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21-2

「俺もシャワー浴びる」


 六華は浴槽内に平然と入ってきた。

 当然、素っ裸だ。

 シャンプー中だったシンジは押し退けられてよろめきつつも、頻りに瞬きして、泡が目に入らないよう注意して六華を再度見やった。


「洗ってやるよ、しんちゃん」


 突拍子もない浴室訪問に驚かされながらもお言葉に甘えることにした。

 目を瞑って頭を低くすると六華は大雑把な手つきで泡立つ髪をゆすぎ始めた。


「置いてかれるとつまんねぇよ」

「え?」

「頭上げんな、洗いづれぇ」

「あ、ごめん」

「いっつも放置すんだもんなぁ、しんちゃん」

「……黒埼君、眠たそうだったから、その方がいいのかと思って」

「ベッドで一人、風呂からする音聞いてんの、寂しいもんだぞ」

「……」

「前は相手が風呂入ろぉがケータイいじってよぉが、なんって思わなかったんだけどなぁ」


 ――しんちゃんは違うんだよなぁ――


「洗い残しねぇかな、かゆいとこは?」

「ないよ」

「おっし、完了」


 六華はシャワーヘッドをフックに戻した。

 シンジは濡れ渡る髪をかき上げて、真正面に立つ濡れかけの六華と視線を合わせて礼を言う。


「ありがとう、黒埼君」


 六華に一歩近づいて、褐色の肌に触れて。


「ごめん、寂しくさせて」


 その唇に口づけた。

 口づけるなり加速がついた。

 一線を越えた夜以来になる素肌の密着に一気に昂揚感が湧き上がり、つい大胆になった。


「っ……ふ……」


 熱いシャワーが振り注ぐ中、シンジは息継ぎも忘れて六華とキスを繰り返した。

 抱き寄せ、正面を重ね、背筋伝いに掌を這わせていく。


「ん……っ」

「あ……痛かった?」

「ん、痛くねぇ、っん」


 問いかけて、不安が解消されたら、またすぐに唇を塞ぐ。

 アルコールの余韻で熱もつ舌同士を執拗に交わらせる。

 密着した互いの下肢が徐々に力んでいくのを痛感し合う。


「このまま、黒埼君に、エッチなことしてもいい……?」


 降り注ぐシャワーの中でシンジは六華に問いかけた。

 あっという間にずぶ濡れになった六華は頷く。


「……この間よりも過激なこと、してもいい?」

「……しんちゃん、えろ」





「しんちゃんって……はぁ……っ……性格草食なのに、こーいうときは……肉食なんだな……」


 喘ぐ六華のうなじに額をくっつけ、肉食獣じみた獰猛ぶりを垣間見せていたシンジは、緩々と瞼を持ち上げた。


(あーあ、スイッチ、入っちゃったな。明日も仕事なんだけどな)


 浴室で長引く恍惚感に(よじ)れる背中を抱きしめて。

 陶然と濡れた花片をまるで(むし)るように。

 凶暴な蝶は牡丹に口づけるのだった。





「あ、キスマーク」


 綾人は反射的にうなじを片手で覆った。

 背後に立っていた六華は、してやったりな表情を浮かべる。


「引っ掛かってんじゃねぇぞ、そんなんじゃ誘導尋問ですぐゲロするぞ、こら」

「すみません」


 雑然たる事務所にて、事務員と弟のやりとりをデスクから眺めていた支配人はおもむろに立ち上がると。

 綾人に小姑の如く文句をぶつけている六華の背後に音もなく迫り、後ろ髪をぐっとかき上げる。


「べったりここにつけられている痕はなんだ、六華」

「え、え、え? み、見えねぇ! ぜんっぜん見えねぇ!」

「これって火傷じゃないですか? 病院に行った方がいいんじゃないですか?」


 六華のうなじに刻まれたものこそ紛れもないキスマーク。

 目にした綾人は本気で心配し、黒埼は首を左右に振る、六華本人は自分のうなじを見ようとその場でグルグル回るのであった。


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