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オマケ-闇金事務所のバレンタインデー

「アヤさん、買い物付き合ってくれ!」

「私ですか? 私でよければ」


 一体何の買い物だろうと、珍しい六華からのお誘いに綾人は首を傾げつつも恋人の弟についていけば。

 六華が入ったのは女子に人気のあるお洒落なスイーツ店だった。

 バレンタインデーを間近に控えた店内にはチョコレートのコーナーが設けられていて、多くの女性がわらわら群れている。

 全く気にしない六華、女子に混じって突入。


「へー、こんなに色々あんのか、ただのチョコっつっても侮れねぇな」

「六華さん、もしかして」

「ん、しんちゃんにあげようかと思って」


 二つの箱を両手にとった六華は真剣に見比べた。


「んだよ、これ、違いわかんねぇ」

「それ、どちらも同じ商品ですよ、六華さん」

「あ? あ、ほんとだ、チクショー、今ので貴重な時間を無駄にしたぞ」

「数が多いのが、こちらのようですね。でもこんな、動物を模したような可愛らしいチョコレートが今はあるんですね」

「動物? ライオン? カバ? ゴリラ? 俺、強い奴がいい!!」

「ライオンやカバやゴリラはないようです」


 二人で両手に箱を手にとっては真剣に見比べる男二人。

 売り場にて明らかに浮いていた。


「そもそも、しんちゃん、甘いもん食うのかな」

「それはまぁ、味の嗜好もありますが、頂くと嬉しいものでしょう?」

「アヤさん、兄貴にやんねぇのかよ」

「……黒埼さん、甘いもの食べられます?」

「俺に言ったことと、矛と盾じゃね、それ」

「あ、ごめんなさい」

「兄貴はな、なんっでも食えっから! だって兄貴は好き嫌いねぇから! 俺と一緒で椎茸とかキノコ類はムリだけどな!」

「それ、好き嫌いあるってことじゃないですか?」





「てなわけで、おら、チョコレート!!」

「嬉しいんだけど、黒埼君、あのね」

「な、なんだよ!? あれか、まさかしんちゃん、チョコアレルギーってやつか!? 食ったら蕁麻疹出んのか!? 見んのもダメ!? まさか気配だけで鳥肌出んのかよ!?」

「じゃなくて」


 今日、十五日だよ、黒埼君?


「あ、ほんとだ」


 やっと一日遅れということに気がついた六華にシンジはつい笑みを零した。

 ちなみに現在、店頭に赤提灯のぶら下がる居酒屋のカウンターに二人はいた。

 わいわいがやがや、おじさん連中が赤ら顔で熱燗片手に世間話に花を咲かせている傍らで、なんとも色気のないチョコレートの受け渡しである。


「ありがとう、黒埼君」


 それでもシンジは嬉しかった。

 お湯割りと牛スジ煮込みと肉豆腐を脇に寄せて、綺麗にラッピングされたチョコレートを受け取る。


「嬉しいよ」

「まじ? やったぁ」


 暖房が効いているというのにモッズコートを羽織ったままの寒がり六華、無邪気に満面の笑顔を浮かべた。


(可愛い、可愛すぎる)


 お店の中なのにジャケット着たままで、そんな寒そうにして、今すぐ抱きしめてあっためてあげたいよ、黒埼君。


(……俺、こういうキャラじゃなかったんだけど)


「でもゴリラとかシャチじゃねぇんだわ」


 六華のそんな言葉がよく理解できなかったものの、密かにキャラ崩壊を来たすほどに胸ときめくシンジなのだった。





「そんなに気に入ってもらえて嬉しいです、黒埼さん」


 綾人は結局チョコレートを買わなかった。

 代わりに、昨日、チーズケーキを作って事務所に持っていった。

 六華は「うめー」を連発して食べたものの、事務所に寝泊りしていて綾人がお菓子作りをしていたことなどまるで知らなかった黒埼は、特に感想を述べるでもなく。


『うめー。でもなんでいきなり菓子なんか作ってきたんだ?』

『え? だって今日は、』

『仕事始めるぞ、お前等』


 普段はいくら無駄話しようと放置している黒埼に六華との会話を中断され、綾人は内心「もしかして黒埼さん、チーズアレルギーだったのかも」と少しばかり不安になった。


 が、今日になって「また作ってくれ」と言われて、ずっと気になっていた綾人は一安心し、残っていた材料でチーズケーキを再びつくった。


「あんた、店出せるぞ」

「大袈裟です」

「お世辞じゃねぇよ」


 あっという間に手掴みで二つ平らげた黒埼は自宅の革張りソファに背中を落ち着けると、片づけを済ませてそばに立った綾人を引き寄せた。

 膝上に座るよう無言で促された綾人は不安定な座り心地にぐらぐらしつつ、落ち着く姿勢に何とか辿り着いて、一息つく。


「料理がうまくて床上手、非の打ち所がねぇ」

「とこじょうず……?」

「ただ、あんた、いろんな線引きが甘い」


 一重の鋭い双眸にじっと見つめられ、意味深な台詞を吐かれて。

 綾人は黒埼が何を言わんとしているのか一生懸命考えようとした。


「どういう意味でしょうか?」


 そして結局答えがわからずに素直に黒埼に尋ねた。


「一個多かったんだよ」

「……え?」

「昨日、六華に取り分けた数が、俺より一つ多かった」


 それは、黒埼が甘いものを本当に好むのかどうか不確かだったからだ。

 悪いと思いながらも六華の「兄貴に食えねぇもんなんかねぇ説」をつい疑い、均等に分けて余ったチーズケーキはこの間チョコレートを試食しまくっていた六華に与えた。

 どうやら黒埼はそれが気に入らなかったらしい。


「それで線引きが甘い、ですか」

「俺はあんたの男だろう?」

「……」

「余りは六華じゃなく俺にやるべきだったな」


 赤面した綾人にやっと気を取り直して黒埼は笑うのだった。




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