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幸せひいな
ひな祭り。恋愛系。
「もう少しでひな祭りか。そっちは何かするのか?」
彼は、売場に陳列されたちらし寿司と店頭に並んだPOPを物色していた。
スーパーの店内では、普段とは違う和風調の音楽が流れている。
「ひな人形、飾ってあるよ。私の家はそういう行事、大好きだから」
毎年、ひな祭りが楽しみだった。お父さんが和風のケーキを買ってきてくれて、お母さんはちらし寿司を作ってくれて、お姉ちゃんと七段飾りのひな人形を飾りつけて。
「今年は、私だけだったな」
小さな声が口から抜け出ていく。
大学受験の失敗を機に、塞ぎこんでしまった姉の姿を思い出し、胸がズキっと痛んだ。
「買い出しの礼、好きな物作ってやる」
ややハスキーな柔らかい声色が聞こえ、視線を上げる。
大きくて温かい手が、私の頭を軽く滑った。
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