25-2
「あっちぃ」
相変わらずアウターを着込んだままの六華は、かじかむ両手でカップをとり、砂糖多めのホットミルクをちょっとずつ飲み始めた。
(やばいな、可愛すぎる、黒埼君)
俺の部屋では暑がってすぐパンイチになるけど、寒がってる姿もこれはこれでいいな……。
「火傷、気をつけて」
「ん」
「クリスマスはお兄さんと過ごすの?」
「は? 仕事に決まってんだろ、兄貴は浮かれる世間にころっと流されたりしねぇ」
「そんな感じはすごくするけど」
シンジは自分にも淹れたホットミルクを一口飲んだ。
「あちっ」
「火傷すんじゃねぇぞ、しんちゃん」
部屋の中が大分暖まってきたにもかかわらず、六華はなかなかアウターを脱ごうとしない。
「しんちゃんの調子狂った感じ、悪くねぇ」
テーブルにカップを下ろし、うっすら膜の張ったホットミルクを覗き込んで六華は笑った。
ジンジンする舌の疼きを持て余し、ちょっと涙目になったシンジは隣に視線を傾けてみる。
前屈みになった彼は指にはめていた複数のシルバーリングを一つずつ外しているところだった。
「俺さぁ」
「え?」
「何だろな、急にしんちゃんと二人っきりになりたくなってさぁ」
六華がいきなり「お開き」にした理由。
「居ても立ってもいられないって、ああいうの、指すんだろうなぁ」
ローテーブルに全部の指輪を並べ終えた六華は。
フードをかぶったまま、乾いた空気に衣擦れの音を立て、シンジに跨った。
「何かすげぇ……しんちゃんにくっつきたくなったんだわ」
カップを手にしたままのシンジをはっきりした二重の双眸で間近に見下ろすと、年上の恋人にキスをしてきた。
フードから食み出た派手な金髪の毛先が頬に触れてくすぐったい。
目を閉じたシンジはカップを一先ずローテーブルに下ろし、六華のフードを外すと、今日一日を終えてしんなりした髪に五指を滑り込ませた。
ホットミルクで軽く火傷した舌の疼きを癒やすように六華の舌が絡みついてくる。
それほど変わらない体格なので正直重たいが、苦ではない、むしろ大歓迎だ。
触れ合う唇の感触に直向きになっていたくてシンジは目を瞑った。
モッズコートの奏でる衣擦れの音が鼓膜に心地いい。
甘えられて、過保護なくらい、甘やかしてやる。
時折小さく洩れる六華の息遣いに猛烈にそそられた。
「ふ……っ……」
自分の髪の色とはまるで違う金髪を好きなだけ弄って、そのまま、耳伝いに首筋を撫でたら。
「っ、つめてぇ!」
シンジは思わず目を開けた。
シンジの白い手を払い除け、片手で首筋を覆った六華が真正面でブルブルしていた。
「あ……ごめん……そんな冷たかった?」
唇を上下とも濡らした彼はちょっとだけシンジを睨んだ後、照れくさそうに笑った。
「見んじゃねぇよ」
「見たら駄目なの?」
「見んな」
六華は笑いながらアウターをやっと脱ぎ捨てた。
フロアライトがぼんやり灯る寝室。
ダブルベッドの上で紡がれる淡い吐息。
「感じてるしんちゃん、やっぱ、えろ」
ベッドの下は人肌の温もりが残る二人分の服で散らかっていた。
「黒埼君からされたの、初めてだから」
「よかったか?」
「よかったよ、すごく」
シンジの感想を聞いた六華は満足そうに笑うと、ぞんざいに口元を拭った。
「居酒屋出たときから、俺、こーいう気分だったんだよ」
「それは……何というか……光栄というか……」
「他の奴だったら吐いてんぞ、てか余裕でしねぇし、するわけねぇし」
「うん……」
「しんちゃんにしかしねぇんだからな」
シンジの背中は甘い戦慄に震えっぱなしだった。
思ったことを素直に言葉にしてぽんぽん放り投げる、あの六華の唇にもてなされて下半身の忍耐力は儚く散った、正に夢心地のひと時であった。
「なぁ、しんちゃん」
