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第3話:悩める女子高生と仲良くなるぐらい

 世界が終わるまで、あとだいたい2日。

 だいたい、というのも、ラジオすら受信されないのだから、情報のかけらも入ってこないから、明確な終わりが分からないのだ。だから周りの空気感で何とか理解する。

 昨日よりも分厚い灰色の雲と、一段と寒くなった気温。そして周りの寂れた空気感。

 世界が終わるのもあと2日なんだなー、と嫌でも分からせられる。

 それでも気分だけは少しだけ浮ついていた。何故か。それは分かっている。


「はい、今日の朝食」

「……また缶詰ですか」

「缶詰あるだけでも嬉しいことだと思うけどな」

「分かってますよ……」


 昨日の晩に使ったお箸を再利用して、ぱくぱく。

 洗うための水はもう出てこないんだから仕方ない。


「本当に暇ですね」

「だね。今から川にでも出かける?」

「移動手段はあるんですか?」

「社会人を舐めないで。車はちゃんとあるから」


 サムズアップして、そう伝える。

 多分ガソリンがあったはずだから、それで川まで行って暇つぶしというのも悪くないだろう。

 気温が低いとは言っても、石切りを極めたら1,2時間は軽く経過するはずだ。水に入らなくても、やることはたくさんある。


「と思ったんだけどなぁ……」

「ガソリン、抜かれてますね」

「してやられた」


 終末ともなれば、人の民度も落ちていくわけで。

 窃盗まがいのこんなことや強盗に強姦。あぁなんという終わりの世界。何やってもいいと思ってるんだもん。私はそんな無粋な連中になりたくないし、おとなしく家に引きこもっていよう。それはそれで暇なんだけど。


「どーしよ。何かあったかなー」


 クローゼットを漁ってみるけれど、見つかるのは人生ゲームだけ。マジか。これやるの?

 ちらりと箱をマナの方に見せてみて、1つため息をかけられる。やらないよりはましか。


「しりとりと人生ゲーム、どっちがいい?」

「人生ゲームで」


 そんな感じで始まったのが、2人だけの人生。

 とは言ってもやったことなんてほとんどないわけで。

 こういうのって、基本は友達が泊まりに来た時しかやらない。友達も地元に置いてきた私だ、持ってきたはいいものの、やる相手がいないから埃をかぶっていた。

 世界が終わる前に億万長者になれるんなら、それに越したことはないか。


 ルーレットを回して出た目で止まって、今と変わらない職業を手に入れて。

 って、これじゃあ今の私と同じじゃないか。それでもじきに私の人生からは離れていくだろう。例えば、この結婚のマスとか。


「結婚マスって、なんで必ず止まらなきゃいけないんだろうね」

「ルールだからじゃないですか?」

「そういう概念が古いと思うんだけどな」


 旦那さんを1人とともに、ため息も一緒に置いておく。

 これでも昔はちゃんと恋をしたし、彼氏もいたことがある。けれど、高校生のカップルなんて長続きするものではない。別れてそれっきり会話もしなくなった。

 だから地元に置いてきて、私はここで仕事に励んだ。励んだ結果が、浮いた話のない真面目なOLなわけでして。


「でも、分かるかもしれないです」

「許嫁とかいたタイプ?」

「違います。……なんというか、一生一緒にいるんだろうなーって人がいたんですけど、他に好きな人ができたとかで別れちゃったから」


 やっぱり男か。それも結構天然なクズ。移り気な性格の男を選んでしまったことに同情しながらも、少しだけマナちゃんの重たいところが見え隠れした気がする。


「それで嫌になって隣町から逃げてきたと」

「フウナさんに分かりますか?! 世界が終わるからって好きな人といたいって一昨日言われて……。ユウキくん、やっぱり私よりもレイのことが好きだったんだ……」


 しばらく口に出してから、ようやく気付いたようで口を手で覆う。

 そうだよね。気づいたら自分の身の上話を知らないお姉さんに口走っていたんだから。

 しょんぼりとした様子で、すみませんと口に出す。別に謝ることじゃないのに。


「それはユウキくんが悪い」

「え?」

「彼女を世界が終わる前にほっぽり出して、別の女のところに行くの、どう見てもカスだよ!」

「カ、カスって。ユウキくんはそんなんじゃないです!」

「仮にそうだったら、今隣にいるのは野暮ったいOLじゃなくて、彼氏くんだったでしょ?」

「うっ……」


 正論をぶつけるべき相手ではないのは分かっている。

 でも私だって、話を聞いているだけでキレていいと思った相手だ。きっとマナちゃんもそう思っているに違いない。


「た、確かに最近付き合い悪かったですけど……」

「でしょ? だったら叫ぼう!」

「で、でも。ここ街中ですし」

「誰もいないし、聞こえたって2日後にはみんな死んでる!」

「そうですけど!」


 私の勢いに思わず笑いが混じった返事をするマナちゃん。

 真面目なんだろうなってのはあったけど、もう1つわかったことがある。押しに弱い。


「ユウキくんのバカ……」

「声出して!」

「ユウキくんのバカ」

「もっと!」

「ユウキくんのバカ!!」

「もう一声!」


 息を思いっきり吸い込んで、茶色い髪を翻して窓の方に向かって……。


「ユウキくんの、バカァアアアアアアアアア!!!!!」


 カラスがワーッと飛び出し、空へと昇っていく。

 息を切らせながら、全力の声を出した彼女は今までの鬱屈とした表情はなかった。


「なんか、すっきりしました」

「それはよかった。家に帰る?」

「帰りません。ユウキくんと一緒に死ぬって言って別れちゃいましたし」

「あーらら」

「だから。……フウナさん。死ぬまで一緒にいてくれませんか?」


 スカッとしたり、ともすれば自分の胸元を掴んで。

 まるで恋する乙女のようにも見える眼差し。私がもう10年若かったら、きっと2つ返事でOKすると思う。

 なら今の私なら? 答えは決まっている。


「じゃ、人生ゲームの続きでもする?」

「……っ! はい!」


 素直じゃないと言われてもかまわない。けれど、言われて年甲斐もなく嬉しくなって、コマを動かす手が弾んでしまう。まったくちょろい生き物だこと。

 死ぬまで一緒にいてくれませんか? か。一生で一度は言われたいこと、今言われちゃったかー。

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