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26-エピローグ




 その日は朝から雪がちらついていた。


「ピザまん、うめぇ」


 クッションが転がるソファの上、シンジと六華はレンジで温めたピザまんとカップスープでブランチの時間をのんびり過ごしていた。


「寒ぃ。外、雪降ってんの。まじ、むり」

「でも。雪を見ながらのお風呂とか最高だと思わない?」

「あ?」


 昨夜、シンジは居酒屋で聞き損ねたことをやっと口にした。


「年末年始、休みが合えば、どこか遠出しない?」

「いきなり年末年始かよ」

「え?」

「メリークリスマスが抜けてんぞ!!」

「仕事じゃなかったの?」


 ブランケットを頭からかぶってピザまんをぱくついていた、上下スウェット姿の六華は隣に座るシンジに言う。


「せっかくのメリークリスマスだぞ、しんちゃんと特別な夜過ごさねぇでどーすんだ、コラ」

「……どんな風に特別に過ごす?」

「焼肉かすき焼き」


 六華らしい回答にシンジは心の底から笑顔を浮かべた。


「遠出すんなら田舎行きてぇな。蝶々見にいこーぜ」

「さすがに年末年始の寒い時期に蝶は飛んでないと思うよ」

「んじゃ、代わりにしんちゃん、雪みてぇなこの腕に飛ばしてくれよ」


 シンジに貸してやった色違いのスウェット、その袖を捲り上げると六華は色白の右腕をぐっと掴んだ。


 こうも毎回強請られると(ほだ)されそうになる。

 しかし一般社会人にはやはり到底無理難題、理性を起動させたシンジは「この服、サイズ大き目だね、袖が余る」とさり気なく話題を変え、捲り上げられていた袖を元に戻した。


「兄貴のやつだからトーゼンだ」

「……お兄さんの? 恐れ多いな、今すぐ脱ごうかな」


 焦っているシンジに六華は肩を揺らして笑った。

 ピザまんを食べ終えるとソファの上でごろんと仰向けになり、年上の恋人の膝枕に落ち着く。


 他の建物よりもほんの少しだけ空に近いタワマンの部屋。

 採光に富んだ大きな窓の向こうを雪がふわふわ落ちていく。


「疲れた?」


 昨夜、初めて最後まで至った二人。


「どこか痛む?」


 昨夜、奥まで優しく体を抉じ開けてきたシンジの問いかけに六華は答えず、腹にしがみついてきた。


「捕まえたぞ、しんちゃん」


 まだ食べている途中だったシンジは食事を中断した。

 こどもじみた振舞でじゃれついてきた年下の恋人に好きなだけ視線を注いだ。


「しんちゃんが別の花に目移りしねーよう」

「え?」

「俺の牡丹、枯らさないようにしねぇとな」


 胸の奥が容赦なく波打つような台詞にグッときているところへ、さらに心臓が揺さぶられるとどめの一撃を六華はかます。


「蝶は飛んでったけど、しんちゃんは俺んとこにいてほしいんだわ」


(ああ、黒埼君。愛しいにも程がある)


「そっか、何なら俺が入れっかな」

「はい?」

「牡丹に蝶。花札にもあんだろ。しんちゃんとの記念に一発ぶちかますか」

「ちょっと待って。刺青ってそんなホイホイ入れていいもの? そもそも、黒埼君、どうして牡丹を……?」


 どちらかと言えば女性が好んで選びそうな牡丹を我が身の刺青にどうして選んだのか。

 シンジの問いに六華は平然と答えた。


「背中に牡丹咲かせたら何かと釣れっかなって」

「それは……まさか女の子を釣るってこと?」

「見事に釣れた釣れた。やっぱ牡丹にして大正解だったわ」

「……」


 (ぬく)い腹に顔を埋めっぱなしの六華はくぐもった声で続ける。


「腹ペコ蝶がまんまと引っ掛かりやがった。何日も飢えてたみたいに牡丹にがっついてきて、吸うの何の。俺の背中、干乾(ひから)びるかと思ったわ。ほんとスケべな蝶々だよな。なぁ、しんちゃん?」


 自分の腹に抱きつく六華の耳がどんどん赤くなっていく。

 もう限界だった。

 愛しさが頂点に達して、シンジも、六華を抱きしめた。


「特に理由なんかねぇ。直感で牡丹にしたんだわ。でも今思えば、しんちゃんを誘き寄せるために牡丹を選んだのかもな」

「そんなこと言われたら、また……シたくなる」

「ん……いーぞ? 受けて立ってやらぁ」

「そんな。決闘じゃないんだから」


 笑い合いながら二人はキスをした。

 口づけは身も心も(とりこ)になる蜜の味がした。




本編はこれで終了となります。これまで読んでくださってありがとうございました。

後はオマケ話が四話、そして完結とさせていただきます。

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