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23-閑話/いっぱい食べる君が大好き

 【食べ盛りのポチ君へ】


 凪を猫可愛がりしている蜩だが、時に、年下の恋人に対して否応なしに動揺することがあった。


「あ、おかえりなさい、蜩さん」


 凪には自宅マンションの合鍵を持たせている。

 レザーソファに座った年下の恋人に笑顔で出迎えられ、最高に嬉しいひと時に浸かったのも束の間、蜩は伊達眼鏡越しに自分の目を疑った。


「……ポチ君、それ、全部食べたの?」


 サイドテーブルを埋め尽くすのはアイスクリームの空のカップ。

 チョコレート、バニラ、ストロベリー、ナッツと、全種類のフレーバーが揃っているようだ。


「食べちゃいました」

「食べちゃいました、って……ここ、何時に来たの?」

「えっと、一時間前くらい、かな」

「え、一時間でこれだけ食べたの?」

「あったかい部屋で食べるアイス、おいしくって」

「それにしたって」

「チョコ食べると、バニラが食べたくなって、バニラの次はストロベリーが食べたいなって、ついつい」


 ついついの弾みで平らげる量じゃないだろう。


「あ、今日ってシンジさんやサッキーと焼肉ですよね?」


 これだけのアイスクリームを食らった胃袋でありながら、きらきらと目を輝かせて晩御飯の話をする凪に、正直、蜩は胸焼けがした。


(凪君との間に一番感じる年の差は専ら食に限るな)


 まぁ、高校生で食べ盛り、身長だってまだ伸びるかもしれない。

 だからってちょっと食べすぎじゃない?


「ポチ君、今日は焼肉じゃなくて別のにしようか」

「えっっっ」


 明らかに凪のテンションががた落ちした。

 涙目にまでなっている。


「え……や、やだ、焼肉がいい」


 滅多に反発してこない凪、食に関してだけは意固地になる。

 蜩はネクタイを緩めて伊達眼鏡を外すと、ソファに座り、涙目の凪を抱きしめた。


(うん、このサイズ、腕の中にすっぽり収まるこれくらいがいい)


「ポチ君、食べ過ぎ」

「で、でも、まだ食べれるし、お腹減ったし」

「太っちゃうよ?」

「……ぽっちゃりになったら、オレのこと、嫌いになるの?」


 伏し目がちに、おずおず、凪がそう尋ねてきた。


(ぽっちゃり。ぽっちゃりか……)


『見て見て、蜩さん、オレのお腹ぷよぷよ』


 ぺったんこだった凪君のお腹がぷよぷよした感触に……。


『二の腕、ぽちゃぽちゃになっちゃいました』


 ほっそりした華奢な二の腕にぽちゃぽちゃしたお肉が……。


「ぽっちゃりなオレ、だめですか?」

「ううん、だめじゃない、今日は予定通り焼肉にするから」

「わぁぁ~」

「好きなカルビいっぱい食っていいからね、ポチ君?」


 蜩が頭をよしよし撫でれば、凪は、頬を紅潮させながらも甘えてきた。


(うん、どんな姿になったって、凪君は凪君だから)


 いつだって僕のカワイイ恋人だから、さ。




【闇金事務所で闇鍋、じゃなくて、カキみぞれ鍋】


「……俺もご相伴にあずかってよかったんでしょうか」

「今更なに遠慮してやがんだ、しんちゃん!」

「そうですよ、シンジさんには大根をすりおろすという重労働をして頂いたんですから、どうぞ気兼ねせずに」

「シンジさん、ごはんのお代わり、持ってきましょうか?」


 闇金事務所に夜な夜な設置された、まさかのコタツ。


 六華が物置から引っ張り出してきたらしい。


 雑然たる事務所に用意されたガスコンロ、手首が重たくなるまで客人のシンジによってすりおろされた大根おろしがたっぷりかかった、ぷりぷり新鮮なカキいっぱいのみぞれ鍋。


 ほんとにここ闇金なのか、とシンジは思う。


「自分でつぎます、佐倉さん」

「ほらほら、しんちゃん! あーん! あーん!」

「ごめんね、火傷確実だからカキあーん、は、ちょっと無理かな、黒埼君」

「男じゃねぇな、しんちゃん、兄貴はできっぞ、なぁ、兄貴!?」

「男にはな、できねぇことはできねぇこと、そう潔く判断を下すことも必要だ、覚えとけ、六華」


 お湯割り日本酒を嗜みながら告げられた黒埼の台詞に六華は「兄貴かっけぇぇ」的表情を浮かべている。


 要は激熱カキで口の中火傷したくないってだけの話なのに、大袈裟だよね、この兄弟、とシンジは思う……。




「よっしゃあ、先にあがりだ、こらぁ!」

「ああ、困りましたね」

「諦めるなよ、佐倉さん、まだシンジさんが残ってるだろ」

「……あはは、そうですよ」


 四人で後片付けを済ませ、四人でコタツを囲んで何をしているのかと言うと、トランプのババ抜き、だった。


 先に黒埼が勝ち抜け、次に弟の六華が抜け、シンジと綾人が残った。


 負けた人間はコンビニまで酒を買いに行くという罰ゲームが待っている。


 寒い真夜中、わざわざコートやらマフラーを身につけ、外へ出るのは億劫極まりない。


 が、サングラスをかけっぱなしの黒埼の無言の重圧に肩身の狭さを覚え、自分が負けるべきかな、なんてシンジが考えていたら。


「しんちゃん、負けんなよ、逆境で勝利してこそ男ん中の男だぞ!!」


 六華の応援に気を取り直し、真剣に綾人とババ抜きに挑んだ、その結果。


「……完敗です」


 綾人が負けた。


「シンジさんは勝負事がお強いようで、次は自分とサシでどうですか、もっと違うものを賭けて」

「いえ、遠慮しておきます、お兄さん」

「兄貴、違うものって!? なになになぁに!?」

「では、私、行ってきますね」


 コタツから出た綾人が支度を始めると。

 黒埼もコタツを出、翼さながらに裾を翻して黒いコートを羽織った。


「煙草が切れたから俺も」

「私、買ってきますよ?」


 そんなことを言う綾人の肩を抱いて黒埼は外へ。

 残されたシンジはトランプを片づけ、六華は本日何個目かのミカンに手をつける。


「黒埼君、俺が負けてたらついてきてくれた?」

「しんちゃんが負けっかよ! おら、ミカン剥いてやったぞ、あーんしやがれ!」

「……黒埼君、あーんは嬉しいけど、さすがに丸一個は危険だよ」






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