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第2話 ありすちゃん流事件捜査

 どうも、ありすちゃんです。


 さて、今日の配信のテーマは「ありすちゃん、探偵ごっこをする」です。わー、ぱちぱち。


 みなさんご存知の通り、秋葉原ダンジョンで起きている連続殺人事件について、警視庁が3000万円の懸賞金をかけましたね。この配信では、ありすちゃんはその懸賞金を目指して、今からこの事件の調査をしていこうと思います。


 まずは情報収集からですね。ちょうどありすちゃんの信者さんの中に、警察関係者の方がいらっしゃるので、ちょっとインタビューをさせていただこうと思います。


 通話が繋がりましたね……もしもし、聞こえていますか、ケンタウロス警部さん?


「は、は、はい、ありすちゃん! 聞こえています!」


 ふふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。ありすちゃんはあなたの事が大好きなので、ニコニコとお話を聞いていこうと思います。


「は、は、は、はいぃいいいいいいい! ああ……生ありすちゃんの声……幸せ……」


 恍惚とするのも結構ですが、いまから本事件の情報を話していただくので、思考は明晰に保ってくださいね?


「は、は、は、はいぃいいいいいいいい!」


 では、まず本事件の特徴とあらましについて、簡単に語っていただきましょう。


「で、で、でも、さすがに内部情報とかを語るのはまずいので、公開されている範囲になりますが……」


 ふふふ、そうですか? でも、ケンタウロス警部さん、ありすちゃんの声、すっごく可愛いって、いつも言ってくれてますよね? ありすちゃんの事好きなんですよね? 愛してるんですよね? 愛している相手に全てを捧げる事って、普通だと思いませんか?


「い、いや、さすがに……」


 むむっ、強情ですね。ちょっと特別な「囁き」をプレゼントをする事にしましょう。


(……聞こえますか? こうやって、ありすちゃんの声が、あなたの耳に直接届いているの、聞こえていますか? ね? 大好きなありすちゃんに耳元で囁かれるの、とっても気持ちいいでしょう? ありすちゃんはケンタウロス警部さんの事が好きですよ? 大好きですよ? だから、ありすちゃんに、秘密なんて作ったらダメですよね? ぜーんぶ教えてくださいっ。ね? 教えてくれますよね?)


「ああっ! あああああっ! ああああああああああっ! は、は、は、はいぃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 いいお返事です。では、情報をお願いします。


「……本事件の概要は、秋葉原ダンジョン内で探索者がこれまでに7人殺害されたというものです。被害者は全員C級以上の男性探索者で、死因はすべて首の切断、つまり斬首です。犯行現場は毎回異なりますが、現場には必ず「ちょっきんぱっ」という文字が血で書かれています。証拠品は限られていて、犯人の素性を特定できるものはまだ見つかっていません……」


 ふふふ、ありがとうございます、ケンタウロス警部さん。ありすちゃん、とっても嬉しいですっ。

 では、もう少し詳しく聞かせてください。被害者たちに共通点はありますか?


「で、でも……これ以上は流石に機密事項が……」


 ふふふ、ありすちゃんの囁きがもっと聴きたくてそういう事言ってるの、分かってますよ? しょうがないケンタウロス警部さんですね?


(……ほら、もっと教えてください? ケンタウロス警部さんは、ありすちゃんの声が聴けるだけで幸せで幸せでたまらないんですよね? この声で囁かれると、脳みそがとろとろになって、わけがわからなくなっちゃいますよね? だからもっと、いろいろなことを教えちゃっても仕方ないですよね……? ね?)


「……被害者の共通点はいずれも『スキル』持ちの探索者でした。そして彼らのスキルはみな肉体強化系のスキルであったようです。肉体強化系は、C級前後の探索者には多いスキルタイプではありますが、事件の被害者選定となんらかの関係があるとされています」


 なるほど、興味深いですね。被害者は全員、肉体強化系スキルの持ち主だったんですね。ではもう一つだけ、犯人のスキルについて何か分かっていることはありますか?


