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猫派⑧

 翌日から、僕たちは遺跡巡りを始めた。


 遺跡に試練があるかどうかは、バラカとレイラの感覚頼りになる。


 優先的に巡るのは、依頼が出ているところからである。


 お金も稼げて、名声も上がって、遺跡の調査もできて、まさに一石三鳥である。


「こらレイラ、引っ付きすぎですよ。ファハド様が歩きにくそうにしているではありませんか」


「バラカお姉さまの方こそ、その脂肪の塊を当てすぎ」


「当てているのではありません。自然と当たるのです」


「同じことだし」


「二人とも揺らさないで、目が回っちゃうから」


 一応、世界の命運がかかった冒険のはずだが、微塵も緊張感がなかった。


 そして、まさかカミールが僕たちの与り知れないところで死闘を演じているなんて、夢にも思わなかった。




 カミールは冒険者ギルドの本部へ難なく潜入し、ムスタラの遺跡に関する部外秘の資料を閲覧した。


 ムスタラの遺跡が発見されたのは凡そ997年前、過去に何度か大規模な調査が行われているが、いずれの場合も他の遺跡と同様に成果はなかったと記録されていた。


 特段、ムスタラの行方を示唆する記述は見当たらなかった。


 早々とムスタラの遺跡に関する情報を集め終わったカミールは、ピラミッドに関する記録にも目を通した。


「ピラミッドがこの世界に出現したのは998年前、我らが遺跡に入ったのは1008年前。我らが遺跡に入ってからの10年間の記録が抜けているというわけか。いや、その10年間に記録が失われた。一体何が……」


 しかし、冒険者ギルドの本部にはこれ以上ピラミッドの成り立ちに関する記録は保管されていなかった。


 書類のほとんどが、冒険者ギルドに登録されている冒険者の個人情報だからである。


 登録されたばかりのカミールやレイラの書類は、まだ収められていないようだった。


「これはバラカの記録か」


 バラカの記録があるということは、当然カミールが気になって止まないあの方の記録も保管されていた。


「これは、我が主の記録……」


 カミールはごくりと唾を飲み込んだ。


 これを覗くということは、ある種の背信行為になるかも知れないと理解しながらも、カミールは書類を捲る手を自制することができなかった。


 自分の知らないファハドの記録を取り込む毎に、心が満たされていった。


 そして、ファハドの出生に関する記録に差しかかったところで、カミールは眉を顰めた。


「お叱りを受けるかも知れませんが、我が主に確認しておいた方が良さそうですね」


 ファハドの書類を棚に戻すと、カミールは冒険者ギルドの本部を後にした。


 ファハドたちは遺跡の攻略に出ているようで、自宅には戻っていなかった。


 バラカのカヤリ(オウム型)がお留守番していたので、入れ違いにならないよう言伝を残しておいた。


 カミールはその足で冒険者ギルドへと向かい、そこで思わぬ人物と出くわした。


「まったく、あれだけ忠告したというのに」


 カミールはやれやれと頭を振った。


 ムルジャーナが喫茶店の窓際の席から、冒険者ギルドの出入り口を見張っていた。


 カミールは敢えて目立つ場所に立ち、ムルジャーナはこちらに気付いた。


 ムルジャーナは急いで紅茶を流し込むと、喫茶店を出て駆け寄って来た。


「二日振りね」


「忠告したはずだ。もし次にその顔を見せた時は――」


 そこでカミールはムルジャーナの纏っている異質な流れに気付いた。


「――貴様、それをどこで手に入れた?」


「あら、私のことが気になるの?」


「えぇ、それを我が主に向けるというのなら、このまま貴様を逃がすわけにはいかない」


 カミールはムルジャーナを真っ直ぐ見据えていった。


「ふふ、ようやく私のことを見てくれたわね。安心しなさい、これはあなたに使うために持って来たのよ。あなたってファハドに仕えているから内面は残念っぽいけど、見た目はそこそこだから、私が調教し直してあげるわ」


 ムルジャーナは嫌らしく笑った。


「なるほど。最初から狙いは我の方だったというわけか」


「そうとも知らずに、のこのこと私の前に足を運んで間抜けね」


「御託はいい。早くそのセネトを挑んでこい」


「へぇ、これが何かわかるのね」


「セネトの中でも負かした相手を思い通りにできる、精神支配とも違う、呪いに近い効果を持つ物だ」

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