死んでいた。

 トゥワロ敗北の報を聞き、勝ち目がないと悟ったのだろう。

 ――自ら命を絶ったそうだ。」


沈黙。

雨音の残響が、頭の奥で響いたような錯覚がした。


「……そうですか。」


俺はただ、それだけを絞り出した。

ヒンテは敵だった。だが、同じように“王”を目指した男でもあった。

彼の最期を聞いて、心のどこかが少しだけ痛んだ。


ルシエルは静かに息を吐いた。

「これで、王位継承戦は終わりだ。

 公式には……俺が“新王”となる。」


「……おめでとうございます。」


「ありがとう。

 だが――喜びよりも、責任の方が重いな。」


ルシエルの瞳に一瞬、影が差した。

その視線は、窓の外に広がる青空の彼方を見つめていた。


「ところで、護衛の任務はここで終了だが……」

ルシエルが俺の方を見て言った。

「褒美をやらなければならない。何が欲しい?」


その声には、王としての威厳と、人としての誠実さが混ざっていた。

俺は一瞬迷ったが、温泉で話した“本当の目的”を思い出す。

今こそ、それを口にすべき時だ。


「ルシエル様。俺の目的は……“魔人王を倒すこと”です。」

その言葉に、ルシエルの表情がわずかに引き締まった。

俺は続けた。

「ヒンテを倒し、トゥワロを討ちましたが……あれはまだ前哨戦に過ぎません。

 魔人王と戦うなら、圧倒的な戦力が必要です。

 正直、俺とナエリア、ジニアだけでは……太刀打ちできません。」


ルシエルは静かに目を閉じ、腕を組んで考え込んだ。

しばらく沈黙が流れる。


そして、ゆっくりと口を開く。

「……確かに、今のままでは“届かん”だろうな。」


瞳が俺を捉える。

鋭く、しかし温かい光が宿っていた。


「よし、ひとつ案がある。」


そう言って、ルシエルは立ち上がった。

「ウィングを、お前のギルドに派遣する。それでどうだ?」


心臓が跳ねた。

(……計画通りだ。)


ウィング。

戦士としても人格者としても信頼できる。

そして、トゥワロ戦で俺と肩を並べた唯一の“戦友”でもある。


「ウィングがいいのであれば……非常にありがたいです。」


「よし、決まりだな。」

ルシエルは満足そうに頷き、口元に小さな笑みを浮かべた。


「後で正式な場を設ける。その席で公表しよう。

 ウィングには、先に俺から伝えておく。」


そう言って、ルシエルは椅子を離れ、扉へと向かう。

出口でふと振り返った。


「メトルナーサ。」


「はい。」


「後旅の途中に必要なものがあれば申し出ろ、支援できるのであれば支援する。」


「ありがとうございます」


ルシエルは微かに笑みを浮かべ、そのまま静かに出て行った。

扉が閉まると、部屋の中には静けさだけが残る。


(ウィングが仲間になる……。これで一歩、魔人王に近づいた。)


俺はベッドの縁に腰を下ろし、拳を強く握った。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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