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寂しい婚約破棄の後は新しい出会いが待っていました

作者: ゆりあ

「ルカ、ごめん、別れて欲しい…」


「わ、別れ…? いきなりですね…?

その理由を伺っても宜しいでしょうか?」


「好きな人が出来た訳ではないんです。

王都立騎士団に入って騎士になりたくて。」


「つまり、アーロイース様は、辺境伯領から出て王都立騎士団に入って強くなりたいと?」


「………はい、本当に、申し訳ありません。」


私は、ルカルリース・フォン・ノールベート・クリスタリース。春に20歳になったばかりのイーレンフィート王国の辺境伯令嬢です。黒の長髪に海を思わせる濃い青の瞳が特徴的です。


たった今、婚約者で、同い年の従兄弟にあたるノールベート伯爵家の次男坊、アーロイース様から、婚約破棄をされてしまいました。


辺境伯令嬢の私との婚約は、騎士としても文官としても優秀すぎるアーロイース様が、他領に行かないようにするためのものでございます。


しかし、アーロイース様ご本人の意思が強いのでしたら、婚約破棄は仕方がないものなのかもしれませんね。アーロイース様なら、王都でも活躍して、落ち着いた頃に、優秀な貴族令嬢のお方と出会えることでしょう。


「分かりました。アーロイース様の旅路は寂しいものですが、これからの活躍を祈念していますから、王都に行っても頑張って下さいね?」


「ルカルリース様!

本当に、有難うございます!

自分勝手で、いきなりで、申し訳ありません!

辺境伯閣下には、こちらから真剣にお伝えして参ります。お時間を有難うございました。」


「こちらこそ、今まで有難うございます。

アーロイース様、お元気で。」


「はい、こちらこそ、有難うございました!

ルカルリース様こそ、お元気で。」


やっぱり、彼は優秀だ。婚約破棄成立となったとたん、ルカルリース様呼びになっている。


従兄妹同士とはいえ、辺境伯令嬢と伯爵子息。

次男坊なので、この婚約破棄をしたら、貴族のままではいられない。もしかしたら、騎士団で活躍が出来たら、男爵か子爵になれるかもしれないが、どうなるか、未来は分からない。


彼は、すぐに、一線を引いて、私を、婚約者で従姉妹ではなくて、辺境伯令嬢として、立場を考えて、行動に移し、言動を変えました。


アーロイース様、真面目で、謙虚な彼ならば、王都でも、上手くやっていけるでしょう。


その後、正式に婚約破棄となった為に、私は、辺境伯家の別館に移り住んで、のんびりとした暮らしになりました。





「これから、どう過ごして行こうかしら?」


「お嬢様、いきなり日常が変化を致しました。

しばらくは、新しい婚約者様が見つかるまで、ゆっくり休息してはいかがでしょう?」


「そうね、休息も必要な時期かもしれないわ。

ありがとう、リュディーナ。」


今、兄夫妻に、第二子の女児が誕生したばかりですから、その子が大きくなって来ましたら、私の元の部屋を使うように伝えました。


ちょうど良い休息の機会です。新しい婚約者が見つかるまで、しばらくは、のんびりします。





「お嬢様、おはようございます。」


「ええ、おはよう、リュディーナ。」


「アルフォンス様がお呼びでございます。」


「お兄様から!今から急いで準備して、お兄様の執務室に向かいますと伝えて下さいな!」


「はい、承知致しました。

 アルフォンス様にお伝えして参ります。」


「ええ、宜しくね、リュディーナ。」


先月末に婚約破棄をされてしまってから本当に休息して、のんびりとしているルカルリース。


朝起きて、すぐに侍女から衝撃の一言が。


侍女のリュディーナは、いつも淡々としてますから、予想外の一言に驚きましたよ。


こんな朝早くから、お兄様は、いったい、妹の私に、何のご用事でしょうか………?


