スキル覚醒④
裸のまま真剣な話をしてもあれなので、とりあえず僕は服を着た。
夢の内容を鮮明に覚えていたので、僕はバラカとレイラに話した。
やがて、話し終えると、二人は顔を見合わせて首を傾げた。
「先代ファラオの記憶、予知夢、何者かによる精神干渉……、可能性を上げたら切りがありませんね」
バラカは親身になっていった。
「ただの夢だったりして」
「それはそれでファハド様がファラオとしての自覚を常日頃から抱いているということなので、良い傾向ではありませんか」
「あ、確かに」
「それは良い傾向なのかな」
僕としては微妙な気持ちである。
「ひとまず、敵からの攻撃の可能性もあるので、遺跡の外へ退避すべきです」
「賛成」
「にゃーん(危ないのは御免よ)」
「そうだね。二人の判断に従うよ」
そうして、僕たちは来た道を戻ろうとして、その足を止めざるを得なかった。
突如、目の前の通路が音もなく壁に入れ替わった。
「何が……、コロシアム……!?」
「にゃにゃ(なに? なに?)」
壁に沿って視線を巡らせると、僕たちはコロシアムの中に佇んでいた。
「これは途絶結界です!」
バラカは気を張り詰めた鋭い雰囲気を纏っていた。
「途絶結界って?」
「簡単にいうと、閉じ込められたの」とレイラ。
「なるほど。このコロシアムが檻なんだね」
「うん」
「このままずっと閉じ込められたままってことはないよね?」
「途絶結界は術者を中心に展開されるので、術者は必ず途絶結界内に居ます」
バラカは周囲を警戒しながら答えた。
「それなら、僕たちを閉じ込めた相手を探し出さないとだね」
「はい、その通りです」
「どこに隠れているのかなー?」
レイラは手を双眼鏡のようにしていった。
「――隠れる? 俺は初めからここに居るんだが?」
コロシアムのいわゆる特等席に、フードを被った男が鎮座していた。
「どなたか存じませんが、ここから出してもらえませんか?」
僕は下手に相手を刺激しないよう打診してみた。
「にゃにゃーん(私、こいつらとは無関係よ)」
「断る! ここを出たければこいつを倒すことだ、死に物狂いでな」
フードの男が指をパチンと鳴らすと、コロシアムの外から一頭のミノタウロスが跳び込んできた。
ミノタウロスは赤い毛並みをしており、僕の知識にあるものとはかけ離れた容姿をしていた。
「にゃー!(きゃー!)」
「ミノタウロスの変異種、それを従えている……!?」
モンスターは基本的に人に懐くことはなく、スキル『テイム』を使用しても、元々気性の大人しいモンスターしか従えることはできないのである。
ミノタウロスが人に飼いならされているなんて話は聞いたことがなかった。
「ムスタラ、これはどういうつもりでしょうか」
バラカはフードの男を見上げていった。
「試練にしてはやりすぎ」
レイラはフードの男を指差して注意した。
「ムスタラって、バラカたちと同じ時代にファラオの護衛候補に選ばれた人だよね? それとも同名の別の人かな?」
「ファラオの護衛だったムスタラです」
バラカははっきりと口にした。
「腐ってもアルスウル出身の訓練生たちだな。気の流れを読まれると隠し通せるはずもないか」
ムスタラは観念してフードを脱ぎ捨てた。
フードの下には、編み込んだ髪の毛をオールバックで固めていた。
「もう一度問います。ムスタラ、これはどういうつもりでしょうか」
「お前たちも薄々気付いているはずだ。今の時代に邪神アポピス様の軍勢を凌げる戦力がないことに。そして、当代のファラオが俺たちにすら劣る出来損ないだということに」
ムスタラは嘲笑混じりにいった。
「あなたには色々と聞きたいことがあります。大人しく降伏しなさい。今ならファハド様に対する不遜な言動の罰として、苦しまずに逝かせてあげましょう」
「石打ちや火炙りは嫌でしょ?」
レイラは気遣っているとも脅しているともとれる台詞を口にした。
「お前たちの方こそ考え直すんだな。そこの出来損ないのファラオを差し出すだけで、邪神アポピス様が支配する新たな世界で望み通りの生活・人生が手に入るんだ」
「私の望みが叶う……?」
バラカの眼光がぎゅっと一回り窄んだ。
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