「警察が抱える特殊スキル保持者のパーソナリティ分析によれば、犯人は恐らく「裁き」または「審判」に関連するテーマの持ち主と推測されています。被害者の首が極めて鋭利な刃物で一撃で切断されていること、また切断面が異常に滑らかなことから、通常の武器ではなく斬撃系スキルによる攻撃と考えられています。また、最新の調査では……」


 そろそろケンタウロス警部さんの社会生命が心配になってきたので、このあたりにするとしましょう。ありすちゃんもBANされちゃうかもしれないですしね。

 でも本当にありがとうございます、とっても参考になりましたっ。


 では最後に、リスナーさんの中でもありすちゃんの信者になっている方に、ありすちゃんからお願いがあります。探索者のリスナーさんで、ありすちゃんにダンジョン探索用の装備を貢ぎたい方を募集しています。ありすちゃんは貧弱な肉体をしているので、自動防御系の魔道具とか、高火力の魔導杖とか、反応強化系の魔道具あたりがほしいところですね。

 一番貢いでくださった方には、お礼としてありすちゃんが1対1でプライベートな囁き通話を1時間してあげたいと思います。ちょっと過激すぎる内容になるかもしれないので、内容は秘密にしてくださいね?



ハムカツ >僕が持っている「影の外套」をありすちゃんにお貢ぎします! これは秋葉原ダンジョン5階層の「守護者」から入手した素材で作った外套で、着ていると周囲の影に溶け込んで姿を隠すことができます! +200000円


おろしハンバーグ >自分は貴重な「反射向上の耳飾り」をお貢ぎいたします! 秋葉原ダンジョン特有の蝙蝠系魔物の素材から作ったもので、超音波センサーによる感覚の向上と反射神経の強力な強化が見込めます! +300000円



 わぁ、みなさんありがとうございますっ! 信者のみなさんの献身的な奉仕、ありすちゃんはニコニコと受け取りたいと思います。プレゼントする装備は、この匿名配送サービスで送ってくれれば、ありすちゃんの家に届きますよ?


 それでは、今日の配信はこのあたりで終わりにしたいと思います。では最後に……


(……ありすちゃんは、今日もあなたの事が大好きですよ?)



ハムカツ >ぶひぃいいいいいいいいいいいいいい! +10000円

おろしハンバーグ >ぶひぃいいいいいいいいいいいいいい! +10000円

ケンタウロス警部 > ぶひぃいいいいいいいいいいいいい! +10000円



 いいお返事ですっ。ではではっ、また次回の配信でっ!





 *****





 数日後、さっそく届いた魔道具の数々を身に着けたありすちゃんは、さっそく外出の準備を始めました。


 普段はほとんど引きこもり状態のありすちゃんですが、今日は特別です。探索者としての防御魔法が込められた黒の肩出しワンピースに着替えて、出かける準備を整えます。


 このあたりで、ありすちゃんのスキル『囁き』について、もう少しお話しておきましょう。


 先日の配信ではケンタウロス警部さんに対して、スキル『囁き』による『洗脳』効果を使っていました。あのときはちょっと強引だったかもしれませんし、ケンタウロス警部さんの警察内部での立場は心配ですが、これも事件解決のためには仕方ない犠牲といえましょう。これくらい普通ですよね?


 ついでに、配信の後半でリスナーさんたちに装備をおねだりした時には、『魅了』効果を強めた『囁き』を使っていました。ありすちゃんの声を聞いた相手に、強い恋愛感情や性欲なんかを抱かせる能力ですね。こうすると、貴重な魔道具でも簡単に手に入れる事ができたりします。ありすちゃん大勝利といえましょう。まあ、普通ですよね?