先月、婚約破棄をしたばかりですから、新しい婚約者がすぐ決まるなんてありません。早すぎますから、それは、無いはずです。





「おはようございます。」


「ああ、ルカ、おはよう。」


彼は、アルフォンス・フォン・ノールベート・クリスタリース。8月頃に27歳になる予定のイーレンフィート王国の次期辺境伯様です。


光り輝く金色の短い髪に宝石のような濃い紫の瞳が特徴的な、全く色彩は似てはいませんが、私、ルカルリースの実兄です。


「ルカ、さっそくなんだけど…

まずは、この資料を見て欲しいんだ。」


「………この資料ですか?」


その資料に書かれていたのは、一人の少年。


少年の名は、フェリックス・フォン・イーレンフィート・サーンロイエ。


今は、17歳のようなので、私の3つ年下で、お兄様より10歳年下になりますね。


お名前を見て驚きましたが、イーレンフィート王家のご親族、サーンロイエ公爵家の第一子、長男にあたる次期公爵様ではないですか!


あ、もちろん、フェリックス様は、私の婚約者候補の殿方ではありませんよ。


フェリックス様の婚約者は、イーレンフィート王家の長女、マリーローエ姫様ですから。


「なぜ、こちらの資料が、我が家に…?」


「そのフェリックス様が、クリスタリース辺境伯夫妻の両親に養子入りすることになった。」


「辺境伯家に養子入り?次期公爵様が?

いったい、何があったのですか!?」


「事情を説明をすると長くなるんだが…

一から、聞くか?」


「ええ、もちろんです! 聞きますよ!」





「事の発端は、公爵夫人が原因だ。」


「えっ!?あのミーネルヴェ様がですか?」


美しい夕焼けのような色彩の長い髪に赤茶色の瞳の持ち主の美女ミーネルヴェ様は、ジャレン伯爵家の三女として、生まれ育ちました。


その美貌に一目惚れしたサーンロイエ公爵は、ミーネルヴェ様を婚約者として選びました。


そのサーンロイエ公爵とミーネルヴェ様の間に誕生したお子様が、長女アーラミーナ様、長男フェリックス様、次男キルディクス様です。


「侯爵家に嫁入りしたらしいアーラミーナ夫人と長男フェリックス様は、ミーネルヴェ様によく似ているらしいが、次男のキルディクス様は公爵様に似て金髪碧眼の10歳児らしい。」


「そうなのですね、つまり、フェリックス様は、あの夕焼けの色彩をお持ちの方…?」


「ああ、そうだ。本当に、そっくりなんだが…

ミーネルヴェ様は、最愛の夫によく似た次男を大変可愛がっていて、自分そっくりの長女には嫉妬から離縁、長男に対しては無関心を貫いて話すらしないらしいよ。次男を次期公爵にするべく、密かに動き出しているようだ。」


「あのミーネルヴェ様が…!?」


ミーネルヴェ様は、王都に出向いた時、夜会で見かけたことがあります。


とても優しく微笑んで、珍しい夕焼けの色彩の長髪が大変美しいために大人気で、たくさんの方々に囲まれて、話しかけられていました。


「二面性が非常に激しいお方なんですね」


「ああ、裏表が激しく、愛しい次男の為ならば、手段を選ばないような気質の持ち主だ。」


「な、なんとまあ………」


「次男は、実母の狂気に気付いてない。

優しいお母様だと思っているから厄介なんだ。

このままだとフェリックス様が危ないと察してしまったマリーローエ姫様がフェリックス様の養子入り先として、クリスタリース辺境伯家を選んで下さったようだよ。」


「な、なるほど………

あのマリーローエ姫様が…それで、フェリックス様を我が家の養子として迎え入れて、フェリックス様をお護りする事になるのですね…?」


「ああ、そうだ。辺境伯家は、ミーネルヴェ様やキルディクス様の様子を調べながら、護衛可能だからな。全力で、護ることにしたよ。」


「はい、承知致しました。教えて下さいまして、有難うございます。」


「ああ、こちらこそありがとう。もしかしたら、彼は、女性不信かもしれないが、義姉として、そっと見守っていて欲しい。」


「そうですね。 はい、分かりました。」






「は、初めまして…」


「はい、お初にお目にかかります。」


「サーンロイエ公爵が長男フェリックスです。

クリスタリース辺境伯家に養子入りすることになりました。宜しくお願い致します。」


「クリスタリース辺境伯家の長女、ルカルリースと申します。こちらこそ、義姉弟として宜しくお願い致します、フェリックス様。」


あのお知らせから、約1週間後のことです。


美しい夕焼けのような色彩の短い髪に赤茶色の瞳の美少年、フェリックス様が、辺境伯領地にやって参りました。


本当に実母にそっくりですが、女性不信気味になるほどに不仲な実母や実姉と瓜二つなのは、彼にとっては、微妙なのことかもしれません。


それは指摘も何もせず、ただ、ただ、まずは、フェリックス様と義姉弟となりますから、挨拶だけでもいたしましょう。


「あ、あの、ルカルリース嬢………僕は義弟となりますから呼び捨てで構いませんよ?」


「あら、宜しいのでしょうか?」


「は、はい…」


「ふふふ、分かりました、フェリックス。

私のことも、義姉上と呼んでくださいませ。」


「はい、分かりました、義姉上。」


ちょっとだけ、警戒心がとれたかしら?


