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千年の時を超えて⑥

「ところで、冒険者ギルドの検問というのは厳重なものなのですか? 見たところ、しっかりと調べている様子はありませんけれど」


「え、ここからピラミッド前のやり取りが見えるの?」


 僕の目には人が居るくらいしか判別できなかった。


「はい、私の目はファハド様に迫った危険を逸早く察知できます」


「それは頼もしいね。ピラミッドは一日に何万人も出入りする場所だから、タグプレートを提示して、事前に記入した用紙の人数さえ合っていれば特に調べられないんだ」


「それでは、タグプレートを落としてしまった場合はどうするのですか?」


「受付けさんと顔馴染みなら、タグプレートの番号を申告して用紙を確認するだけで通れるはずだよ。タグプレートの番号を忘れてしまっても、名簿から用紙に紐付けされているから然程問題にはならないかな。バラカは受付けさんと顔馴染みでもないし、名簿にも名前が載っていないから、タグプレート紛失しました作戦は使えないね」


「たとえばケット・シーの方たちの名も名簿に載っているのですか?」


「冒険者ギルドでも、流石にそこまで網羅しきれていないよ。ああ、そういうことか。バラカの考えていることが読めたよ」


 僕は不敵な笑みを浮かべていった。


「やはりファハド様は聡明であられますね」


「一度、ケット・シーとしてアルスウルから出て、そこで改めて人間として冒険者ギルドに登録すればいいんだ。架空のケット・シーの女の子がダンジョン都市ガリグで行方不明になるけど、多分そこまで大きな騒ぎにはならないと思う。ダンジョン内の住民はピラミッドの範囲内から出られないからね。問題は、どうやってバラカがケット・シーに変装するかだけど」


 生地と裁縫道具で作るにしても、僕はそこまで器用じゃなかった。


「それならば、あちらの売店で猫耳と尻尾が販売されていますよ」


「え? 本当だ。ケット・シーになれるお土産屋なんてあるんだね」


「ファハド様さえ良ければ、購入してきます」


「お金は持っているの?」


「はい。砂金を少々所持しています」


「そんな物を渡されてもお店の人が困っちゃうだろうし、これを使って」


 僕はバラカに財布を渡した。


「良いのですか?」


 バラカは目をきらりとさせた。


「うん、大した額も入ってないけどね」


 僕のなけなしの全財産だ。


「大切に使わさせていただきます」


 バラカは人目も(はばか)らずに、地面に片膝を着くと、両手を受け皿にして頭上に掲げた。


「ちょ、ちょっと、目立つからそういうのは禁止!」


「しかし、ファハド様からの賜り物を無碍(むげ)に扱うのは気が引けてしまいます」


「僕の方もちょっと引いてるよ。とにかく、戦力が整うまでの間、僕がファラオであるということは隠さなくちゃいけないんだ。だから、人目のあるところで膝を着くのは控えて欲しい」


「畏まりました」


 いった傍からバラカは膝を着こうとするが、僕は彼女の腕を掴んでそれを阻止した。


「やると思ったよ」


「申し訳ありません。体が勝手に……」


「癖なら仕方ないよ、徐々に直していこう。大分話が逸れちゃったけど、一人で買い物はできるの? 僕も付いて行った方がいいかな?」


「心配してくださるのは嬉しいのですが、私もそこまで子供ではありません! 今から私の実力をとくとご覧ください」


 バラカはそう息巻くと、僕の財布を握り締めて小走りでお土産屋に向かった。


 バラカはお土産屋で買い物を済ませると、そのまま建物の物陰に入り、しばらくするとケット・シーに扮して戻ってきた。


「どうですか、似合っていますか?」


 バラカは何かを期待するような上目遣いで聞いてきた。


 こうして改めてまじまじとバラカを見ると、とても可愛い。


「うん、どこからどう見てもケット・シーだね」


 僕はよそよそしくいった。


「それだけですか?」


 今度はもっとわかりやすく、バラカは甘い声を出した。


「……可愛い」


 僕は聞き取れるか聞き取れないかくらいの、最小限の声でいった。


「ファハド様、今何とおっしゃいましたか?」


 バラカはにやにやしながら小首を傾げた。


「もういわない、聞き逃したバラカが悪い」


「えー、ファハド様意地悪です」

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