17-2
「女の子にされたことあるだろう?」
「あっけど。しんちゃんのはくすぐってぇ。しんちゃん、やっぱ酔ってんだろ」
「酔ってない」
ふとベッドが軋んだ。
目線を上げれば六華と目が合う。
彼は笑っているようだった。
「前は二回とも酔ってたぞ」
「うん、前は。でも今は酔ってない……え、二回? 二回目って、まさか鍋したとき?」
「指、すっげぇ熱い」
薄闇の中での会話に胸が高鳴る。
笑みを含んだ、珍しくボリュームを落としている六華の声色にも興奮を煽られた。
「黒埼君に触ってるからだよ」
牡丹に頬を押し当ててシンジは呟く。
「黒埼君のことが好きだから」
両腕を六華の裸の胸へ回して小さく息をつき、目を閉じて、問いかけてみた。
「今、気分、悪い?」
「悪くねぇ」
シンジは目を開けた。
もう一度上目遣いに視線を持ち上げれば六華は肩越しに真っ直ぐに自分を見下ろしていた。
「気持ちいいよ、しんちゃん」
薄闇を纏って笑う六華にシンジは疼いた。
我慢できずに、そのまま六華の唇にキスをした。
先に唇を開いたのは六華の方で。
先に舌を結びつけたのはシンジの方で。
二人同時に互いの微熱に夢中になる。
唇が溶けてしまいそうだ、シンジはそう思った。
仰向けになった六華に覆いかぶさって、幾度となく角度を変えては焦ったようにキスを繰り返す。
彼の手が頭に伸びて、彼の指先が髪に絡みつくと、些細な触れ合いにさえ心臓が火傷しそうになった。
一瞬だって離したくない、ひどく甘い陶酔感に溺れていたのも束の間――。
「いたっ」
シンジは自らキスを解いた。
彼のすぐ真下で唇を隈なく濡らした六華は目を丸くさせる。
「しんちゃん、食べ過ぎか? トイレ行くか?」
「違うよ、そうじゃなくて……髪が君の指輪に……」
六華のリングにシンジの髪が巻き込まれていた。
下手に動けば引っ張られて痛みが増すため、じっとしているシンジの代わりに六華がもぞもぞ身を起こす。
彼の黒髪に沈めていた指をそっと引き抜いて、刺々しい細工に引っ掛かっていた髪を一本一本取り除いてやる。
「ウケるな、しんちゃん」
「ウケないよ、ムード台無し」
「俺ぁムードとか雰囲気とか気にしねぇけど」
「ムードも雰囲気も同じ意味だよ」
「お互い、くっつきたい気持ちがあれば十分なんじゃねぇの」
(ああ。今すぐ黒埼君のこと抱きしめたい)
楽しげに笑う六華がリングに絡まった髪を解き終わるのをシンジは今か今かと待ち侘びるのだった。
「すげぇな、しんちゃん」
「……黒埼君」
「ガチガチのカチコチだ」
「あ、ちょっと、そんな強く触ったら……いや、嘘、いいから、平気だから、もっと……触って」
シンジの切実なる願いを六華は叶えてやる。
「ん」
「……感じてるしんちゃん、えろ」
「……黒埼君だって、ずっとえろい」
「お互い様か?」
「うん、お互い様」
触れられながら触れる。
夜が深まるにつれて大胆になっていく互いの利き手。
だらしなく乱れた愛撫を繰り返し捧げ合った。
「あれあれ? 仕事中にマフラーなんて巻いてどーしました?」
昼前、平然と遅刻してきた上司が挨拶も疎かに嬉々として問いかけてくる。
シンジはパソコン画面と向かい合ったまま回答した。
「昨日、首にタトゥーをいれたので」
「……マジですか?」
その場で固まった蜩にシンジはつい吹き出した。
「冗談ですよ」
「……あ、そう」
(蝶のタトゥーは無理だけど)
君から刻まれる痕ならいくらだって甘んじるよ、黒埼君?
「兄貴ぃ、悪ぃ、今日休むわ」
カーテンに閉ざされっぱなしのワンルーム。
ベッドに寝転がった六華は兄に欠勤の連絡を入れる。
「んー……? 俺の声、嗄れてっか? 昨日結構飲んだし、しんちゃんが一晩中……あ、そういや、兄貴、覚えてねーかな? 俺がガキん頃、どっかの田舎に連れてってくれただろ? あの田舎ってどこだっけ? 今度、しんちゃんと行きてぇなって、思ってさぁ……」
――俺の好きな匂い。
それは俺を好きになってくれた奴の匂い――。




