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憧憬の眼差し⑤

「ちょっと待って、いや、待たなくていいけど、何かとんでもないことを教えてもらったけど、このことは口外無用だよ」


 人類がピラミッドの謎に挑み続けて早千年、まさか一人の少女から真相に辿り着けるとは誰も想像していなかっただろう。


「心得ております。兵力が揃うまで、派手な行動は慎む方針ですよね」


「うん、そうだね」


 千年前の時代に生まれ育ったバラカであれば、ピラミッドの成り立ちについて知っていても何ら不思議ではなかった。


 ただしバラカがいくら真相を語ったところで、そこには何の説得力も証拠もなかった。誰にも相手にされないか、白い目を向けられて鼻で笑われるのが関の山である。


 一つ引っかかるのは、千年前の時代に周知だった事柄が、現代に何一つとして伝わっていないことだった。


 書物や石碑に形として残っていなくても、親から子へ伝聞するだけでもいい。童話や民謡に形を変えて残っていても不思議ではない。


 しかし、ピラミッドの成り立ちについての真相は、何一つとして残されていなかった。バラカが首を傾げていたのもこの点だろう。


「それでは参りましょう」


「あ、うん」


 僕が思考の迷宮に迷い込む寸前のところで、声をかけられて我に返った。


 僕たちはオベリスクを乗り継いで、ヤタラワーの森最寄りのダークエルフの村へとやってきた。


 村は小高い丘の上にあり、ヤタラワーの森を一望することができた。


「なるほど、北東から東にかけて崖になっているんだね」


 地図では見切れているが、これは有益な情報だった。


「ファハド様、景色を楽しんでいるところ申し訳ないのですが、遭難者の救助へ向かわないのですか?」


「別に景色を楽しんでいるわけじゃないからね!? この広い森を闇雲に探すよりも、遭難者の身に何が起こったのか推測して、ある程度場所を絞り込んだ方が早く発見できると思うんだ」


「私としたことが、また早とちりをしてしまいました」


「考えて考えて結局的外れな推測を立てることだってあるし、それなら最初から現場へ出向いておいた方が良かったってなるし、一概にどっちがいいとはいえないんだけどね」


「ファハド様、もっと私を慰めてください!」


 バラカは両手を広げて抱き着こうとするが、僕はこれを予測して華麗に躱した。


「ぐう、ファハド様意地悪です」


「今はそんなことしている場合じゃないでしょ」


「……はい。ところで、ファハド様は遭難者の身に何が起こったとお考えでしょうか。是非とも聞かせてください」


「もし三人の冒険者が生きているのだとしたら、ゴブリンのコロニーがあった場所から崖の方向へ逃げている可能性が高いと思うんだ」


「え、なぜそのようなことがわかるのでしょうか」


 バラカは驚きつつも興味深そうにした。


「簡単な話だよ。オルトロスの爪は崖上りに適していないし、羽も生えていないからね。崖の反対側からやって来たと考えるのが自然でしょ? さらに付け加えるとゴブリンの目撃情報からコロニーの位置がこの辺りだとすると、村が南側にあるから、オルトロスの群れは西か西南西からやって来て、冒険者たちは東北東の崖付近に逃げて身を隠している可能性が高いと思うんだ」


「決まりです! 遭難者は東北東の崖に隠れているのです!」


「バラカ、気が早いよ。まだ森の中にすら入っていないんだから」


 僕は高ぶるバラカをどうどうと宥めた。


「それではカヤリに先行して、偵察してきてもらいましょう」


 バラカはイヤリングを外すと、周囲の青葉を引き寄せ鷹の形を象った。


 イヤリングの宝石は、鷹の目の部分となった。


「鷹の目とは心強いね」


「鷹ではありません、カヤリです」


 カヤリは猛禽類特有の金属を引っ掻いたような、背筋をぞわっとさせる鳴き声をあげて、天高く飛んでいった。


「ははは……。それじゃあ僕たちは先にゴブリンのコロニーがあった場所を目指そうか。ゴブリンロードも確認されているという話だから、そこで返り討ちに遭った可能性もあるからね」


「カヤリ、ファハド様の背中をお守りしてください」


「今回もよろしくね」


 僕はすっかり顔馴染みとなった犬型カヤリに挨拶した。


「わんわん!」

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