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公園のブランコが撤去されていた

作者: 宮野ひの

 久しぶりに、家の近所にある公園に来たら、ブランコが撤去されていた。四人が横一列に並んで乗れるブランコが、確かにここにあるはずだった。


 いつ無くなったのだろう。1年前に公園に来た時は、まだあった。


 僕は数秒、立ち止まったままでいた。


 今、公園にいるのは僕しかいない。子どもたちの声が遠くから聞こえてくるけど姿は見えない。神隠しにあった気分だった。


 すべり台、シーソー、鉄棒、そして水飲み場は撤去されることなく、変わらずにそこにあった。


 何故、ブランコだけが撤去されたのだろう。


 子どもが怪我でもしたのだろうか。その具体的な例を考えようとすると、嫌な想像が浮かんできて、地面を蹴って強制的に考えることをやめた。


 今日は昨日より少し暖かい。だからだろうか。公園に行きたいなんて気まぐれに思ってしまったのは。


 明日から、新しいバイトが始まる予定だった。ラーメン屋のホールスタッフ。ノリで応募して、面接に行ったら採用されてしまった。


 気持ちがソワソワと落ち着かない。家でじっとしていると、まだ何も始まっていないのに、ラーメンどんぶりを落として、怒られる想像をする羽目になる。


 僕は深呼吸をする。ブランコに乗ったら、良い気分転換になるはずだった。


 すべり台に乗るのはなんとなく恥ずかしい。シーソーはそもそも二人いないとできない。鉄棒は、手が鉄臭くなるのが苦手で、したくなかった。


 ブランコこそ、子どもから大人まで、誰でも分け隔てなく受け入れてくれる遊具だ。下手したら100歳のお年寄りも、楽しく遊ぶことができる。


 その主役級の遊具が、公園から撤去されるなんて。ジェットコースターがない遊園地のように思えた。


 僕は近くにあった木のベンチに座る。尻の部分が冷たく湿っていて嫌な気持ちになった。しかし、自分の体温で、すぐに気にならなくなる。


 足元を見ると、ハートのシールが落ちていた。しかし、土がついて汚くなっていた。


 はぁっと、ため息を一つついて顔を上げると、一羽のカラスと目が合った。いつのまに、公園にやって来たんだろう。


 もしかして、僕が公園に来た頃には、既にいたのだろうか。人に見られていた時のように、僕は反射的にドキッとした。


「カァ」


 カラスがひときわ低い声で鳴くと、一歩前へ出た。怖い。なんで寄ってくるんだ。


 何かの牽制なのではないか。狐につままれたような不思議な気分になる。動物同士の争いの場面であれば僕は完全に負けている。


 僕は喉が痛くもないのに咳払いをする。普通に何かを言ってカラスを牽制するのが恥ずかしかったからだ。


 無情な咳払いが公園に響くも、カラスは微動だにしない。はぁ。舐められたものだ。


 僕はその場に立つ。気まぐれで公園に立ち寄っただけなのだから、帰るのも自由だ。


 カラスの方へ一歩、二歩と近づく。勢いあまって、大股で進んだら、カラスはバッと空へ飛び立った。


 そのままスピードを落とさず、すべり台の方へ向かう。階段の方には回らず、デンデンデンと音を立てて逆走していく。


 一度、手すりみたいな部分を触りたかったけど我慢した。意地でも、自分の足で頂上に立って見せる。有言実行。すべり台を上り切った頃には、息が切れていた。


 公園内で一番高い場所に僕はいる。先ほどと見える景色は大きくは変わらないけど、自分が何か達成したような清々しい気分になれた。


 俯瞰で物事を見るって、こんな感じなのかな。「視野を広く」と人は言うけど、物理的には、こういうことをみんなは言いたいのだろう。違うか。


 逆走したすべり台のレーンに尻を付けたくなかったので、階段から降りることにする。


 最後の一段を降りた時、足元にアイスの木の棒が落ちていることに気づいた。当然、当たりの文字は書かれておらず、そのままスルーした。


 僕は次に撤去される遊具は、シーソーのような気がした。根拠はなく直感だ。おそらく、すべり台は最後まで残るだろう。


 また公園に来た時、僕は何を感じて、どんな突拍子もないことをするのだろうか。


 まだ満足したりない僕は、近所のラーメン屋に行くことにした。もちろん明日からのバイト先ではない。今日は味噌ラーメンが食べたい気分だった。奮発して味玉をトッピングに選んでも良いかもしれない。


 ブランコがない場所を堂々と通った時、遠くで、鳥の集団が身を寄せ合って飛んでいることに気づいた。先ほどのカラスはいない。そんな事実が少し悲しかった。

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