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欲しがり嘘つき
エイプリルフール。
背表紙に指をかけ、棚から本を取り出す。
「あれ、何であんたがいんの」
俺が声の方へ顔を向けると、幼馴染の女が立っていた。お互いに地元を出たはずなのに、同じ大学に通っている腐れ縁だ。
「新学期だから、新しい参考書を買いに」
女は「一緒か。彼女さんは?」と言葉を返し、俺の背にある本棚を漁り始めた。
「今日は一人」
「そ。あたしも彼氏欲しいなぁ」
「お前なら、すぐできるだろ」
「何それ。理由は?」
俺は心理学の参考書をペラペラとめくる。
「性格も顔も、悪くないじゃん」
「……あんたのこと、好きだったんだよ?」
スマホを取り出す。4月1日と表示された。
「なんてね。今日くらい、悪くないじゃなくて可愛いって言ってよ。嘘でもいいんだから」
俺は苦笑を浮かべながら、どこかで胸をなで下ろしていた。
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