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「知らない街」
知らない街は いつも冒険のにおいがした
見知らぬ土地
見知らぬ景色
見知らぬ世界
わたしは異邦人として
そのあいだを歩いていく
落ち着かなさと
かすかな期待に胸を震わせて
きれいな花が植えられた古い家
いかにもおいしそうな雰囲気の料理店
奇妙な標語の書かれた看板
無表情に地上を睥睨する高いビルの群れ
人々はわたしの知らない話題に興じ
細い路地は迷路へと誘い
空はいつもとは違う空につながっていて
猫はあくびをして通りすぎていく
そこにはいたるところ
物語が転がっている
誰にも読まれることのない物語
誰かに読まれることを待っている物語
わたしはハレー彗星が
地球と時々ランデブーするみたいに
その物語に最接近する
でもその多くは結局のところ
わたしとは無関係に終わる
何故ならそれは
あなたの物語だからだ
だから いつか聞かせて欲しい
わたしの知らない街に住む
あなたの物語を
志坂 律子




