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気の双層


ウィングとの修行は――ただただ、打ち込みだった。


剣戟の音が高原に響く。かつてヤムル軍と戦ったその地は、今では俺たちの修練場になっている。

焦げた岩の匂いがまだ残り、風が吹くたびに砂が舞い上がった。


ウィングが言うには、

「魔術を極めた者ほど、気の流れを掴むのは難しい」らしい。

そして、気を極めた者もまた、魔力の流れを理解しにくい。

互いに正反対の力。だからこそ融合は難しい。


だが、俺は「シングル」を使える。

つまり――“気”そのものの感覚は、確かにある。

あとは、慣れだ。


そのため、魔術の使用を一切禁じられた俺は、毎日ひたすらウィングと木刀を交わしていた。


「メトルナーサ! 気を乱すな!!

 一重で基盤を作れ! それが揺らげば、上に重ねても崩れる!!」


ウィングの叫びと同時に、木刀が唸る。

彼の一撃は速い。

受け止めた瞬間、骨が軋むほどの衝撃が腕を貫いた。


「胴がガラ空きだぞ!!」


ズドン――。

腹部に直撃。

体が浮き、右に吹っ飛ぶ。


「ぐはぁっ!」

心臓が口から出るかと思った。


ウィングが木刀を肩にかけ、俺に視線を落とす。

「メトルナーサ。打ち込まれる直前で“気”を乱す癖がある。

 それじゃ防御の意味がねぇ。」


蹲る俺に合わせて屈み込み、声を落とした。

「焦るのはわかる。だが、そういう時こそ落ち着け。

 気は“静”であってこそ強くなる。」


その声には、叱責よりも“期待”がこもっていた。


「ウィング。気を重ねるって……どんな感覚なんだ?」

「体の内部を“殻”で覆う感じだ。それを何層にも重ねていく。

 内側から外へ押し出すのではなく、“中身を包み固める”んだ。」


(なるほど……魔力は放出、気は内包。逆方向なんだ。)


「じゃあウィングがカバーしてくれたら勝てるんじゃね?」

俺が冗談めかして言うと、ウィングは即答した。


「勝てねぇな。クィンティプルは異次元だ。

 昔、創造神と戦った龍人族が使ったのが“デカプル”――十重気功だ。

 五重ってのは、神と渡り合った連中の“半分”だ。」


(それ……つまり、神の半分ってことか……)


「まぁ、クィンティプルに対抗できるのは、お前の魔術くらいだ。

 だが、その魔術を撃ち込むためには、まず“生き残る力”が必要だ。」


ウィングは額に手をやり、息を吐いた。

「ダブルでさえ、直撃を防げるかどうか……。それが現実だ。」


(……そんなバケモン、どうすりゃいいんだよ)


けど――逃げる気は不思議と起きなかった。

どこかで、挑みたいと思っていた。


「……ウィング。」

「なんだ?」

「僕に、ダブルを教えてくれ!」


ウィングがニヤリと笑った。

「やっと、その目になったな。」


空気が変わる。

風が止み、世界が“静”になる。


俺は目を閉じた。

体内の気の流れを感じる。

血流のように巡る力。

それを一枚の“殻”にまとめる――これがシングル。


そこからさらに、もう一層。

内側にもう一つ、自分を包む“壁”をイメージする。


「シングル……ダブル……!!」


――ドン。


内側から力が湧き上がる。

空気が震え、足元の砂が跳ねた。


「……成功したか!?」

ウィングの目が見開かれる。


「少し早ぇが……血族の影響かもな。

 よし、俺も本気でいく。打ち込んでこい!!」


全身に熱が走る。

俺は踏み込み、地を蹴った。

一瞬で距離を詰め、ウィングの懐へ――。


「……速ぇ!」


だが、初めての感覚に体が追いつかない。

空振り。


「これが……ウィングが言ってた“体が追いつかねぇ”ってやつか!」


ウィングがカウンターで木刀を振り下ろす。

だが、今の俺は違う。

反射で身体が動いた。

木刀をギリギリで避ける。


「気を重ねると、違うだろ?」

「……ああ、まるで体が軽い!」


「その状態のまま、魔術も混ぜてみろ!」


ウィングが“風切の太刀”の構えをとる。

俺は即座に土魔法で壁を生み出した。


だが、それだけじゃ終わらない。


「ここが爆心だ」と意識を一点に集中させる。

空気の流れが止まり、視界の奥に“点”ができた感覚。

世界が、その一点のために息を潜める。


体内の魔力を一点に押し潰す。

風船を限界まで膨らませるような、内側から皮膚が裂けそうな感覚。

その中心に――小さな星を握るような熱が生まれた。


周囲の空気を魔力で吸引し、「酸素過剰状態」を作る。

“魔力の風”で空気を渦のように巻き込み、酸素を濃縮させる。

圧縮魔力に対して別方向から“逆相位の魔力振動”をぶつける。

魔法理論上は「波長の打ち消し=構成式崩壊」。

その結果、魔力が一瞬で熱エネルギーに変換され爆発。

爆発魔法だ!


掌で小規模な爆発を起こし、爆煙を利用してウィングの死角へ。

背後に回り込み、木刀を振り下ろした。


「完璧だ……!」


ウィングが笑う――だが、次の瞬間。


「甘ぇよ。」


風が裂けた。

ウィングの翼が一閃、俺の木刀を薙ぎ払い、

そして振り返りざま、木刀の切っ先を俺の首元に――寸止め。


「……降参。」

俺は木刀を下げ、両手を上げた。


ウィングは笑いながら言った。

「予想以上だ。魔術と気の融合――これほど厄介とはな。」


「それ、褒めてます?」

「もちろんだ。」


笑った。

けど、体は笑ってなかった。


全身に激痛。

血管が焼けるように痛い。

これが――“ダブル”の反動。


でも、確かに感じた。

殻の二重構造。

これが、俺の“力”の新たな始まりだ。


(痛みは……贈り物だな)


戦いまで、あと三日。

ようやく、“準備が整った”気がした。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

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