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最低の仲間③

 自分向きの求人も出ていなかったので、僕は冒険者ギルドを後にした。


 その帰りの道すがら、僕の人生を大きく変える三人に声をかけられた。


「やあファハド、ちょっといいかな」


 振り返ると、親しみやすい笑顔を張り付けた男が居た。


 両脇にはそれぞれタイプの違う綺麗な女の人も居た。


「えっと、誰ですか?」


「俺はサイード、冒険者だ。後ろの二人はムルジャーナとアサーラだ」


「こんにちは」


「どうもぉ~」


「はあ」


 腰に差した立派な剣を見れば、この町の住人なら誰だってサイードが冒険者だと思うだろう。


 僕が聞きたかったのは、サイードの素性だ。


「立ち話もなんだし、そこの店でランチでも食べながらどうかな? もちろん、奢るよ」


「はい、話だけなら」


 万年金欠の僕は、まんまと一食の飯に釣られてしまった。


 店内はお昼時ということもあって、賑わっていた。


 僕たちは階段下の窮屈な、いい風にいえば隠れ家っぽい席に座った。


「初めまして、私はムルジャーナよ」


「私はアサーラでぇす」


「僕はファハドって言います」


 向こうは僕のことを知っているようだったけど、一応自己紹介した。


「俺たちは三年くらいパーティを組んでいるんだけど、最近探索に行き詰っていて、新しいメンバーを加入させようっていう話になっているんだ」


「はあ」


 僕はいまいち話の流れを掴めないでいた。


 まさか僕が勧誘されるなんて塵ほども考えていなかったからだ。


「ファハドさえ良ければ、俺たちのパーティに加入してもらえないだろうか」


「え?」


 その言葉は僕にとって寝耳に雷くらいの衝撃があった。


 予想外かつ衝撃的過ぎて、脳が痺れた。


「失礼を承知で、君のことを少し調べさせてもらった。孤児院出身で年齢は十七、幼少の頃から冒険者を志し、クンアクア訓練学校を卒業。性格は忍耐強く、ややお人好しの傾向あり。スキルはオーバーウェイトとアプライザルを習得。大規模遠征には日雇いとして誘われるが、特定のパーティには所属していない」


「よく調べましたね」


「前々から気になっていたんだ」


「うん、結構有名人だよ」


「本物に会えて嬉しいなぁ」


「俺たちのパーティは高みを目指すつもりだ。そのためには君の力が必要になる。近い将来、世界は君の存在価値に気付くだろう。だからその前に、こうしてスカウトしておこうと思ったのさ」


「あの、とても嬉しいです」


 僕は素直な感想を述べた。


「ということは、俺たちの申し出を受けてくれるということかな?」


「でも、僕まだ皆さんのこと、あまりよく知らないですし……」


「はっはっは、そりゃそうだな! でかい口叩いている割に、全員ブロンズ級でしたじゃお話にならないもんな」


「ははは……」


(僕もブロンズ級っていった方がいいのかな)


「俺は見ての通り、プラチナ級だ」


 サイードは白金に輝くタグプレートを持ち上げた。


 タグプレートは冒険者ギルドに登録した冒険者に与えられる身分証のような物である。


「すごいです! プラチナ級って、オリハルコン級の一つ下ですよね!?」


「ちなみに、私はゴールド級ね」


「あたしもだよぉ」


「皆さん、強いんですね!」


「階級なんてものは、所詮は冒険者ギルドの評価だ。君がブロンズ級だということも知っている。さらにいうなら、俺たちは君の本当の価値に気付いている。どうだろう、この手を取ってもらえないだろうか」


 サイードは手を差し出した。


「はい、お願いします」


 僕はその手を握り返した。


 冒険者人生で初めてパーティに誘われて、舞い上がっていたのかも知れなかった。


「これからよろしくね」


「やったぁ」


 僕は晴れてサイードのパーティに加入することになった。


 昼食をとりながら軽い打ち合わせをして、その日は解散となった。


 僕はその足で、リュックサックを買いに行った。


 今使っているリュックサックは、僕が荷物持ちとしてやっていくと決めた日に買ったもので、ところどころ破れ(ほつ)れていた。今まで騙し騙し使ってきたが、心機一転買い替えることにしたのだ。


 初めてパーティに所属するのだから、道具も新しくした。一種の(げん)担ぎだ。


 暇な日は必ずといっていいほど冒険者ギルドに足を運んでいたが、もうその必要はなくなった。


 久方振りにできた休暇を、僕は何をするわけでもなくだらだらと過ごした。


 仕事がなくてこういうだらけた日を過ごした際にはもやもやしたが、今は程よい高揚感に包まれていた。


 三日後、僕はもう一度サイードたちと入った店に足を運んでいた。

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