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詩人にはなれない、もしくは何にもなりたくない  作者: 安路 海途
③ The Catcher in the School Festival
26/87

4(宝探しゲーム)

 校舎と運動場のあいだにある前庭には、屋台用のテントがいっぱいになって並んでいた。たぶん、学校の中ではここが一番混雑度が高くて、人ごみであふれている。花より団子、なんて言葉を人間が考えだすのも当然だった。

 屋台はそれぞれが人目をひくように、工夫を凝らして飾りつけられている。とにかく派手な色を使ったり、巨大な看板を用意したり、インパクトのあるイラストをつけてみたり。

 とはいえ今のところは、アフロもバニーガールの姿も見あたらなかった。悪くないアイデアだとは思うのだけど。

 食べものを調理する音や匂い、売り子の呼び声、通行人のおしゃべりで、あたりはお祭りらしい雑然とした雰囲気に包まれていた。

「…………」

 そんな屋台のあいだを、先輩とあたしは歩いていく。甘いものから香ばしいものまで、いろんな匂いがあったけど、そんな誘惑に屈することもなく目的の店にたどりついた。

 屋台に掲げられた看板には、「あのスティーブ・ジョブスも絶賛したりんご飴」と大書されている。隣には、何故だか目線の入った本人の肖像画までおまけされていた。裁判沙汰にならなければいいのだけど。

「本当に、ここであってるんですかね?」

 と、あたしは念のためにつぶやいてみた。

 先輩とあたしがここに来たのはもちろん、りんご飴を食べるためや、誇大広告について調査するためなんかじゃない。

 あの問題の答えが、ここを示しているからだった。

「――ポイントは、一番最初の部分ね」

 と先輩は解説した。

 

〝| ̄ ̄|=  

 |__|   〟

 は、□が空白になることを意味している。そして残りのへんてこな記号めいた線。これは、実線が空白になって、空白が実線になることを表しているのだった。

 つまり、線の部分を反転させるとこうなる。


〝  ̄ ̄  |  ̄  |    = |  |   ̄ |   ̄ ̄| 

 |__  |    |         |  __|  __|〟


 ③には濁点がつくから、正解は〝リンゴのあるお店〟だった。文化祭のパンフレットを見るかぎり、それはこのお店しかない。

「まあ、聞いてみればわかることね」

 先輩は肩をすくめてみせた。あのアダムとイブも、知恵の実を食べるまではそれが何なのかわからなかったのである。スティーブ・ジョブスがどうかは知らないけど。

 ともかくもあたしはうなずいて、質問してみることにした。

「あのー、すみませんけどここに、何か伝言みたいなものを預かってる人はいませんか?」

 すると中にいた一人が、「あれ?」という顔をする。りんごみたいな赤い眼鏡をかけた、見た感じでは人の好さそうな女子生徒だった。

「もしかして、あなたたちが――?」

 りんご眼鏡のその人は、用心しながら言う。

 先輩とあたしは顔をあわせた。どうやら、本当にここで正解みたいだ。

「たぶん、そうだと思います」

 と、あたしは慎重に答えた。

「ええ、次の問題を預かってるわよ。でもその前に、折り紙が何だったか言ってみて」

「……テントウムシです」

「おっと、正解ね。わりと半信半疑だったんだけど、本当に来たんだ」

 その人はにこやかに言った。

 どうやら、犯人は問題の行き先で、関係者の人間に次の問題を託しているみたいである。つまりこれは、一種の「宝探しゲーム」なのだった。問題を解けば、また次の行き先がわかるようになっている。

 なかなか、手の込んだ仕掛けだった。

「じゃあさっそく、次の問題をもらえますか」

 あたしは勢いこんで言った。何しろ制限時間内にあと三問、同じようなことをしなくちゃならないのだ。

「いいけど――」

 と、その人はにこやかな笑顔のままで言う。

「せっかくだから、一つ買っていってくれないかな? 一応、手間賃てことで」

「…………」

 どっちかというと、あたしたちも手間をかけさせられているほうのような気はするのだけど。

 とはいえ、ギブ&テイクが世の習いだった。得ようと思えば、まず与えなくちゃならない。とかくに人の世は住みにくい。

「じゃあ、一つください」

 と、あたしは仕方なく言った。

 ちなみに、「スマホで決済はできますか?」と訊くと、「無理です」の答えだった。電子マネーが普及しないわけである。

 あたしは百円を払って、りんご飴を一つもらった。店先には逆さにくっついた風鈴みたいな格好で、赤いりんご飴がいくつも並んでいる。ちょっと夢にでも出てきそうな、特殊な光景だった。

「毎度ありがとうございます――じゃあこれ、はい」

 と言って、その人はあるものを渡してくれる。

 りんご飴といっしょにもらったそれは、またしても折り紙だった。今度はテントウムシじゃなくて、タコである。ちゃんと足も八本あった。

 あたしがその折り紙についての造形的な批評を行っているあいだに、先輩は隣でこんな質問をしていた。

「誰がこれを置いていったのか、教えてくれませんか?」

 考えてみるとそれは、犯人につながる重要な手がかりなのだった。

 けれど――

「ごめんなさい。きつく口止めされてるから、それは言えないわね」

 と、質問の()()はなかった。まあ、当然かもしれない。これだけ用意周到に準備しているのだ。それに犯人がわかったところで、その居場所がわからなければ、意味なんてないのだった。

 先輩とあたしは、お礼を言ってその場を離れた。少し先にベンチがあったので、いったんそこに腰を落ち着ける。まわりには同じようなベンチがいくつもあって、歩き疲れたらしい人たちが何人も休憩中だった。何だか、太陽の光までくたびれている感じがしないでもない。

 手に持ったりんご飴を眺めながら、あたしはそれをどう処理してやるか考えていた。この奇妙なお菓子をどう食べるかは、意外と難問なのだ。百人いれば百通りの、とまでは言わないけど、五、六通りくらいの食べかたならあるかもしれない。

 そんな難題に挑戦するあたしの横では、先輩がタコの折り紙を開いていた。はたせるかな、そこには次の問題が書かれていたみたいである。

「――何ですか、それ?」

 と、あたしは首を傾げた。


〝○ 春 弱 靑 虎 豊

 × 夏 強 赤 竜 貧

 ○に関係したゲームのある場所〟


 折り紙には、そう書かれていた。

「いわゆる、あるなしクイズというやつね」

 先輩はじっと、その紙面に目を落としながら言う。

「○に共通する何かが、次の目的地に関するヒントになっている」

「ふむ」

 とあたしは考えてみたけど、何も思いつかなかった。下手な考えは休むのに似ているらしいので、ここはいったん休んでしまうことにする。

「……ところで、先輩はりんご飴ってどう食べますか?」

「そんなのは自分で考えなさい」

 あたしの深遠なる悩みの種を、先輩はぴしゃりとはねつけてしまった。

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