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戦の黎明


ヤムルからの報せを聞いたのは、夜明け前だった。


冷たい風が天幕の隙間を抜け、ランプの炎を揺らす。

重苦しい沈黙の中、ルシエルが口を開いた。


「……トゥワロという男。

 魔人王直属の配下、そして――魔人族と天人族のハーフだそうだ。」


ナエリアが息をのむ。

その場にいた全員が、ただの戦士ではないと直感した。


「さらに、奴は“気”をクィンティプル――五重まで扱える。」

ルシエルの声は落ち着いていたが、その奥には確かな警戒があった。


「グィンティプルか……ウィング、できるか?」

ルシエルが振り返る。


ウィングは静かに首を横に振った。

「今の段階では無理だな。

 できたとしても――体がもたない。」


その言葉には、自分への苛立ちがにじんでいた。

彼ほどの戦士でも届かない領域。それが“五重”だった。


ルシエルは息をつき、眉をひそめる。

「おまけに“断魔の剣”か。

 魔術師であるメトルナーサには、最悪の相性だな。」


重苦しい空気。

“打つ手なし”という現実が、全員の胸を締めつけた。


だが、その沈黙を破ったのは――ジニアだった。


「断魔の剣は、破魔の剣とは異なります。」


皆の視線が一斉に集まる。

ジニアは冷静に、しかし目だけは鋭く光っていた。


「破魔の剣が“魔力そのもの”を打ち消すのに対し、

 断魔の剣は“魔力の練り”を妨害する。

 つまり――魔法の構築過程を断つんです。」


「……つまり?」

ルシエルが腕を組む。


「範囲内では、魔力を錬成したり、放出したりすることができません。

 ですが――範囲外で魔法を完成させておけば、その効果は消えない。

 断魔の剣は“形成済みの魔法”までは断てません。」


ナエリアが小さく息を呑んだ。

「じゃあ……メトが遠距離から撃てば……」


「理論上、通ります。」

ジニアは頷く。

「ただし、問題は“範囲”です。

 五重の気功――クィンティプルは、過去に記録がありません。

 断魔の剣の効果範囲も未知数です。」


ルシエルがうなずいた。

「つまり、最初のうちは接近戦を避けるのが得策ということか。」


「はい。ですが、トゥワロの動きを封じるためには、

 誰かが前線で引きつける必要があります。」


ジニアの目が俺に向く。

「いくらメトほどの魔術師でも、近接は……無理がある。」


そう言われて、少しだけ歯を食いしばった。

――自分でもわかっている。

魔法の才能があっても、体術は苦手だ。

気功なんて、まともに使えた試しがない。


だが、ルシエルはそこで立ち上がった。


「……今日から一週間だ。」


その声が、空気を一変させた。

「ウィング、メトルナーサに“ダブル”を教えろ。

 いけるか?」


ウィングが真っ直ぐに俺を見た。

「……メトルナーサの頑張り次第だ。

 いける――“限界までやる”ならな。」


(……気の流れを読むの、俺は苦手なんだよな)

頭の片隅で、昔のトワムの教えを思い出した。

“気とは、命を巡らせる意志の流れだ。

 止めず、焦らず、流れを見ろ。”


……でも、俺にはまだ見えない。

見えないまま、いつも魔力で誤魔化してきた。


ルシエルの視線が俺に向く。

その目は、信頼でも脅しでもなく――試す者の目だった。


「メトルナーサ。

 いけるな?」


一瞬の沈黙の後、俺は深く頭を下げた。


「――尽力を尽くします。」


「それでいい。」

ルシエルの声に迷いはなかった。


こうして、俺とウィングの修行が始まった。

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