夏の吹雪と酒の為 -4
降りしきる雪の中、柱に近づくと付近には凍死体がいくつかあり、そのまま置いてあることから彼らが死んだ時は誰も近づくことができないほどの寒さだったのだろう。
ローグは柱と言ったようだが少し違った。コレは、
「お前の再現か?だとすれば随分とお粗末だな。永久凍土に氷の属性痕とは」
ナイトメアは首に手を添えてポツリと話す。
「かつて、氷瀑の化身と恐れ崇められた龍、ヨトュン。俺とアイツの戦友」
確かめる様に呟いたのは今はもう遥か遠い地に恋人と共に行ってしまったかつての戦友。目の前にある柱のような物はそいつを模して作られた、ただの土塊。
確かにヨトュンと同じ位の冷気は出せたのだろう。だが続かなかった。
「当たり前だ。アイツの冷気は側にフブキがいてこその物だ。それを…」
「生半可な状態で起動したから、でしょ?ワタリガラス君」
冷徹な様でそれでいて暖かみのある篭った女の声が後ろから聞こえてきた。こんな雪の中であっても音を立てずに動くことができる女性は知る限り1人しかいない。
「フブキか。お前もここの調査か?だったら今終わるとこだ」
「今はブリザードよ。随分と偉くなったみたいね?私も嬉しいわ」
短く切った銀髪に雪を積らせ、ナイトメアの横に立ち並ぶ。見ない間に傷が増えた様だ。口元を覆うマスクも変わっていない様に見える。
「貴方も…随分無茶してるみたいね。ナ…レイスは元気?」
「元気だ。それよりも、何でここに居る?」
視線を向けると彼女は死んだ様な眼をしていた。…随分と自分を追い込み、絶望を味わった者の眼はこの様に燻んで、死んでゆくのをナイトメアは知っている。
「ケジメよ。…私も馬鹿だったみたいね。貴方もそう思うでしょ?ワタリガラス君」
「お前…。そうか、コイツを壊しに来た、が正解だな」
小さくコクコクと頷く彼女の目から涙が数滴流れ落ちたのは…見なかった事にしよう。
爆薬を仕掛け、起爆プラグは刺す。これで遠隔起爆はできるようになった。後は…
「ブリザード、やるか?」
そう言って差し出したスイッチをそっと取ったブリザードは、そのまま声も掛けずにいきなり押した。
爆破の直前まで俯いていた彼女が顔をあげて柱を見て何かを呟いた。聞き取る事は、できなかった。
「……」
遠くでローグの驚く声と怒号が聞こえる。やっぱり俺がやった方が良かったかもしれない。彼女は昔からそういうところがある。
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「何はともあれ、解決…かな。あー、そう怒るなってローグ。謝るからさ」
「あんたはさぁ!ああ、もう!帰ったら奢れよ!いいな?!」
ブリザードとはペリカ皇国に報告をする前に別れた。
ローグが俺に爆薬を渡した時、早口だったのはブリザードを雪女と見間違えて怖かったから、と言う理由だった。あの時にはもういたのか。
ナイトメアが帰りの車の中考えていたのは、ブリザードのケジメについてとそんな事だった。
外の雪は止み始め、風にも夏のあつさが戻って来ている。
「霜は吹雪の前に来る…か。いつもそうだったなアイツらは」
「何だ?隊長。思い出に浸ってんのか?」
「そんなとこだ。今回はお前に負担掛けちまったからな、俺のウイスキーでも開けようかと」
「マジで?!Ура‼︎」
たまにはこんな仕事があってもいいかもしれないと思うし、いつかの仲間の思い出を思うのもいい。
なんにせよ、雪はその後何事も無かったかの様に消えていったそうだ。勿論、酒は無事に作る事ができた。
夏の吹雪と酒の為編はこれでラストになります。次回からはまた異なります。