それとも、新しい姉にもいじめられないよう、甘えた振りしているのかしら?


私は、事情を知らなかったとしても、いじめは全くしませんから、ご安心を………!


「ふふ、可愛いらしい義弟が出来て嬉しいわ。

新しい環境に、焦らず、ゆっくり慣れていって下さいませ、フェリックス。」


「は、はい、有難うございます、義姉上!」


か、可愛い……… 容姿関係なく、この少年は、とても素直な子のようですよ…!


境遇からして、女性の私は信用されるかどうか分かりませんが、義弟として可愛いがります。


ええ、だって、可愛いんですもの。





「フェリックス様、そろそろ………」


「あ!そうだ、義姉上にご紹介いたしますね!

彼は、僕の護衛騎士、シュテファンです。」


「主人を幼い頃から護衛しています。

カールハインツ侯爵家の三男坊で、ギルベアト子爵位を持つシュテファンです。」


「ギルベアト子爵様ですね?

 宜しくお願い致します。」


あ、そういえば、資料に書かれてありました。


幼い頃から、フェリックス様の護衛騎士を担当しているという、シュテファン・フォン・ド・カールハインツ・ギルベアート様。24歳。


フェリックス様より珍しい灰色の短髪に薄紫の瞳という彼もまた、美青年な騎士様ですね。


「フェリックス様を宜しくお願い致します。」


「ええ、もちろんです、ギルベアト子爵様。

事情はお聞きしていますから、我が家が全力でお護りいたします。ご安心して、しばらくは、お二人で、ゆっくり休息して下さいませ。」


「はい、有難うございます。」


私も休息中なのですが、これからは、こちらの二人が、辺境伯家に住むことになる様なので、そろそろ、休息を辞めて動き出しましょうか。


彼らが平穏に過ごせるように努力致しますよ。


「どうやら、辺境伯令嬢は、とても純粋な気質の持ち主のようですよ。ご安心を。」


「そうなのか………?

そっか、本当に、安心したよ。

シュテファンが言うのなら安心だな。」


「有難うございます、フェリックス様。」


小さな声で、ヒソヒソとにこやかに話す彼ら、仲睦まじい主従の様子です。


こちらまで、微笑ましくなって来ますね。


「クリスタリース辺境伯令嬢様」


「私の事は、ルカルリースで構いませんよ?」


「では、ルカルリース様とお呼び致しますから、私の事をシュテファンと呼んで下さい。」


「ふふ、分かりました。シュテファン様。

何か、私にお話しがあるのでしょうか?」


「ルカルリース様は婚約者の方はいますか?」


「いいえ、最近、婚約破棄したばかりです。」


「………えっ!? どこの誰ですか?」


「ああ、彼は、従兄弟です。王都立騎士団に入りたくて、申し訳なく思いながらの婚約破棄で、今は騎士見習いとして頑張っていますよ。

女性の気配は、全く無いそうで、真面目に仕事していますからね、気にしておりません。」


「それで、婚約破棄を?なるほど…」


「そうなんです。自慢の従兄弟です。」


「では、ルカルリース様の、自慢の婚約者候補になれるように頑張っても良いですか?」


「………えっ!? シュテファン、お前!?」


「………えっ!? シュテファン様………!?

そ、それは、心配症なお父様とお兄様に聞いてからにして下さいませ…!!??」


「分かりました!

 後日、聞いて参ります!」


後日、お父様とお兄様は快く受け入れまして、シュテファン様が私の婚約者候補に…!


お兄様いわく、侯爵家の三男坊でありながら、日々真面目に鍛錬し、警戒心の強すぎる少年のフェリックス様から護衛騎士として認められたシュテファン様なら信用出来ると。


寂しい婚約破棄の後は、新しく、可愛い義弟と頼もしい婚約者候補の方が現れましたとさ。

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