ちくわとキス
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僕は彼女と初めてのデートに行くことになった。少し緊張しつつも、僕は彼女を喜ばせようと、手作りの料理を準備したのだ。その料理とは、僕の十八番――そう、「ちくわの詰め物」だった。
いや、待ってくれ。なんでちくわを選んだかって? それには深い理由がある。彼女がちくわ好きだと言っていたからだ。僕にとっては、手間をかけず、なおかつちょっとした驚きを与えられる料理。チーズを詰めたり、きゅうりを入れたりと、ちょっと工夫するだけで美味しさ倍増だ。
そんなわけで、僕らは近所の公園に行き、ベンチに座って持参したランチを広げた。彼女は笑顔で、「ちくわ、好きなんだよね!」と言いながら、僕が作ったちくわを手に取った。
「あ、そうだ、キスの話を知ってる?」彼女がふいに口を開いた。
「え、キス?」
僕はちくわを食べる途中で手を止めた。なんで急にキスの話? いや、待てよ、この雰囲気でキスの話をするってことは……もしかして、彼女、僕に……。
「そうそう、キス。魚のほうね」
僕の心は一瞬にして冷水を浴びせられたように凍りついた。魚の話か。まさか、あのロマンチックな意味のキスじゃないのか。
「キスって、あの砂浜とかでよく見かける小さい魚?」僕はなんとか平静を装いながら尋ねた。
「そう!実はね、このちくわに使われてる魚もキスなんだよ」彼女は満面の笑みで言った。
「えっ?」僕は驚いた。どうして彼女がそんなことを知っているんだ? というより、このちくわに使われている魚の種類まで気にしてるとは……。そんな細かいところに気づくなんて、彼女、なかなか鋭い。
「ねぇ、知ってた? キスはとても淡白で上品な味がするの。それでね、実は……」彼女は僕の耳元にそっと近づき、何か内緒話でもするように声をひそめた。「私、キスとちくわ、どっちが好きだと思う?」
その問いかけに、僕は頭の中であらゆる思考が交錯した。もしかして、これは僕に対する暗黙のメッセージか? 彼女が言う「キス」とは……本当は、魚ではなくて、僕とのロマンチックな……?
「えっと、どっちも好き……とか?」僕は恐る恐る答えた。
彼女はクスクスと笑った。「まあ、そうかもね。でも、ちくわにはね、ある秘密があるの」
「秘密?」僕はさらに困惑した。このちくわに一体どんな秘密が? 彼女は僕の戸惑いを楽しんでいるかのように、再びニヤリと笑った。
「実は……このちくわ、あなたが作ったこと自体がすでに私にとっての驚きだったの。手間をかけてくれて、本当にありがとう」
「そう言ってくれるなんて、嬉しいよ」僕は彼女の気持ちに感動しながら、再びちくわを口に運んだ。彼女の言葉に驚きながらもちくわを口に運ぶと、なんだか特別な気持ちになった。彼女の気遣いが伝わってきて、僕はさらに彼女のことを好きになった。
「ねぇ、次は本当のキス、してくれる?」と彼女が囁いた。
その瞬間、僕の心臓は大きく跳ね上がり、頭の中が真っ白になった。ちくわの塩気と彼女の笑顔が、いつまでも僕の中に残った。
――そして、僕らの初デートは、ちくわとキスで、永遠に忘れられないものになったのだ。
ちくわ大明神様々である。