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〈連載版〉DAISHIJI   作者: 愛摘姫
7/14

〈七〉 俺は俺でありたい

 〈七〉




「リディ」




 側のこしかけに座りながら、リディの名を呼び続けた。


 自分も決して、大丈夫な身体ではなかった。睡眠不足と、十分休んでおらず、ちゃんと食事もしていない身体だったので、フラフラだった。けれど、いまはリディのことが一番心配だった。




 このまま目を覚まさなかったら、俺はどうしたらいいんだろう。作業の手をとめたまま、戸棚を作る気になれなかった。ずっとリディの側についていたいと思っていた。




 そして、リディが倒れてから4日が経ったころ、リディの顔を見ながら、自分もウトウトしはじめた。




 腰掛けに座りながら、ベッドの上で寝てしまった。




 すると、不思議な夢を見た。




 リディが、とても綺麗な景色の場所に、立っていた。まるで、月明かりに照らされた草原のような場所だった。大きな月を背にして、リディが花を摘んでいた。




 そして、ダイシジに気づくと、こちらに手をふってよこした。


 ダイシジは、リディがもう大丈夫そうだということに、嬉しくなって、かけよった。リディは、真っ白でかわいらしい雛菊の花をたくさん摘んでいた。




 そしてその花を見ながら、ふふふと笑った。


 ダイシジは、その笑顔を見てもっと嬉しくなった。


 元気そうな、リディ。


 それから、この場所は、どこだろうと思った。来たことがない場所だった。




 草原と思っていたけれど、月がとても大きくて、大地と思っていたけれど、足元は何かでこぼこの岩のような気がした。




 ここは、どこだろう。


ダイシジは、あたりを見回したが、月明かりに照らされた場所が広がるだけで、よくわからなかった。




 リディは、嬉しそうに花を摘んでいる。


 そして、つみ終えた花をこちらに手渡した。ダイシジが、喜んで受け取ると、リディは、月の方を向いた。




 広い岩山が並んで、月の明かりに照らされている。




 リディは、言った。




「あなた、こんなところにいる暇はないのよ。」


ダイシジは、言った。


「きみを向かえに来たんだよ。きみがずっと眠ったままだったから、俺はずっと君を待ってたんだよ」




 リディは、笑ったが、目は真剣な顔になった。


「あなたには、やることがあるでしょう。」




 ダイシジは、やることの、意味をわかっていたが、いまはリディが大事だと言った。


 すると、無邪気そうに笑っていたリディは、少し悲しい顔をした。




「あなたがやろうとしていることは、あなただけのことではないのよ。」




「どういう意味だい?」




 リディは、背に大きな月の光をうけたまま、続けた。




「あなたには、とても大きな力があるのよ。それにあなた自身が気づかなくて、自分を押さえ込んでいただけなのよ」


ダイシジは、驚いた。




「それは、わかったんだよ。ついこの間、そのことを考えてたんだよ。自分の生き方をしよう、自分の力を使って、戸棚をつくろうって」




 リディは、それには応えずに、続けた。




「あなたには、自分がやることの一部しか見えていないのよ。


 そこにあるものが、すべてを映し出すことがないように、あなたにも、あなたの全貌が見えていないだけなの。今、1000個の戸棚を作っていることが自分の大事な仕事と思うかもしれないけれど、あなたの本当の仕事は1000個の戸棚を作ることではないの。あなたは、その戸棚の中に入れる妖精を思い浮かべながら作っていたでしょ・。そんなあなたの作っているものは尊いものなの。


 それが、できあがったときに、どうなるかわかるでしょう。


 あなたの感性が映し出すものを、あなたは知らないだけなのです。


 いま、まずあなたに与えられていることをしてください。それが、どんなときであっても、自分の何をも疑うことのないようにしてください。あなたが、鍛冶屋で働くときも、食事をするときも、あなたは自分の感じるすべてのすることを受け入れてください。


 それをもし、忘れるようなときは、見失っているだけなのですから。どんなときも、あなたは、自分の何もかもを、信じていてください。今なぜそうするのかは、今のあなたに、わからないだけなのですから。」




 ダイシジは、言った。


「では、なぜ自分にもわからないことの中に、自分の生きづらさや、苦しさ、悩みというものの答えがあるのだろう。


 自分がやろうとしたり、やっていることが、自分を悩ませ、生きづらくさせているのは、なぜなんだ。この悩みの答えを天か誰かがわかっているなら、苦しいときや、どんなときでも、自分は大丈夫だと、安心できる証をなぜ、残してくれないのだろう」




 ダイシジは、すでにいつものリディと話しているのではないと思ったが、かまわずに、


それを受け入れた。




 リディは、言った


「あなたの中の焦りが、いまある自分を追い詰めることをしているのです。


 それは、すなわち、自分を信頼できず、疑うことから起こるのです。


ダイシジ、自分を疑う限り、永遠にあなたは悩みから逃れられず、自分を知ることもできませんよ。あなたが、作るもののすべてを知ることはできないのです。」




「では、どうして、疑ってしまうほど自分のことがわからないのだろう。わかるなら、誰も自分を疑わないのに」




「疑わないために、自分を知るのではないのです。


あなたであるために、あなたを知るのです。」




 リディは、背にした月の光に浮かび上がった。




 ダイシジは、


「では、わたしの作るものが偉大だとか、やることが大きなことだとしたら、そう信じられる証拠をみせてほしい。


 いま、わたしの作るものが誰かに認めれていたり、誰かのためになるようなものか、わからない。


わたしが、本当に何か人のために力をもったものだというのなら、誰にでもわかるようにその証をみせてください。」




 リディは、さらに空へと浮かび上がった。




「ダイシジ、あなたはすでにたくさんのことをやっています。


そしてそのどれを持ってしても、偉大なことなのですよ。」




「わたしには、偉大なことをした記憶がありません。黙って一人で作っていたときも何もやっていないようにすら思えます」




「では、あなたにとって、偉大とはどういうことですか」


彼女が聞いた。




「偉大な人というのは、歴史に名を残したり、誰かをたくさん助けていたり、誰かのためになるような人で、世界を救うような人のことだと思う。」


ダイシジは、想うまま話した。


 リディは、少し考えているようだった。


 それから、




「ダイシジ、あなたの言っているのは、ただの人です。




 すべての人がそうある必要はないのです。あなたの持っている偉大さは、もっと別のものなのです。


あなたは常に、人ではないものへ感謝していませんか。それが、目に見えて、人へ伝えられることでなかったとしても、あなたが行っている偉大なことに比べれば人が行うことの何かは、特別に思わなくてもいいのです。」




 ダイシジは、大声で言った。




「だから、わたしはその偉大さがわからないのです。自分の力がどんなものなのかを知りたいのです。なぜ自分がここで生きているかをしりたいのです。教えてほしい!」




 すると、リディは、また少しだまった。




「あなたが、今すばらしいのは、この瞬間を生きているということです。あなたが、やろうとしていることは、わたしたちにもわからない。




それだけ今が、偉大だということなのです。


あなたは、その今、を生きているのです。」




 ダイシジはわからなかった。リディのいっていることは、難しく思えた。




「では、今わたしがやるべきことはなんでしょうか。」




 リディは、少し微笑んで、




「あなたが、本来の自分を生きることですよ。」




「それは、どうしたらいいのでしょうか。」


ダイシジは聞いた。


リディは、ゆっくりと優しく、




「あなたが喜ぶことをするのです。」





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