魔人王の干渉
「カリウス……ルシエルのところはどうだった」
静かな声で問うのはヤムル。
その鋭い眼差しは戦場を見据えながらも、どこか弟への複雑な想いをにじませていた。
カリウスは指を唇に当て、妖艶に微笑む。
「ん〜、ウィングちゃんが相変わらず安定で強かったわぁ。
あの子、ほんっと筋がいいのよねぇ……♡
それにねぇ、後衛にいたのよ。――B級魔法を詠唱なしでバンバン撃つ、えげつない子が。
あたし好みの、ちょ〜っと可愛い顔してたわぁ〜」
「……お前なぁ」
ヤムルが額を押さえる。
「まぁいい。ウィングには勝てるか?」
カリウスの笑みが一瞬で消えた。
目の奥が鋭く光り、戦士の顔になる。
「勝てるわよ。ええ、勝てるに決まってるじゃない。
――ふふっ、ヤムルちゃんが王になる日は近いわね♡」
その時――。
空の彼方から、“黒”が落ちてきた。
風が止み、大地がざわつく。
空気が重く、冷たく、そして――禍々しい。
「……ッ!?」
カリウスの背筋を“死”がなぞる。
「ヤムルちゃん!! 全軍に伝えて! 戦闘体制、今すぐよッ!!!」
天が裂ける音が響いた。
そこから降りてきたのは、“天使”でも“魔”でもない。
黒い翼。
黒い髪。
白銀の肌。
口元を覆う黒包帯。
その存在が一歩踏み出すたびに、空気が死ぬ。
音が遅れ、光が鈍る。
ただ“在る”だけで、世界の法則が歪んでいく。
「……魔人族……いや、違う……混ざってる……」
カリウスが剣を構えた。
艶やかな唇が震えるが、瞳は一切揺らがない。
「何者なの……あんた……?」
包帯の下から、くぐもった声。
「名はトゥワロ。
魔人王直属の配下。
魔人王の命で、ヒンテの側にある者だ。」
次の瞬間、黒い“気”が弾けた。
世界が潰れた。
地面が陥没し、空気が押し潰される。
視覚より先に、魂が恐怖を感じた。
カリウスが迎撃しようと剣を抜いた――が、
抜けなかった。
そこにあったはずの手が無かった。
「……やっぱり、化け物じゃないの……!」
左腕を失った痛みを無視し、右腕に“気”を集中させる。
「フィジカル・トリプル!!」
青白い光が全身を包み、筋肉が悲鳴を上げる。
「いくわよ……あたしの“美しい舞”を見せてあげる……!!」
一閃。
風が裂けた。
剣閃が雷鳴のようにトゥワロへ迫る。
しかし――
「遅い。」
包帯の奥から囁きが漏れた瞬間、
トゥワロの周囲に黒い靄が立ちこめた。
トゥワロは一歩、踏み出す。
ただそれだけで、大地が砕け、風が爆ぜる。
「フィジカル・クィンティプル(五重気功)――」
「……は……?」
「天人では、この領域には届かぬ。」
五層の光輪がトゥワロの背に浮かぶ。
それはもはや“光”ではなく、“力そのもの”。
ヤムルが叫ぶ。
「カリウス、退け!!!」
「無理よッ!! 今逃げたら、一瞬で皆殺しよ!!!」
カリウスは全身の“気”を一点に凝縮する。
命を燃やすような集中。
「――天翔剣舞!!!」
剣の軌跡が花を咲かせる。
華やかで――悲しいほど美しい剣舞。
だが、黒の靄が全てを呑み込む。
刃が喉元に届く直前、トゥワロの声が響いた。
「美しいな。死の間際ほど、人は輝く。」
ドガァァァァァンッ!!!
爆風。
世界が裏返る。
カリウスの身体が宙を舞う。
脚が砕け、内臓が焼けるように痛む。
(……あぁ……これが“限界”か……)
ヤムルの叫びが遠ざかる。
「カリウス!! 戦うな! 逃げろッ!!!」
カリウスは血に濡れた顔で笑う。
「王子ちゃん、あたしね……ウィングちゃんに負けたまま終わるの、
ちょっと嫌だったのよ。でも……これでいいわ。」
最後の力で、天へ刃を掲げる。
光が爆ぜ、塵のように舞い上がる。
「――ヤムルちゃん、お願い……“生きて”。」
彼女の詠唱が風に溶ける。
「――《聖風・フォールンゲイル》!!!」
暴風が戦場を覆い、砂塵が巻き上がる。
ヤムルと残兵が風に包まれ、遠くへと吹き飛ばされる。
ヤムルが叫ぶ。
「カリウス!!! 戻れ――!!!」
カリウスはもう立てない。
血の海の中で、黒包帯の男を見上げた。
「……これが、“魔人王直属”の力ってわけね。
ふふ、イケメンのくせに……ちょ〜っとやりすぎだわよ……♡」
血まみれのまま、立ち上がる。
「――最後に、綺麗に舞わせてもらうわ……!」
トゥワロが無言で剣を振り下ろす。
音もなく、世界が切れた。
――カリウス、戦死。
数刻後、ルシエル陣営に報が届く。
「第一王子ヤムル軍――壊滅。
生存者わずか数名。
敵は、“黒包帯の男”。
名は――トゥワロ。」
ここまで読んでくださりありがとうございます!
個人的にカリウスが好きなんで生き残しすぎたら殺すのが心苦しくなるから早めに進めました
面白かったら★評価・ブックマークで応援してもらえると励みになります!