 ありすちゃんにとっては、スキル『囁き』は幼い頃から持っていた能力だし、ありすちゃんが「聖女」と呼ばれていた時代も、たくさんの信者さんたちに愛され信仰されるために、この能力はとても役立ってきました。ちなみに、スキルには、必ずそれと対応する『テーマ』というものがあるのですが、ありすちゃんの『テーマ』は『聖女』なんですね。『テーマ』は能力の根幹にかかわるので、基本的にみなさん秘密にしていますが、相手の『テーマ』や能力内容なんかをプロファイリングするような『スキル』も警察なんかにはいるようでしたね。機密情報のようですが。


 ま、いろいろあって宗教は飽きちゃったので、現在のありすちゃんは、家出して同人声優として独り暮らししてるというわけです。ひきこもりですけど。


 さて、準備が整ったところで、ありすちゃんは秋葉原ダンジョン周辺に向かいます。


 秋葉原駅付近に到着すると、いつもと違う緊張感が漂っていることに気づきました。普段なら探索者たちでごった返している、川沿いにあるダンジョン入口周辺も、人影はまばらです。代わりに警官や自衛隊員らしき人々が警戒に当たっています。


 秋葉原ダンジョンは、秋葉原の地下に広がる迷宮です。他のダンジョンと比べると電気や音に関連する魔物が多いのが特徴で、貴重な魔法資源や魔物素材が採れるので、日本にとって非常に重要なダンジョンです。


 ダンジョン周辺をうろうろしていても情報は得られそうにないので、ありすちゃんは近くのカフェに入ることにしました。『EXPLORE』という探索者御用達のカフェで、探索前後の探索者たちが集まる情報交換の場になっています。ありすちゃんは初めて入りました。


 カフェ内に入ると、探索者らしき人々が数組、騒がしく会話をしています。ありすちゃんはカウンター席に座り、店員さんを呼びました。


「アイスティーをお願いします」


 店員さんは30代くらいの男性で、腕には探索者のC級ライセンスバッジが光っています。立派な現役探索者でもあるようですね。しめしめ、と思い、『囁き』声で話しかけます。


(……あのーっ。最近の秋葉原ダンジョン周辺の事件について、何か知っていることはありますか? ありすちゃんにこっそり教えてくれたら、すっごく嬉しいなって)


 ありすちゃんは小声で店員さんに『魅了』の能力を使います。すると店員さんの目がハッと変わり、ありすちゃんを夢中になって見つめはじめます。


「はぁ……はぁはぁ……じ、実は最近、探索者仲間の間で噂になっているんだけど、被害者たちはみんな『自分を誇示する』タイプの探索者だったんだ。自分の強さや成果を大げさに話して、若い探索者たちを騙したり、利用したりしていた連中だ。だから、被害者の中には『ざまあみろ』って思っている探索者も少なくない……はぁはぁ……」


 とても役に立つ情報です。ありすちゃんはお礼を告げて、カフェの隅のテーブル席に移動しました。店員さんは呆然として、ありすちゃんの顔や胸やふとももを眺め続けていますが、まあそのうち元に戻るでしょう。これくらい普通です。


 ここからはスキル『囁き』の『盗聴』とありすちゃんが呼んでいる側面を使って、カフェ内の会話を拾っていきます。囁くような会話でも、容易に聞き取ったり、逆に遠くに囁きを届ける事もできるのですね。我ながら便利なスキルです。


