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最低の仲間②

「おう、ファハド、生きてたか」


 冒険者ギルドの求人掲示板を吟味していると声をかけられた。


「随分な挨拶だね、ハリール」


「久しぶりの再会を祝して一杯おごれよ。今回の遠征は大成功だって聞いたぜ」


 ハリールは毛深い腕を僕の肩に回してきた。


 ハリールは同業者であり、時折仕事を紹介してくれる顔見知りだ。


 僕はハリールのことを友人だと思っているが、向こうがどう思っているかはわからない。ハリールは誰に対してもこんな感じで接しているからだ。


「遠征は大成功だったけど、契約は固定給だったから。あと、僕は未成年だからお酒は飲めないよ」


「はあ、手堅いというか、欲がないというか。その様子だと、ボーナスもなしか?」


 ハリールはやれやれといった。


「僕たち日雇い冒険者にボーナスなんて出るわけないよ」


「まったくだ。まあ、どこのパーティにも所属していないってのも気楽でいいんだがな」


「そうだね」


 僕は愛想笑いを浮かべた。


 正直いうと、僕はパーティや仲間というものに強い憧れを抱いていた。


「そんなところでじゃれ合ってたら他の冒険者の邪魔よ」


「げげ、その声はシャザー」


「ごめんなさい、シャザーさん」


 シャザーは冒険者ギルドの受付のお姉さんである。


「ああ、ファハド君にいったんじゃないよ。そこの人間もどきにいっただけだから」


「俺は列記とした人間だ! てか、どうしてファハドに対してだけそんなに甘いんだ?」


「だって、健気で可愛いんだもん」


「くう、可愛さだけは俺が持ち合わせていない要素だからな」


「ははは……」


 もうそろそろ可愛いといわれても複雑なお年頃だ。


「なあシャザー、俺向きの求人は入っていないのか?」


「ああそれなら、またグリフィンの囮役の求人があるわよ」


「待ってくれ、また体中に生肉を巻いて逃げ回れっつうのか!?」


「そのためのスキル『スプリント』でしょ?」


「ちげえよ! 足が早い方がモテるって聞いたから習得したんだ!」


「ファハド君、馬鹿が移るから向こうへ行きましょ」


「ファハドは賢いよな。スキル『オーバーウェイト』とスキル『アプライザル』があるから、前線に立たされることなんてないんだからよ」


 オーバーウェイトは実際の筋力以上に重たい物を持てるようになるスキルである。


 アプライザルはダンジョン内に落ちているオーパーツの効果を調べるスキルである。


 ただの剣に見えても、実際振ってみると大地を割るような現象を起こすのがオーパーツである。どういった能力が備わっているのかわからないままオーパーツを扱うのはあまりにもリスクがあるので、アプライザルは重宝されるスキルの一つである。


「僕って荷物持ちくらいにしか役に立たないし、遠征以外で声がかからないんだよね。その遠征も月に一回あるかないかだし」


「遠征には準備がかかるし、頻繁に行われるものでもないからね」


「あいつら普段の探索だと報酬分配の頭数が増えるから呼ばないくせに、都合のいい時だけ俺たちを安い給料で呼ぶんだよな。ったく、足元見やがって。ファハドも向こうに提示された報酬額が気に食わなかったら、ガツンというんだぞ」


 ハリールはこんな調子だが、雇い主の前ではどんな命令にでも従順な犬になると僕は知っていた。ハリールは生来的に気が小さいのである。


「別に気に食わないなんて思ったことないよ。それに荷物持ちだって、前線で戦えない僕が冒険するために選んだ道だし」


 僕はまた自分に嘘をついた。


 その時、冒険者ギルド内にただならぬ声が響き渡った。


「――なあ、頼むって、報酬金の前払いってことにしてさ。呪い装備があったんじゃ、ダンジョンの探索にも行けねえんだ」


 依頼掲示板の前で、一人の冒険者が受付嬢に泣き付いていた。


「申し訳ありません。冒険者ギルドでは、金銭の貸し付けは行っておりません」


 受付嬢は冷静に対応した。


「そこを何とか、この通りだ!」


 冒険者は安い土下座をした。


「呪い装備の解呪費用でお困りでしたら、そういった冒険者を支援する組合もございますよ」


「馬鹿いうなよ!? あいつらなんかに金を借りたら最後、人を馬車馬のように働かせて、骨の髄までしゃぶられちまうだろ!」


「それは知りません。解呪費用もないのに、未鑑定の装備を身に着けたあなたの自業自得です。これ以上騒ぐなら、今後冒険者ギルドへの立ち入りを禁止しますよ」


「くそっ、血も涙もねえ女だ」


 冒険者は唾を吐き捨てて、冒険者ギルドを後にした。


「面白いもんが見れたな」


 ハリールは嬉しそうにいった。


「面白いものではないよ」


 僕はあの名も知れない冒険者を気の毒に思った。


 あと、公共の場で唾を吐くのもよくないと思った。


「ハリール、あなただって他人事じゃないでしょ? 貯金もせずにその日暮らししているんだから」


(ううシャザーさん、その台詞僕の耳も痛いです)


「生憎、俺は鑑定士の真似事なんてしないからその心配はない。霊的な力を宿したオーパーツは、その日のうちに金に換えちまう。そういえば、スキル『アプライザル』を使えばオーパーツが呪われているかどうか判別できるのか?」


「ううん、呪いはオーパーツそのものの効果というわけじゃないから、スキル『アプライザル』だとわからないんだ」


「一度着用してしまうと、呪い装備を外しても、呪い自体は着用者に付与されたままになるからね。根本的に違う力なのでしょう」


 シャザーは補足説明した。


「ひぇ~、おっかねえ。解呪費用も俺たち日雇い冒険者の一年分の給料くらいかかるんだろ? 鑑定済みの装備は三割増しで売れるかどうか、いやまあ楽して稼げるが、リスクと割に合わねえ。ファハドも気を付けろよ」


「大丈夫だよ、僕も霊的な力を宿したオーパーツをいきなり装備したりしないし」

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