22-閑話/ホラゲ風パラレル番外編
森の中に閉ざされるようにして建つ古びた廃墟。
肝試しに出かけた若者たちの失踪事件が度重なるホーンテッドエリア。
それでも、何人の犠牲者が出ようと、好奇心には勝てずに今宵もまた生贄達が訪れる……。
「しんちゃん、腹減ったわ」
「……この緊迫した状況でよくお腹が減るね、黒埼君」
まぁまぁ親しい知り合いや肉親などと共に廃墟にやってきたシンジと六華。
ホラー映画にありがちな展開まっしぐら、この世のものならざる不気味な影に追われてグループは散り散りとなり、どこからともなく行き交う悲鳴、極めつけは廃墟の外に出ても次の瞬間には中に逆戻りという悪夢のループ。
「しんちゃん、眠ぃわ」
呪われた廃墟に閉じ込められた二人は蜘蛛の巣だらけの陰気臭い浴室で休憩していた。
体の芯から冷えていくような容赦ない冷気に、シンジは、思わずぶるっと震える。
「眠っていいよ、俺が見張ってるから」
「寒くて寝れねぇわ」
普段と変わらない六華の様子にシンジは苦笑した。
「あそこに入ったらちょっと暖かいかも」
シンジが指差した先には猫脚の浴槽があった。
かつては真っ白に輝いていたのだろうが今は埃ですっかり煤けている。
六華はシンジに言われた通り、同じく煤けている浴槽の底に平然と体育座りで腰を下ろした。
「やっぱ寒ぃわ」
「……ごめん」
「しんちゃんも入れよ、そしたらマシんなる」
シンジは六華に言われた通り、彼の隣に腰を下ろした。
暖かいというより狭い。
はぐれた知り合い達がどういう状況にあるのか一向にわからない現時点において、シンジは、小さく笑った。
「俺達、死ぬのかな」
「不謹慎なこと言うなや」
「ごめん」
「腹減った」
「さっきのガムが最後で、もう、何もない」
「ちぇ」
六華はスニーカーを履いたままの両足をどかっと縁の向こうに突き出した。
汚れるのも構わずに深く浴槽壁にもたれ、ずっと噛んでいたガムをぺっと外側へ吐き捨てる。
「なぁ、しんちゃん」
「ん?」
「俺が死んだら兄貴にあいつは最期まで戦った、すげぇ奴だったって、伝えてくれ」
「不謹慎だよ、黒埼君」
「しんちゃんは誰かになんか伝えてほしいこと、ねぇ?」
(本当、俺にもう明日は来ないかもしれない)
「言っとけよ、なぁ」
シンジはすぐ隣に座り込む六華を見た。
六華は縦横無尽にひび割れたタイルの壁面を眺めている。
置きっぱなしにしている懐中電灯の明かりが覚束ない光の輪を描いていた。
「俺、黒埼君のこと、好きだよ」
突然の告白に六華はぐるりとシンジへ視線を移し変える。
「何でもぽんぽん言葉にして、誰にも裏表がない、ぶれない黒埼君が、好きだよ」
「……俺も」
「……え?」
「一緒にいたらわけもなく楽しくて、いつもより飯がうまく思えて、もっと色々食いたくなる。しんちゃんといたらよ」
「……漬け物みたいだね」
「漬け物と一緒いたって楽しくなんねぇぞ!」
「ごめん」
茶化してきたシンジに六華はぶすっとしたが、その肩に、頭を預けてきた。
しんなりした金髪が頬をくすぐる。
「俺達、死んじまうかもしんねぇな」
「そうだね……」
世にもおどろおどろしい廃墟の片隅で。
「死」で引き裂かれるかもしれないと、別れを恐れた二人は、愛を告白し合う。
「今、何食べたい?」
「何だっていい。しんちゃんと一緒に食えるんならよ」
「俺も」
「カオマンガイ食いてぇ」
「何でもいいんじゃなかったの?」
「ビール飲みてぇ」
「最高の組み合わせだね」
最後の夜かもしれないと、ムード皆無のおどろおどろしい浴室のバスタブ内でくっつき合う二人。
――その一方で。
「一緒に行動した方がいーんだけど、ここは放置しておきしょうか」
散り散りになっていた知り合いグループのメンバー、行動派の蜩と黒埼は浴室の扉前に立っていた。
「……あ」
またどこからともなく廃墟内で悲鳴が上がった。
「佐倉さんと凪君だ。じゃ、あっちに向かいますか」
「そうだな」
まさか、まぁまぁ親しい知り合いや肉親に愛の告白を聞かれていたとは露知らず、シンジと六華は最後(?)の夜を呑気に満喫するのだった。




