春の桜
10年前に約束した、桜の咲く頃に出逢おうという約束を
毎年毎年、あぁこの日にはと思い出していたけれど、ようやくそれが巡ってきた。
春のような声で僕に話かけてくれていた君との大事な約束の日。
10年も前で、それも一回きりの口約束。
覚えてなんかいないだろうなぁ。心に浮かぶ言葉とは裏腹に、どこかそわそわしてしまう。
あまりつけないヘアーワックスをあぁでもないこうでもないと触って、時間指定なんて無かったけれど、チャイムが鳴っていた時間に間に合うように出掛けた。
いつもとかわらない景色なのに、全部で君を思い出して、まるで自分が中学生のままでいるようだった。
美しい桜が、風で小さく揺れて少し散る。それを繰り返して一層の春の風情をだしている。
チャイムの音が聞こえた。鳴る時間も音もかわっていない。急いで教室へ行かなければ怒られてしまうと感じる程に、幼い自分と同期していく。
「久しぶり。」
あぁ、かわらない春の声。
熱が巡る喉から、声を絞り出した。
「久しぶり。」
チカチカと光る桜の奥で、僕の春は笑っていた。