第1話「この世界で最強の存在」
俺はある日、唐突にラノベみたいなことは本当にあるんだな、と実感させられた。
「おら! 有り金全部、俺たちによこしな!」
今、俺は人気のない路地でチンピラ三人組に金をたかられていた。
後ろは壁で逃げ場がない。
「いや、そんなこと言われても、今、財布持ってなくて……」
「何、平然と嘘ついてんだ! さっき自販機でジュース買ってただろうがよォ!」
急に怒鳴りながら、チンピラの一人が、俺が右手で持っていた桃水の缶を蹴り飛ばし、右腕を足で壁にぐりぐりと押さえつけてくる。そして、そのままチンピラは右手の人差し指をこちらに向ける。すると、ライターほどの火が指先に灯った。なんかじりじり熱い。低温やけどになりそう。
「あんま舐めてんじゃねぇぞ。俺たちは全員18歳なんだよ……『選挙権』持ってんだ……この火もなぁ? お前に向けて撃ったら爆発すんだぜ? 手足が折れるかもしれねぇ。今、置かれてる状況がよーく分かったかよぉ?」
「へ、へぇ……手足が……いやまぁ、置かれてる状況は最初から分かってるつもりなんですけど……」
言いながら、チラチラと落ちた桃水の缶をチラ見する。どうやら穴は開いていないようでホッとするが、いつ壊れて中身が出ちゃうか気が気でならない。今週のお小遣い最後の100円で買った癒しをここでおじゃんにされるわけにはいかない。どうにか、チンピラ達をなだめて―――
「悠長に缶の方ばっか見てんじゃねぇ!」
「あ」
見なきゃよかった―――そう後悔しても、もう遅い。
その態度が気に食わなかった一人のチンピラが、缶を思いっきり踏みつけ―――穴を開けて、中身を出して、缶を潰してしまった。
その瞬間、俺の中の何かが切れた。
「おい、何してくれてんだ、あんた……!」
「あ? なんだ? 何か文句があんのか?」
「無ぇと思ってんのかよ、このガイジがよぉ!? 人の物を勝手に壊しちゃいけませんって小学校で習うもんだよなぁ!? 教養レベルが低いんじゃねぇのか、18歳様よぉ!?」
「てめぇ、俺たちをバカにしやが―――」
「うるせぇ!」
俺は怒りに任せてフリーの左手を拳にして、俺を足で押さえているチンピラの肋骨を思いっきり殴った。
「ほぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!?」
すると、当然のようにバキバキバキッ!という音ともにチンピラの断末魔が路地に響き渡った。全身と穴という穴から血をドクドク流しながら、重力に従って軟体生物みたいにへにゃへにゃになったチンピラが崩れ落ちた。
「な、なんだぁ―――ッ!? い、今、何が起きたんだ!? ま、まさかお前も『選挙権』を―――」
「はぁ!? 今のはただの『骨伝導』だろうが! 目糞詰まってんじゃねぇか!?」
骨伝導とは音の振動などが骨に伝わり、そこから直接聴覚神経に伝わること自体を指す言葉である。しかし、それはまた骨は衝撃を他の骨に敏感に伝えるということなのだ。馬鹿強い衝撃は、たとえ一部分に向けて放たれていても、そこから他の骨に伝わって、全身の骨を粉々に砕くこともあり得る! 現に今、パンチを喰らったチンピラは肋骨どころか手足の指の先端まで複雑骨折してしまっている。完全に再起不能だ!
「ふ、ふざけんじゃねぇ―――ッ!」
さっき、桃水を踏んだ因縁のチンピラが叫ぶと同時に、俺のすぐ横の壁から金属の刃から生成され、俺にむけて、突っ込んでくる。
しかし、刃は俺の首に当たると、いとも容易くポキリと折れてしまう。当然、首の皮膚も切れてない、無傷そのものだ。
「そしててめぇだけは絶対に許さねぇ! 喰らえ、俺の怒りの鉄拳をォ!」
「や、やめ―――おおぉっぉぉっぉぉぉおおおお―――――――――――ッ!?」
骨伝導によってバキバキバキッ!という音とチンピラの断末魔が再度響き渡る。その光景は先ほどの焼き直し、そして、二人のチンピラが血まみれで倒れることで着実に地獄絵図が形成されつつあった。
そして、もう一人のチンピラは完全に戦意喪失してしまっており、後ずさりしてしまっている。
だが、俺は許さない。こういう時、間違った道に進んでしまった友人を正すのが友情ではないのか。連帯責任だ、村八分だ、畜生!
「くっ、『テレポーテーション』!」
「何?」
チンピラが叫ぶと同時に、姿が見えなくなり、上で何か音が聞こえた。
上を向くと、建物の屋根にさっきまですぐそこにいたチンピラの姿があった。どうやら瞬間移動の『選挙権』を持っているらしい。
「逃がすと思ってんのかぁ!? オラァ!」
「うぉぉぉ―――!?」
俺はすぐそこにあった小石を蹴り上げた。その威力はまさに大砲。小石は一瞬で建物の屋根を破壊し、乗っていたチンピラを叩き落した。
チンピラは落ちて、苦しそうにしていたが、すぐに俺の近くに落ちてしまったことに気づき、顔を真っ青にして。
「な、なんでだ……? お、お前は『選挙権』を持っていないんだろう……?」
「あぁ、そうだ」
「『選挙権』を持っていないのに、なんでそんなに強いんだぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあ――――――ッ!?」
「『17歳』だからさッ!」
「はぴぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ――――――――――――――――――ッ!」
骨伝導バキバキバキッ!もう説明は要らない、三回目の焼き直し。路地に凄惨な地獄絵図が完成した瞬間だった。
そう、17歳。あまり知られてはいないが、それは人間の肉体の成長のピークなのだ。それこそが、現在、『選挙権』が重視される世界において、唯一の本当に致命的な落とし穴!
なんと18歳になって『選挙権』を手に入れると同時に肉体のピークは過ぎてしまうのだ! たとえそれによってどんな超能力を手に入れても、肉体が最強でないなら、その価値は如何ほどのものだろうか?
どんな能力も肉体が最強の状態である17歳には勝てない。それが真理、この世の真実なのだ! この世で最強の生物は間違いなく、17歳なのである!
これは18歳以上が重視される世界で17歳の少年が生き抜く物語! まるでラノベみたいな物語である!
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