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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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なろうっぽい小説

かみさまがひとを愛したら

作者: 伽藍

第二王子に恋をした男爵家庶子である聖女が断罪された、そのあとのお話。

 アイリーン・マクノートンという男爵令嬢は、第二王子を誑かした悪女として一躍有名になった少女だった。


 もとは平民として暮らしていた男爵家の庶子であり、実母が亡くなったために男爵家に引き取られたのだそうだ。アイリーンはそこで他者の傷病を癒やす権能を発現し、聖女として王立学園に通うことになった。


 アイリーンは花も恥じらうような、ひどく愛らしく庇護欲をそそる少女だった。令息たちはすぐにアイリーンを持て囃し、夢中になったが、その中でもアイリーンを深く愛したのは第二王子だった。

 第二王子には公爵家のご令嬢である婚約者がいたから、第二王子のアイリーンへの態度は次第に問題視されるようになった。逆に聖女であるアイリーンと第二王子の仲を後押しするものたちもいて、危うく貴族たちの意見が二分する事態にまで発展してしまった。


 その状況に、王家も重い腰を上げざるをえなかった。第二王子は謹慎として、アイリーンは聖女の称号を剥奪して修道院に入れられることになった。

 アイリーンが修道院に入れられることに、待ったをかけたのは隣国である帝国の皇帝だった。第二王子を誑かしたという悪女に、皇帝は興味を持ったのだった。


 アイリーンは修道院に入ることには頷いていたけれど、皇帝に嫁ぐことには首を横に振った。けれどその意見は聞き入れられず、アイリーンは皇帝の側妃として嫁ぐことになった。


 嫁いできたアイリーンを近くで見た皇帝は、そのあまりの愛らしさにすぐにアイリーンを気に入った。寵妃として近くに置き、夜ごとアイリーンの部屋に通うほどだった。

 当然のように、もとの身分が低く悪評のあるアイリーンは後宮でひどく苛められた。アイリーンは黙って耐えていたけれど、あるとき皇帝が気づいてアイリーンを苛めていたものたちをひといきに粛清してしまった。表向きアイリーンを苛めるものはいなくなったけれど、元よりも悪質で陰湿な嫌がらせを受けるようになった。


 さて、皇帝はアイリーンを気に入っていたけれど、アイリーンの態度は気に入らなかった。アイリーンは皇帝から何を贈られても、何度となく体を重ねても、あの可愛らしく美しい顔を一つも動かさないのだった。

 皇帝はあるときに思いついて、アイリーンの前に一つの首を転がしてみた。それは王国でアイリーンと恋仲であった第二王子だった。国力に圧倒的な差がある皇帝が望めば、第二王子の首はあっさりと差し出された。


 そのとき皇帝は初めて、アイリーンが笑う姿を見た。この世の終わりみたいに美しい表情だった。

 アイリーンは口を開いた。聞くもの全てを惑わせるような声だった。


「あなたに、しあわせをさしあげます」


 アイリーンは微笑んだ。アイリーンは、なんだかもう、何もかも嫌になってしまっていたので。


***


 実のところ、アイリーンの持つ権能は傷病を癒やす力ではなかった。彼女は、願いを叶える力を持っていた。


 アイリーンは賢かったので、その力に気づいてからずっと隠して生きてきた。

 アイリーンの権能はアイリーンを幸せにはしなかった。せめて母が亡くなる前に権能を持つことができれば母を救うことができたのに、そんなこともできなかった。


 あげくに、自分が原因で第二王子が死んでしまった。


 第二王子に恋をした自分が愚かだったのだろうか。いや、きっと愚かだったのだろう。

 第二王子に恋をしたことを、アイリーンは後悔した。だって、アイリーンの恋は第二王子を不幸にしてしまった。


 否、とアイリーンは一人で首を振った。今からだって、第二王子を幸せにしてあげられるはずだった。アイリーンに叶わない願いはないからだ。


 けれどその前に、アイリーンは第二王子を殺したこの世界に、ささやかな嫌がらせをすることにした。


 アイリーンが微笑んだあの日に、この世界の全ての人間が夢を見た。尊い誰かに似た姿が、願いを叶えてあげましょうと告げる夢だった。

 人びとは当初は、おかしな夢を見たと話すだけだった。けれどあるひとが自分の願いを叶え、奇跡を起こし、徐々にあの夢には意味があったのだと確信するものが増えた。自分たち人間は、願いを叶える特別な力を得たのだと誰もが信じた。


