3-台湾料理食べよう
その夜、六華と待ち合わせしていた場所に向かったシンジを出迎えたのは。
「おう、来たか、しんちゃん」
六華の両隣には露出度の高い女性の連れが二人いた。
これでもかと曝された生足が街灯をピカピカと反射している。
「しんちゃんの話したら、こいつらも来たいって言い出したんよ」
「どーもこんばんは」
「やばぁい、しんちゃん、想像してた以上にカッコイイ」
(これって合コンだろうか?)
台湾料理店の座敷の個室。
シンジの隣に六華、テーブルを挟んだ向かい側に女子二人という構図になった。
(やっぱり合コンだろうか、これ)
「やばぁい、正面に座るしんちゃん、二億倍カッコイイ」
「キャッシーずるい」
「え、きゃっしー?」
「このコ、コバヤシだから、キャッシー」
「ああ、小林だから、キャッシー……、……?」
壁際に座るシンジはおしぼりで手を拭く。
六華は早々と店員を呼んで飲み物と料理を独断で注文していた。
スパイシーな棒餃子の香ばしい匂いがどこからともなく漂ってきて食欲をそそられる。
「はーい、キャッシーからしんちゃんに質問」
「はい?」
「ぶっちゃけカノジョとかいるぅ?」
「いや、いないよ」
「えっ?」
その回答に驚いたのはキャッシーよりも隣に座る六華だった。
「しんちゃん、彼女いねぇの? なんで!?」
「仕事が忙しくて」
「まじか。もったいねぇ。一番かっけぇのは兄貴、その次に俺、で、しんちゃんは次くらいにかっけぇのに」
(あれ?)
黒埼君、俺に彼女がいないと思って、このコ達を連れてきたわけじゃないんだ?
「お仕事ってなーに?」
「法律事務所で働いてる」
「えっ!?」
シンジとは三度目になる夕食の席にて、またしても驚く六華。
「しんちゃん弁護士だったん!? それか司法書士か!?」
「いや、俺自身は弁護士じゃなくて。弁護士を補助するパラリーガル」
「補助ぉ? チャリに補助輪でもつけてやんのか?」
「書類作成を手伝ったり、裁判所にお使いにいったりとか」
「おつかいぃ? カレーの材料でも買いにいくのかよ?」
本気で問いかけてきた六華にシンジは丁寧にわかりやすく首を左右に振った。
会話の傍ら、一品料理で埋め尽くされたテーブルの上を慌ただしげに箸が行き交う。
シンジも六華も一杯目のジョッキをすでに空けて二杯目を注文していた。
「キャッシー、弁護士サンのいる事務所行ったことあるよぉ」
「何か相談事で?」
「このコね、たち悪いセンパイに付き纏われて、いわゆるストーカー? バイト先におしかけてきたり、尾行されたりしてたの」
「そうなんだ」
「弁護士サン、そういうのは警察に言ってね、って、すぐ閉店ガラガラしちゃった」
「うん」
「どうしようかなぁって、キャッシー困ってたら、サッキーと会ってね」
「え、サッキー?」
キャッシーはシンジの隣にいる六華を指差す。
「サッキーがセンパイと話つけてくれて、センパイ、もう付き纏わなくなったんだぁ」
(ふぅん、黒埼君、このコのために動いてあげたのか)
シンジが隣に座る六華をチラリと見た、次の瞬間。
「あぢぃっ」
小龍包の肉汁が口内に溢れたらしく、彼は飛び上がった。
焦ったのか、自分のものではなく、シンジの飲みかけのジョッキを躊躇なく手にして一気にグビグビ飲んでしまう。
しかもシンジがきちんとテーブル脇に畳んで置いていたおしぼりを引っ掴み、ゴシゴシ口元を拭った。
「危ねぇ危ねぇ、喉も胃も火傷するとこだったわ」
「黒埼君、それ、俺の」
「あ、間違えちった」
六華は次に向かい側にあった二つの塩レモンサワーまでグビグビ飲んだ。
怒るどころか女子二人が手を叩いて喜ぶ中、氷を一つ掬い出し、口に含む。
「はぁ、冷てぇ、気持ちいい」
指先で摘まんだままの氷で舌先を冷やしているようだ。
(それ、なんかえろくない、黒埼君?)
「ひぃんちゃん、にゃにのむ?」
「あ、じゃあ、ハイボール」
「ひゃっしーは?」
「じゃあピーチサワー」
「じゃあアタシはしんちゃん!」
「え」
「ばっきゃろー、百年早ぇんだよ、しんちゃん持ち帰ったらてめぇらしばくぞ、コラ」
氷を吐き出した六華はニラ饅頭をバクバク食べながら女子二人に言い放つ。
「今日はしんちゃんをお前らに見せびらかすための飲み会なんだかんな、手ぇ出すんじゃねぇぞ」
「ひどぉい」
「そりゃーアタシら肉食かもだけど、サッキーだってバリバリ肉食のクセに」
「俺は兄貴に言われた通り好き嫌いせずに野菜だってちゃんと食う」
そう言って六華はまたシンジのおしぼりで口を拭った。
(これって俺のお披露目飲み会だったのか)
そんなに気に入ってもらえてるなんて光栄だけれども。
ぶっちゃけると一番の肉食は俺かもしれないよ、黒埼君?