1-出会い(簡単なキャラクター紹介あり)
【キャラクター紹介】
■宇津井シンジ 27歳/173センチ/攻
弁護士事務所の優秀なパラリーガル。
色白さっぱり顔。ポーカーフェイス。
まるでタイプの違う六華にどんどん惹かれていく。
「そこに蝶が飛ぶことは多分永遠にないから」
■黒埼六華 22歳/171センチ/受
闇金事務所勤務。
金髪。鼻ピアス。重度のブラコン。背中に牡丹あり。
ヤンチャだが年の離れた兄いわく根は真っ直ぐで純粋。
生い立ちはなかなかシビア。
匂いに敏感……? 鼻が利く……?
「この腕に派手な蝶、飛ばしたら、似合うんじゃね?」
■黒埼凌 37歳/182センチ/攻
闇金事務所の支配人。六華の兄。男前属性。
「ところでタコさんウィンナーってなんだ」
■佐倉綾人 29歳/170センチ/受
バツイチ。黒埼兄の恋人。綺麗系。眼鏡さん。
「タコさんに見立てて切れ目をいれたウィンナーです」
■蜩令二郎 34歳/179センチ/攻
弁護士。シンジのイケメン上司。軟派。でも一回り以上も年下の恋人とはプラトニックな関係。
「このコは見習いのポチ君です」
■海野凪 17歳/168センチ/受
男子高校生。蜩の恋人。蜩からは愛犬の名前で「ポチ君」と呼ばれている。
「うう……っ、ポ、ポチです」
遠い昔の夏休みだった。
「あんまり遠くまで行くなよ、六華」
大好きな兄貴の声が聞こえる。
他にも蝉の鳴き声だったり、空を横切っていく飛行機の音だったり、道路工事の騒音だったり、田舎って意外とうるせーんだな、と感じた。
膝まである草むらの中で俺はしゃがみ込んでいた。
手の中には綺麗な蝶々がいた。
「六華、かくれんぼでもしてるつもりか、返事しねぇとオヤツ抜きだぞ」
兄貴が俺のことを探していた、でも兄貴でっかいから、兄貴が来たら蝶々がびっくりして逃げるかもと思って、俺はじっとしていた。
ヒマワリにとまっていたから、ケガしないよう、そっと優しく捕まえてみたアゲハチョウ。
閉じていた手を開いても逃げようとしないで指にとまっていた。
「もしかして、お前、おれのこと好きになったん?」
ドキドキしながら聞いてみたらアゲハチョウは小さく頷いたような気がした。
■ ■ ■
空調が程よく効いた白を基調とする洗練されたレイアウトの法律事務所。
「シンジ、今日の午前中だけど」
「はい」
「銀行と家裁と簡裁と役所と法務局と郵便局行ってきて、用件はメールで送る」
「わかりました」
「それから午後は訴訟四件の申立よろしく。それからお使いね、お茶とお花。それから金曜日にいつもの焼肉予約しといて」
弁護士の蜩令二郎は弁護士会の会報をつまらなさそうにパラパラ捲りながら優秀なパラリーガルに矢継ぎ早に指示を出す。
「わかりました」
個人事務所ながらも膨大な事務作業から掃除まで一人でこなしている宇津井シンジは嫌な顔一つせずに頷いた。
煙草のヤニで黄ばんだ窓ガラスが薄汚れている、深夜のような気だるさが漂う雑然とした違法貸金業の事務所。
「おい、昨日最後の客が捺印した契約書どうした?」
「兄貴のデスクに置いた」
「ねぇぞ」
「えええええ!」
「その内どっからか出てくるだろうが」
「あああ、兄貴、ごめんなさい、許して、あっ! 兄貴っ、いい匂い!」
この事務所の支配人である黒埼凌の広い背中に弟の六華はワンコさながらに全力で額を擦りつけた。
「あの、こちらでしょうか?」
事務員の佐倉綾人が件の契約書を手にしているのを見て、六華は批難する。
「てめぇ隠してやがったな!?」
「床に落ちていたのでとりあえず私が保管していました、どうぞ」
「悪いな、佐倉さん」
「……いいえ」
「ちょ、兄貴! 俺いるから! 事務員と二人の世界に入んないで!!」
見つめ合う二人に嫉妬した六華はさらに兄にしがみつき、足まで浮かし、おんぶをせがむ。
慣れている黒埼は、決して華奢とはいえない、成人男性の一般体型にあるブラコン弟をおんぶしてやった。
いい年した弟が三十七歳の兄にじゃれつくのを微笑ましそうに綾人は眺める。
おんぶされた六華は愛する兄の温もりと匂いを満喫しつつも、穏やかに微笑している美人系男性事務員にぶすっと頬を膨らませた。