 それは、アイリーンのしわざだった。アイリーンはこの世界の全ての人間に、アイリーンと同じ力を与えたのだった。


 こうなってしまっては、社会はあっという間に秩序を失った。殺しと盗みが横行し、女たちはひどい暴行を受けた。

 手元に振るえる力を持ったときに、自制できるのなんてほんのごく一握りの人間だけだ。アイリーンはそれなりに賢かったので、ほとんど諦めるような気持ちでそれを知っていた。


 ひととは醜いものだ。ひととは愚かしいものだ。ひととは欲深いものだ。


 ひとという生きものは、往々にして善良なものから死んでいく。悪意のあるものに、ただ善いものは勝てないからだ。暴力には暴力でしか勝てない。

 だからもう、止まらないだろう。転がりだした球体が止まるすべを持たないように、人間はもう止まれない。歯止めになれるような善いものたちは真っ先に死んでしまうからだ。

 最後の二人になったって、人間は殺しあうだろう。


 君主も貴族も平民も、もう関係がなかった。皇帝は真っ先に死んだ。別の誰かが次の皇帝になったけれど、その皇帝も三分で死んだ。


 そんな狂乱の全てを、アイリーンは微笑みながら眺めていた。この世界が綺麗になったら、また新しく世界を始めようと思った。


「見てください、良い天気ですよ、殿下」


 底の抜けたような青空を見上げて、アイリーンは後生大事に抱え込んだ水槽を指先で突いた。その中には、もとは第二王子だったカエルが入っている。

 死んだ第二王子の魂を拾い上げて、アイリーンは手元に置いたのだった。殺される前に痛めつけられたらしい第二王子の魂は傷ついていて、あまり大きな生きものにすることはできなかった。


 ただの無力で小さなカエルになってしまった、かつての第二王子を、アイリーンは深く愛した。


 血に濡れていく世界を眺めながら、アイリーンは微笑んでいる。いつだかに第二王子が褒めてくれた、誰もが笑い返してしまうような、日だまりに咲く小さなお花みたいな表情で、アイリーンは微笑んでいる。


 視界の先で、一人の娘が暴漢たちから逃げ惑っている。いかにも善良な、悪意に慣れていない、暴力を向けられても反撃することすら思いつかないような素朴な様子の少女が、悪意に怯えて震えている。

 その様子を見て、アイリーンは、やはり無邪気な表情で一つ欠伸をして、興味なさげに窓を閉めた。

そりゃー不幸にしかならないよね、ってお話


いつも名前は適当につけているのですけれどうっかり「アイリーン」にしちゃったらもう名字が「アドラー」しかでてこなくてとっても困りました。良くない


アイリーンは別にかみさまではありません。かみさまみたいな権能を持っているだけの、恋をしてはいけないひとに恋をしただけの、ただの女の子です。けれどかみさまによく似た何かではあるので、アイリーンにはいつかかみさまと呼ばれる未来もあったかも知れません


思いついたまま形にしたけれど、まあ、うーんって感じです。思い立ったら書き直すかも知れない。ひとまずお試しに書いてみましたってことで、ひとつ


【追記20250514】

活動報告を紐付けました! 何かありましたらこちらに

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/799770/blogkey/3441812/


【こっそり追記20250514_02】

もう今さらなんですけどやっぱり「アイリーン」って名前は強すぎた…もう「アイリーン・アドラー」のイメージしか出てこなくて自分で読み返しててもノイズが走る。少なくとも見た目お花ちゃんイメージの女の子につける名前ではなかった。適当な名前サイトから適当にぺろっとつけるとこんなことになります。ひゃーんっ

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― 新着の感想 ―
過ぎた力は身を滅ぼす(滅んだのはアイリーンではないですが)、という言葉が頭に浮かぶ話でした。 良くも悪くも平凡な心の少女に神のごとき力があったせいで…。 アイリーンに何もかもを自分の思い通りに世界改変…
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