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いつも通りのバレンタイン
バレンタインと恋愛系。
透明なラッピング袋に、小さなクッキーを五枚入れた。チョコチップの入った、形のそれぞれ違う可愛いクッキーだ。
でも、絶対にハート型は使わない。
それがあたしのこだわりだった。毎年、あいつにお菓子を作り続けて、十年以上経つ。
――はい、これ。ハッピーバレンタイン。
今年もそう言って、あいつにこれを渡すだけだ。本命とも、義理とも言わずに。
玄関前の姿鏡を見る。やけにこざっぱりとした、ベリーショートのあたしがそこにいた。
ポニーテールはもう止めた。見せる相手はもういない。
胸の奥が、グッと潰されるように苦しくなる。目頭に熱が集まってくる。
ダメだ。今泣いたら、渡せなくなる。
震える唇に力を入れて、真一文字に結んだ。
牡丹の残り香を纏ったあいつに、お菓子を渡す。そして、帰ってきてから泣こう。
あたし達が、いつも通りを続けるために。
ご愛読、ありがとうございました。