人懐っこい大型犬さながらに六華はシンジの上に乗っかった。
「うん……?」
絶頂が後を引き、いつになくぼんやりした眼差しのシンジは薄闇に映える彼の髪を梳く。
「だからさ」
「うん」
「そーいう気分なわけよ」
「……?……」
「鈍いぞ、しんちゃん、はっきり言わなきゃわかんねぇか?」
心地いい重みを全身で噛み締めていたシンジは、じっと意味深に自分を見つめてくる六華に、その目をゆっくりと見開かせていった。
「ちゃんと最後までヤッてみてぇ」
「いや、でも……今日、何も準備してないよ」
「準備? 何の?」
「ローションとかゴムとか」
「男同士でもゴム必要なのか?」
「当然のエチケットです、黒埼君」
「へぇ。ゴムなら前に買ったのがあんぞ」
「……」
「前にだぞ、大分前、賞味期限切れてっかもしんねぇ」
「賞味期限じゃなくて使用期限ね……」
俊敏に身を起こした六華、ベッドサイドのチェストをゴソゴソしていたかと思えば。
「んっ」
切り離されたコンドームを一つ、口に咥えてシンジの顔の前に突き出してきた。
(そんなスケベなワンコみたいな真似されて断ったら男が廃る……だろうか)
「ん」
シンジはとりあえず口移しでコンドームを受け取った。
バカップルばりのスキンシップに該当しそうだが、正直なところ、パッケージで互いの唇を切らないよう慎重に及んだ。
「俺のサイズに合うかな」
「あ? どーいう意味だ? あ?」
「冗談だよ。そうだね……とりあえず指だけ挿入れてみる?」
「何で指だけなんだよ、あ、そっか、ちゃんと風呂入って綺麗にしてくっから待ってろ」
そう言うなり六華はベッドから飛び出そうとし、シンジは慌てて彼の手首を掴んで引き留めた。
ベッドの上で居住まいを正して向かい合う。
二人とも全裸なのでイマイチ締まりのない図であった。
「急ぐ必要はないんだよ、黒埼君」
「しんちゃんは最後までヤリたくねぇの?」
「ヤリたいに決まって……うん、シたいです、ハイ」
「じゃあ今夜セックスすんぞ」
「ちょっと待って、その、黒埼君は受け手側で抵抗ない? 不安だったりしない?」
六華はポカンとした。
「あー……そだな。何か、そーいうときのしんちゃん、肉食くせぇから。俺がソッチ側になんのかなって自然の成り行きで思ってたわ。まーそれでいーかなって。ケツなんて経験ねぇけど。しんちゃんなら構わねぇ」
胡坐をかいた彼の言葉にシンジはむず痒くなり、一旦落ち着いていたはずが急速に昂ぶりそうになり、正座した。
「正座してる場合かよ、寒ぃんだよコッチは、とっとと風呂入らせろ」
「本当にいいの?」
ライトが当たって煌々として見えるシンジの肌。
こちらの感情を窺う真剣な眼差しに六華はあっけらかんと答える。
「俺ら、もうガキじゃねぇんだし。お互い気持ちの答え合わせは済んだし。合意の上なら何の問題もないんじゃね?」
シンジも六華と一緒に熱いシャワーを浴びた。
「大丈夫……?」
自分の指先の律動に合わせて揺らめく褐色の体。
しっかりした骨組みに適度な肉付き、どこからどう見ても男の後ろ姿だ。
「んっ……まぁ……想像してたよりかは……平気……ん、ん、ん……っ」
頻りに捩れる艶やかな牡丹。
いつだって威勢のいい六華が浴室の壁に縋りつき、拳をぎゅっと握り締め、途切れがちに切なげな声を喉奥に滲ませている。
堪らない。
色々と耐え忍んでいる六華を視界で存分に堪能したシンジは上体を倒した。
しっとりした牡丹の花弁にゆっくり口づける。
「きもちいいよ……黒埼君……感じてる君のこと見てるだけで、すごく、いい」
牡丹の蜜を吸うように鮮やかな背中に唇痕を付け足していく。
今夜は六華を一晩中抱きしめていたい、そんなかつてない独占欲に駆られながら。




