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毛並みは牡丹餅
お彼岸。神様。猫。
沢山の人間達が、鳥居をくぐってここから出入りしていく。温かい陽光に照らされる彼らは、のどかであり、朗らかでもあり、それでいて、どこか神妙そうな面持ちでもある。
桜の蕾も膨らみきったこの時期は、毎年そうだった。お彼岸、と言うらしい。
お彼岸は春と秋にあるけれど、僕が好きなのは春の方だ。
ぼた餅とおはぎの二つは、どちらも本当に美味な供物だが、どちらかと言えば、ぼた餅の方が好きなのだ。
ぼた餅は、牡丹餅である。春の花から名付けられた。そして牡丹は、若々しくて愛らしい、艶やかな花だ。
僕は目を瞑る。髪を梳かすように、ゆっくりと魂をその器に注いでいく。
そうして僕は猫になる。ぼた餅のような深い光沢を持った黒猫だ。
さて、今日も牡丹の香りへと歩き出そう。
僕は前足を前方に伸ばし、深く伸びをした。
ご愛読ありがとうございます。