ラストオマケ-いろいろ小話
【擬獣化パラレル/黒埼×綾人】
「あんた何でこんなところにいるんだ」
濁った泥水の川に独り浸かって延々と目を瞑っていた白鳥は急な呼びかけに驚いた。
緩々と瞼を持ち上げてみれば、川へと身を傾ける巨木の枝先に一羽の鷹がとまっていた。
鋭い鈎爪とクチバシと眼。
猛々しい翼を畳んで眼下の白鳥を見下ろしている。
「すぐ近くにもっとマシな川があるだろうが」
「私は、皆の輪に入れてもらえないので」
「なんでだ」
「それ、は……醜い成りをしているので」
「醜い?」
鷹は泥だらけの白鳥を繁々と見直した。
あまりにも真っ直ぐな視線にたじろぎ、戸惑う白鳥へ、さらに声をかけてくる。
「引っ越せよ、こんな泥水の川より、あっちの森の向こうにいい場所がある」
「私、飛べません」
「何言いやがる、そんな翼持っていながら」
「翼?」
「あんだろうが、ほら、こういう風に広げてみろよ」
白鳥の視線の先で鷹は猛々しい翼を広げてみせた。
白鳥は鷹の動きを真似てみた。
すると、泥で汚れてはいるが、いつの間に大きくなっていた翼が左右へ。
「ほら、ついてこい」
鷹が勇ましく飛び立ち、白鳥も、見よう見まねで翼を動かし、不恰好ながらも泥水の川を飛び立った。
何度も落っこちそうになりながらも、鷹に檄を飛ばされて懸命に飛翔を続け、森を一つ越えてその向こうへ。
透き通った水が湛えられた静かな湖。
こんなに綺麗な場所へやってきたのは生まれて初めて、白鳥はしばし澄みきった湖で無心で戯れて。
ふと湖面に映る自分の姿にまたしても驚いた。
「泥、すっかり落ちたな」
「これ……私ですか?」
「泥に塗れてたからこそ、倍、綺麗に見えるぜ」
日の光を浴びてきらきら輝く湖に浮かぶ白鳥。
湖底からそびえ立つ古木の枝にとまった鷹は笑いかける。
胸の奥が痛いくらいに締めつけられた白鳥も恥ずかしそうに笑い返す。
他には誰もいない静かな湖。
翼を休めた彼らは運命の糸が絡まる音を初めて聞いたような気持ちで、ただずっと、見つめ合っていた。
【シンジがどこかでちび六華と出会った~】
「にいにじゃなぃぃぃぃ!!!!」
がーーーーーーーーん
小さい黒埼君、なんて可愛いんだろう、自分にそんな趣味あるわけないと思っていたけれど、どうしよう、目覚めてしまいそうだ。
なんて思いながらシンジがちび六華の頭を撫でようとしたら。
思い切り拒否られた。
「おれの頭ポンしていいのはにいにだけー!! ほかはだめー!!」
がーーーーーーーーん
ほか扱いされたシンジ、ショックの余り、その場に立ち尽くした。
打ちのめされて打ちひしがれているシンジの様に、ちび六華、大きな目をぱちぱち。
「泣いてんのー?」
「……泣いてないよ、黒埼君」
「いーよ、オトナだって泣いていーんだよ、にいには泣かねーけど、地球でいっちばん強いから」
「……泣いてないよ」
「しゃーねーなー! じゃあおれがポンしてやる!」
手招きされてしゃがみ込んでみれば、ちび六華の小さい手がシンジの頭をなでなで、なでなで。
「今日泣いて明日がんばんぞ!!」
黒埼君、君は……。
こんなに小さい頃から「君」なんだね。
【黒埼がどこかでちび綾人と出会った~】
遊んでいたこども達がみんな帰った後、その男の子は公園にやってきた。
ブランコに座ると、力いっぱい漕ぐでもなく、ただぼんやりじっとしている。
園内に唯一の外灯がおもむろに点灯して地上に広がり始めた宵闇を照らした。
「よぉ」
男の子は、綾人は、それまで意味もなく雑草に縫いつけていた視線を隣のブランコに座った黒埼へ向けた。
「佐倉さん、ガキの頃も別嬪だな」
「……」
警戒しているわけではなさそうだが、こどもにしては淡泊過ぎる眼差しで黒埼をじっと見つめてきた綾人。
そんな綾人にサングラス越しにちょっと笑いかけ、窮屈そうにブランコに腰を下ろした黒埼はタバコを取り出した。
「おじさん強そう」
ライターを探していた黒埼はふと手を休めた。
「人、ころしたこと、ある?」
「いいや、ない」
「……そう」
「どうしてそんなこと聞くんだ」