「……次の被害者は誰だと思う?」


「さあな。でも噂が本当なら、あいつとかじゃないか? ほら、自称『雷帝』」


「ああ、B級だけど、実は雷系のスキルじゃなくて単に高級な電撃系魔道具を使っているってバレた奴ね」


「そう。最近も秋葉原ダンジョンで若い探索者たちに適当な事いってちやほやされてたらしいしな」


 なるほど、次の標的候補についての情報が得られました。他にも数組の会話を盗聴していると、ふと男性の声が耳に入ってきました。


「ねえ、そこの可愛い子。こんなところで一人かい?」


 振り向くと、20代後半くらいの男性が立っていました。少し派手な服装で、腕にはB級ライセンスバッジ。結構な実力者のようですね。


「いえ、大丈夫です。ただカフェでお茶してるだけなので」


「ねえ、僕が最近ダンジョンで手に入れた珍しい魔物素材に興味ないかな? 家に素敵なコレクションがあるんだ」


 あらら、この人、ありすちゃんを誘おうとしてますね。ありすちゃんの『魅了』に自然と反応したのかもしれませんが、ちょっとしつこい感じがします。


「すみません、興味ありません」


「そんなこと言わずに。君みたいな新人の子が探索者の世界に興味がないはずないだろう? 家に来れば、色々と教えてあげるよ。キミも僕みたいに強くなれるかもしれないよ?」


 うーん、しつこいですね。こういう時は容赦なく『囁き』を使います。


(あなたは今から、カフェの店員さんに向かって「僕はカフェで可愛い女の子を家に誘ってました! 助けてください!」と大声で叫びます。それから、顔を真っ赤にして店を出て行きます。そして一か月は秋葉原に来ません)


 男性の目がぼんやりとし、突然立ち上がりました。


「店員さーん! 僕は可愛い女の子を家に誘ってました! 助けてください!」


 カフェ中の視線が彼に集まる中、彼は顔を真っ赤にして店を飛び出していきました。


 ふふふ、これでしばらくは平和です。まあ、あまりしつこすぎる人には少し報いというやつが必要ですからね。これも公共への奉仕といえましょう。これくらい、普通ですよね?


 さて、カフェでの情報収集も一段落したので、次はダンジョン周辺をもう少し調査してみましょう。





 *****





 外に出ると、すでに夕暮れになっていました。秋葉原の街は、ネオンが輝き始め、日が沈むにつれて人通りが増えてきています。


 ふと、ダンジョン入口方向から騒がしい声が聞こえてきました。何人かの探索者たちが集まっています。好奇心に駆られて近づいてみると、若い探索者たちがベテラン風の探索者を囲んでいるようです。


「雷帝さん、次はいつ秋葉原ダンジョンに潜りますか?」


「わたしたちも連れて行ってください!」


 お、さっきカフェで噂になっていた『雷帝』という人物のようですね。30代後半くらいの男性で、派手な金色の防具に身を包み、腰には電光を放つような目立つ剣を下げています。


 ありすちゃんは少し離れた場所から、『盗聴』の能力を使って彼らの会話に耳を傾けます。


「……次回の探索は明日の夜だ。秋葉原ダンジョン7階層で、珍しく『ダイアモンドウルフ』が出たという情報がある。興味がある者は集まってくれ」


 雷帝は自信たっぷりに重々しく語っています。特に事件を恐れている様子はなさそうです。


 ありすちゃんはここで一つの思いつきを得ました。明日の夜、この『雷帝』がダンジョンに入るのを後をつけてみましょう。もしかしたら、犯人と遭遇できるかもしれません。


 そう考えていると、ふと背筋に冷たいものを感じました。誰かに見られている気配です。振り返ると、人混みの中に、一人の真っ黒な服にフードをかぶった人影が立っています。


 その人物はじっとありすちゃんを見つめていたかと思うと、すっと人混みに紛れて消えていきました。


 なんだか不気味な予感がします。


 でも、こういう事があると、ありすちゃん、かえってワクワクしちゃうんですよねっ!


 とりあえず今日はここまでとしましょう。明日の夜に備えて、しっかり準備をしておかなければなりません。


 ありすちゃんの「秋葉原ダンジョン連続殺人事件」解決への道は、まだ始まったばかり。この事件の犯人は一体どんな人物なのか……


 むむっ、なんだかとっても楽しくなってきました!

 かくしてありすちゃんの新しい『副業』は、順調にスタートを切りましたっ!


 つづくっ!

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