えっ?俺って悪役なの?
え……俺ってもしかして、悪役公爵なんじゃね?
そう思ったのは、甥っ子のジークフリードが生まれた時だった。
ん……ネルベルク公爵家……?ジーク……?と名前に思い至った時、全ての記憶が繋がった。
自分には、物心ついた頃から前世の記憶があった。
ごくフツーの学生時代を過ごし、ごくフツーのサラリーマンになり、ごくフツーの結婚をし、ごくフツーの家庭を築き、ごくフツーに生涯を全うした一般的な日本人だった。
ただフツーじゃなかったのは、嫁がBL同人作家をしていて、自分もBLに触れていたところだろうか。
「これちょっと読んでみて⁉︎」
と感想をせがまれて読み始めたのがきっかけだったのだが、読むのはほぼ嫁の作品だけなので、いわゆるBL愛好家『腐男子』というほどでもなかった。
しかし嫁の作品はそこそこ面白かったし、楽しそうに創作活動をする姿を生ぬるい目で見守り応援していた記憶はある。
なんならイベントで売り子を手伝ったこともあった。
そんなごくフツーの……え、フツーだろ?日本人だった記憶を持って生まれた俺だが。
……まぁ、幼少時からいろいろあったが……こちとら精神年齢は大人だったもんで。
うーわー!この家庭環境おかしいわー!毒親がっ!今に見てろバーカ‼︎とか心の中で思いつつも、俯瞰的に自分を見ては耐えてきて。
ついでに言うと、なんかここファンタジーの世界っぽいけど、俺の立ち位置ってなんだよ……ってずっとわからなかったんだよな。
虐げられて、あとでハッピーエンドな主人公か?
それとも、成り上がってあとで英雄になる下克上ヒーローか?
もしくは、乙女ゲームで断罪されて処刑ルートの悪役令息か?
とか考えて、期待と不安を入り交じらせつつ、まぁなるようにしかならねぇだろと生きてきた。
それが!
ここってあれじゃん!
嫁が書いてたBL小説のあれじゃん⁉︎
俺、ジークの叔父って言ったら、あの悪役公爵ってことじゃね?
と、思い至ったわけである。
そうなると、あの家庭環境が悪役のアッシュを作ったのか?と納得といえば納得だが……小説にはそんな描写なかったよな。
そもそもあの悪役公爵、まぁ『主人公とヒーローをくっつける当て馬』という立ち位置以上のものはなかったし。
キャラ設定がゆるゆる過ぎるんだよぉぉ——!
もっとキャラの背景とか人物像とか掘り下げててくれよぉぉ————‼︎
と、前世の嫁に文句を言っても仕方がない。
所詮は趣味で書いてた同人誌だしな……メインは主人公とヒーローの恋愛模様なんだし、まぁそんなもんか。
まぁそんなわけで、自分が悪役公爵アシュフォードであると自覚してからは。
とにかく可愛い甥っ子を原作の通りに幸せにせねばならないし、お飾り嫁である主人公も幸せにしてやりたい。
その為には原作通りにストーリーが進めばいいのだが、俺はどうしても兄様達の事故は防ぎたいと思ったんだ。
しかしそれは叶わなかった。
ジークも原作通り大怪我を負ってしまった。
こうなったらからには、なるべく原作をなぞりつつ、あとはできることなら自分も死にたくは無いから断罪回避&処刑回避を目指そう。そこそこ平和な老後を送れれば御の字だ。
そんなふうに立ち回ろうと心がけて生きてきた。
そしてようやく原作の冒頭部分。悪役公爵はお飾りの嫁を娶った。
そしてその初夜で俺はアレを言わなくてはならない。
「お前を愛するつもりは無い」
イマ、ココ。