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甘美な酸味を
自殺予防週間。
「お姉さんは、最近どうだ?」
私は、オレンジタルトにフォークを刺したまま手を止める。そして、彼へ視線を上げた。
彼はチョコクッキーを小さく齧って、微糖のコーヒーを啜っていた。
「お姉ちゃんの事聞いてくるの、珍しいね」
「不謹慎だけど」彼は言い淀みながら、言葉を続ける。「自殺予防週間の記事を見て」
私は返す言葉を考えながら、ブレスレットについてある花の装飾を指でなぞった。
「……自殺はきっと大丈夫。誰かに、殺されたがってる時もあったけど」
オレンジタルトを口に運ぶ。
タルトの上に並ぶオレンジは酸っぱかった。
「人殺しには、なるなよ?」
笑いながら被りをふろうとしたが、言葉が喉奥へと押し込まれる。
彼の瞳に、冗談の色が混ざっていなかった。
無言で頷いた私が気になったのは、その後の沈黙ではなく、彼の重苦しい雰囲気だった。
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