あとがき
――個人的な注釈と、感想と、釈明をいくつか。
まず、作品タイトルはヘッセの言葉から来ています。「詩人になりたい。そうでなければ、何にもなりたくない」。正確な原文や出典は、どうもよくわからないんですが、内容に違いはないかと。個人的には接続詞がどういうわけか、「もしくは」になっていて、タイトルもそれで通しました。
小説を思いついた最初の段階では、先輩は自分の詩を読んでもらえないことを嘆く、いじけたキャラクターでした。要するに、作者の自己投影が強かったんですが、それだとどう考えても話にはなりそうにないので、早々に今の形に調整されました。ただ、キャラクターの基本的なイメージや関係性だけは、その段階からはっきり決まっていました。
内容的には、以前に書いた作品『不完全世界と魔法使いたち』から、けっこういろいろと流用しています。連作短編形式とか、いくつかのモチーフ、アイデア、etc。この作品自体も、いつか再利用されることになるのかもしれません。
それでは以下、各話について少し書いていきます。
① シャーロック・ホームズによろしく
順番的にどうだったかは思い出せないのだけど、探偵=ホームズ、ホームズといえば「踊る人形」。というわけで、暗号問題をやろう、ということだった気がします。というより、サイモン・シンの『暗号解読』がまず頭にあった、というのが実情に近いです。
文芸部的にはポーの「黄金虫」のほうが適切な気もしたけれど、「エドガー・アラン・ポーによろしく」だと、表題としてちょっとどうかなとも思いました。
暗号的にはよくわからないのではあるけど、日本語の頻度解析だと「い」が一番多い、というようなデータもあるようです(「今のうちにいっぱい言っておいた方がいいんでないかい?」)。が、解読に使える程度なのかどうか不明なうえ、作中では関係がないので、放置する形になりました。
ついでにいうと、文字数的に考えて、各教室名などをリストアップして照合していったほうが早いのでは、とも思ったんですが、どう考えても面白くないのでその方法は回避しました。
足跡に関する伏線は、最初の時点で書いていました。基本的に、全部のプロットを詰めてから書く人間なので。
② 失われたスマートフォンを求めて
読んだことはないにせよ、プルーストの有名小説からタイトルだけ借りました。たぶん、そのうち読むことも……あるのか、ないのか。どこかの教団のリーダーでも暗殺しないかぎり、ないのかもしれない。
実のところ、スマートフォンというものをずっと持っていなくて、この話を考えている最中も、やはり持っていませんでした。小説を書きはじめた時点でも、まだ持っていません。ところが、ガラケーが停波するので無料で交換してくれる(交換しろ)、というのでスマホに切り替えました。で、問題が発生。
単純に、ロック画面というものは操作一切を受けつけないんだろう、と考えていたんですが、全然違っていて、サイレント状態にすることも可能でした。これは話の根幹にかかわることなので、かなり焦りました。話をまるっきり変えてしまうか、うまい方法があるのか、微調整で解決可能なのか。
結局、マクロ云々ということで処理したんですが、途中から書きかえることになったので、少し苦労しました。理屈のうえでは問題ないはずだけど、一抹の不安と疑問はなきにしもあらず。
③ The Catcher in the School Festival
個人的には野崎訳のほうが好きなのですが、「文化祭でつかまえて」ではタイトルとしていまいちなので、英語表記にしました。カタカナにするのも、なんなので。
謎解きゲームは自分で考えはしましたが、特にオリジナリティと呼べるものはありません。原子番号にからめた問題は、『不完全世界と魔法使いたち』でも使っています。
アフロの部長は即興での登場になりました。前日に、不意に頭の中に浮かんできて、そのままいついてしまったからです。アフロ、恐るべし。
④ まだ汚れていない怪獣たち
タイトルについて補足しておくと、これはカポーティの『叶えられた祈り』の冒頭部分に出てくる言葉からとっています。ついでにいうと、②の美術部で描かれていた絵はエドワード・ホッパーの「ナイトホークス」です。この絵が、小説の表紙に使われているので。
だからどうだという話ではないんですが。
春先生の引用したフランスの警句(川に入って濡れずにいるのは難しい)については、実のところ出典不明です。というか、本当にあるんだかどうかもわかりません。どこかで読んだか聞いたかしたはずなんですが……。
それと、千瀬の「あたしは、あたしが要求するだけのスペックを満たしていなかった」についても同様です。確か、カート・ヴォネガットの言葉(この世界は私の要求するスペックを満たしていない)だったはずなんですが、探しても見つかりませんでした。ウィキペディアで見かけたと思うんですが。
僕の記憶力なんて、そんなものです。
プロローグとエピローグのタイトルは、グレイス・ペイリーの小説からとっています。言うまでもないことですが、だからどうだというわけではありません。そのほかの表題として、「La Petite Princesse」「ティファニーで夕食を」「短いお別れ」「フランダースの猫」とか、いろいろ考えましたが、どこかで使うとも思えません。
実のところ、この作品は落選したもので(一次も通らなかった)、加筆訂正もなくそのまま載せています(誤字は直しましたが)。当然ながら、その現実は受けいれがたかったわけですが、結果は特に変わらなかったようです。結局のところ、その程度のもので、ただそれだけの話ではあるのだと思います。
それは不満を抱くようなことでも、不平をもらすようなことでもない。
ただ、それだけのこと。それで世界が損なわれるわけでも、傷つくわけでもないのだから。
――これで話は終わるわけですが、もう少しだけ「おまけ」のようなものがつきます。ここから以下に続くのは、彼女たちの書いた「詩」です。
正直なところ、僕自身は詩を書いたことはありません。考えても、うまく言葉が出てこないからです。けど、彼女たちの「声」を借りると、不思議と詩を書くことができました。仮に、それを詩と呼称してもいいのなら。
僕が詩を書けないのは、自分自身の声というものを持っていないせいのような気がします。それは一種の病気だとは思うのですが――どうしようもありません。
なんにしろ僕はやっぱり、詩人にはなれないようです。
(勘のいい人は気づいているかもしれませんが、詩の最後についている「□」は文字数あわせのためのもので、意味はありません。投稿文字制限が200文字なので。あしからず)