外灯に虫がたかり始めている。
街並みに隠れた地平線間際には鋭い三日月。
「ぼくのこと、ころしてほしかった」
ブランコから立ち上がった黒埼は綾人の前にしゃがみ込んだ。
赤茶けた鎖を握りしめていた綾人の片手をとると、タバコを一本、代わりに握らせる。
「やるよ」
「……いらない」
「持ってろよ。お守りだ」
「……お守りって、なにから守ってくれるの?」
「弱ぇ自分から守ってくれる」
なぁ、佐倉さん。
俺と出会うまでその身に負う傷が一つでも二つでも百でも減ってくれたらいいんだがな。
【深酒シンジ】
気がつけばシンジは自宅のベッドで寝ていた。
呻吟しながら寝返りを打ったら六華の足にぶつかり、目を開けば、自分が逆向きに寝ていることに気がついた。
(……しまった、飲み過ぎた)
カーテンの隙間から差す、朝にしては白々と眩しい光に一瞬だけぎくりとしたが、今日は休みだったと思い出して長いため息をつく。
ボクサーパンツ一丁で眠りにつくという滅多にない失態、しかも毛布から半身が食み出ていて、寒い。
当の毛布は六華が占領していた。
「んん……」
こちらはいつも通りボクサーパンツ一丁なのだろう、毛布からは裸の肩がちらりと覗き、シンジの気配を煙たそうにして寝返りを打った。
(……昨日、は……シてないみたいだ)
焼き鳥屋からここまでどうやって帰ってきたのかまるで覚えていない、つまり、黒埼君が世話してくれたんだろう。
(とりあえずシャワー浴びようかな)
ベッドから降りかけたシンジ、その腕を、寝起きとは思えない俊敏ぶりで六華はぱしっと掴んだ。
「どこ行くんだよ、しんちゃん」
「シャワー。自分が酒臭くて」
「くさくねーぞ」
「それは……黒埼君も臭いから麻痺してるんだよ」
「ひでぇ」
六華は笑った。
シンジを離すどころか、ぐいっとベッドに引き戻し、組み敷いてくる。
しんなりした派手な金髪が裸の肩を滑り落ちた。
「昨日頑張った俺を今日はとことん甘やかせ、しんちゃん」
「……俺、昨日そんなにひどかった?」
「おう。駐車場で寝ようとしたぞ」
「……最悪」
「おんぶした俺を褒めろや」
「ありがとう、黒埼君がいなかったら交番に連行されてた、おかげで助かりました」
「もっと」
「感謝してる、黒埼君がいてくれてよかった」
「もっと」
(ああ、君ってなんて可愛いんだろう、黒埼君)
シンジは六華をぐるりと押し倒すとキスをした。
酒と煙草の匂いが染み着いてしまったベッドで、昨日一日の残骸を引き摺る互いの体を寄せて。
(たまには深酒するのもいいかもしれない)
【餃子つくろう】
休日、シンジ宅に六華がやってきた。
「餃子~餃子~春は餃子の季節だぞ、しんちゃん!」
本日は昼下がりから手作り餃子をしこたま作って夕方前からビールを飲む予定だった。
「黒埼君、準備手伝ってくれる?」
「何すりゃいー?」
「包丁、使えるよね?」
「しんちゃん、なめんなよ、兄貴には負けっけど刃物には充分免疫あるぞ、俺ぁ!」
「あんまり詳しく聞かないでおくけど、じゃあ、手洗いしてからネギ切ってくれる?」
「うぉう!」
六華は大雑把な手つきでネギを刻み始める。
それから一分も経過しないうちに。
「ぎゃー!」
「どうしたの、指切った?」
「いっでぇー! 目がー! 目がー!」
ネギでばっちり目がしみた六華、ネギ切りを中断して「チクショー痛い」の連呼。
「そんなにしみた? 大丈夫?」
「こんないってぇの灰皿で頭殴られた以来だー!」
「絶対そっちの方が痛いと思うけど。あ、掻いたら駄目だよ、触らない方がいい」
「ひー!」
白菜を茹でていたシンジの背中に頭をごりごり押しつけてきた六華。
「しんちゃん、いてぇよー」
為す術のない痛みを紛らわせるためにシンジに縋りつく六華。
振り返ってみれば涙がぼろぼろぼろぼろ。
(可愛すぎる、黒埼君)
「なに笑ってやがんだ! ひでぇな、ドSだな、鬼畜だな、しんちゃん!」
「ごめん」
そう言われても笑みが止まらず、顰めっ面でぼろぼろ涙する六華の金髪頭を撫でてあげるシンジなのだった。
end




