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最低の仲間①

「あの、非常に言い辛いんだけど、この前みんなからもらった装備が呪われていて……」


「ぷっはっはっはっは! そんなことをいうために、わざわざ調べてこの酒場まで来たのか? ファハド、お前って本当に間抜けだな」


 パーティのリーダー、サイードは酒を噴出さんばかりに笑った。


 サイードはどこか狐を彷彿とさせる容姿をしていた。


「その装備は要らないからあなたにあ・げ・た・の。要らないなら、あなたも誰かにあげれば?」


 酒の入ったムルジャーナは目がとろんとしていた。


 ムルジャーナはぱっと見美人のお姉さんだが、いつもどこか人を見下したような眼をしている。


「君さぁ、もらった時さぁ、一生大切にしますっていってたよねぇ。あの言葉は嘘だったわけなんだぁ、傷付くなぁ」


 アサーラは人と話している時も、自分の爪が気になる様子である。


 アサーラは派手な見た目をしているが、お店の娘ではない。


「あの時は、まさか呪われているなんて思わなかったから」


 僕は勇気を振り絞っていった。


「ちょうどいい機会だったんじゃないか?」


 サイードはあっけからんといった。


「何がいい機会なの?」


「お前が冒険者を辞める以外に何かあるのか?」


「そうそう、あなた無能だし、死んじゃう前に冒険者を引退できてラッキーよね」


「ほんとそれぇ。諦める後押しをしてあげたあたしたちに対してぇ、逆に感謝して欲しいくらいよねぇ」


 三人はこちらを小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。


「勝手なこといわないでよ! 確かに僕は弱っちいかも知れないけど、ダンジョンで命を落とす覚悟くらいはできているよ!」


「だったらファハド、お前は俺たちのために死んだんだ。俺たちのために戦死したなら、気持ちも楽になるだろ?」


「初めから……、初めから僕に呪い装備を押し付けるつもりで声をかけたんだね……!」


 僕は拳を強く握り締め、目に涙を浮かべながらいった。


「あなたのおかげで、こうして私たちは最高の仲間に巡り会えたわ。しかも、呪い装備まで引き取ってくれるなんて、お人好しすぎない?」


 ムルジャーナは皮肉たっぷりにいった。


 これは後からわかったことだが、呪い装備で困っていたサイードが、同じく呪い装備にあぐねていたムルジャーナとアサーラを誘い、今回の計画を画策したのだそうだ。


「ねぇねぇ店員さぁん、この人お客じゃないみたいだしぃ、摘まみ出してくれないかなぁ?」


「ちょっと待ってよ、僕はまだみんなと話し合いたいことが――」


「――いけませんよ、ここは楽しくお酒を飲む場所です。揉め事を起こすなら、お引き取りください」


 サングラスをかけた大木のような男が注意した。


 ダンジョン都市ガリグの酒場では、探索から戻ってきた血の気の多い冒険者が、アルコールも入って頻繁にいざこざを起こすので、必ず腕の立つ用心棒が配備されていた。


「でも、サイードたちが僕を騙して――」


「――お引き取りください」


 サングラスの用心棒が半歩詰め寄った。


「……はい」


 僕は消え入りそうな声で頷いた。


 これ以上ごねると力ずくで追い出される空気を感じた。


「達者でな」

「さようなら」

「じゃ~ねぇ~」


 僕は嘲笑を背に浴びながら、酒場を後にした。




 今から約千年前、突如四角錐の巨大な建造物、通称ピラミッドが出現した。


 ピラミッド内部とその周辺では、世界の法則がねじ曲がっており、人類の築き上げてきた文明が無に帰した。一番大きいのは、電気がまったく使えない点だ。また人々には超常の力、スキルが発現した。


 ピラミッド内部にはいくつもの石碑があり、それに触れると異なる難易度のダンジョンへ飛ばされる。そこには見たことも聞いたこともないモンスターが生息しており、オーパーツもごろごろと転がっていた。


 そんな未知の世界に刺激を求め、あるいは一獲千金を夢見、あるいは自分を変えたくて、多くの人々が冒険者を志した。


 呪い装備を押し付けられるまで、僕もそんな冒険者を志す一人だった。


 酒場から帰路に着く僕は、サイードたちと知り合った日のことを反芻(はんすう)した。


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