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〈連載版〉DAISHIJI   作者: 愛摘姫
4/14

〈四〉 足音

 〈四〉




 それから、二人は、毎日一緒に戸棚を作り始めた。


 材料もそろい、組み立てができていき、一つ一つ完成するのをみて、喜びを分かち合った。初めて、二人で作業する喜びだった。


 同じものを作っていくことの嬉しさ、そして、なぜだかダイシジに孤独感はなくなっていた。


 街の人たちはダイシジやリディに会えば、必ず1000個のわけを聞いてきた。何をつくるの?と家にまで来ようとした人もいるけれど、リディも彼もそれをはねのけ、黙々と作り始めた。


 しかし、ひとつを作るのに、4.5日くらいかかるものを1000個となると、程遠い歳月が必要だった。街の人たちは、彼らが何を作っているのかが知りたくて仕方なかった。


 ダイシジに、はじめは冗談をいって聞きだそうとしていた、鍛冶屋の息子のテディや先輩職人たちも、彼が口を割らずに毎日定時であがり、家に帰って黙々と何かをしている姿を黙って見守るようになった。彼は、懇意にしてくれた大工職人だけには、戸棚をつくっているとだけ話した。そして、そのサイズにあったような、木をみつけてくれるようにと頼んでいた。




 そして、歳月はめぐり、戸棚を作っているらしいということが、どこかからか、もれ、街中に広まると、またもや、いわれのない人たちからのやっかみや、なんになるんだという言葉も聞かれ、鍛冶屋の人たちも、ここぞとばかりに、今度もってこいよ、飾ってやるよなんていうようになった。


そして、彼の一番嫌いなそういった注目や人の干渉も、だんだん彼を居心地の悪いものにしていったが、それでも、仕事を辞めるわけにも行かなかった。


なんとか、1000個、という想いだけでつくっていたけれど、半分を超えたあたりになったときに、彼の張り詰めていた糸がふと、乱れた。




「本当に、これがなんになるんだろう。妖精の国なんて、俺は夢でみただけで、そんなものありもしない、幻覚のようなものに踊らされて、おれは1000個なんて作っているんじゃないんだろうか。みんなが街中でうわさしている。そして、これができあがったときに、おれはどうしたらいいんだろう。あの女神が現れなかったら、この戸棚は使いものにならないだけじゃなく、いい笑いものになってしまう。そしたら、この街にももういられないな。俺は、結局自分をまた苦しめて、こうしてこれだと思えるものがみつかったとしても、また振られてしまうんじゃないんだろうか。」




 彼の手は止まっていた。ずっと、休みなく、工具をもち、やすりをかけてきた彼の手がいま止まってしまっていたのだ。


 リディは、彼の気持ちがよくわかった。


 やっとの思いで、街で仕事している彼の生きづらい不器用な性格に加えて、毎晩休みなく作業していた疲労もたまっていたのだ。これが、本当に彼の夢だったのなら、自分も、彼をどうなぐさめていいかわからない。そして、彼がこれをどうしていいかわからないというのも、自分にもわからなかった。自分も彼と同じように、笑いものになってしまうだろうし、いまですら街に行くと、話の種のために浮いた存在になっている。




「そのときは、街をでましょう。もし、これがなんにも、ならないものになったとしても。そのときは、どこか住みやすい土地をみつけて、またそこで暮らしましょう。きっと、これを買ってくれる人がいる土地があるわよ。」




 ダイシジは、うなづいて見せたが、表情は晴れなかった。いまここで、投げ出すわけにもいかないけれど、疑問や疑心もぬぐえない。そして、こういうとき、また自分まで疑うことを覚えてしまうのだった。どうして俺は。何をしているんだろう。






 そして、674個目をつくり終えたときに、あることは起きた。


 ふいにドアにノックの音がして、扉がひらいた。


 納屋で作業している二人には、家にやってきた、鍛冶屋の息子が呼ぶ声が聞こえなかったのだ。


 テディは、彼の勤務の予定表と頼まれていた部品を持ってくる口実で、何を作っているか覗いてやろうという安易な気持ちでやってきたのだった。けれど、呼んでも誰もでてこないので、おかしいと想い、納戸に明かりがついているのを見て、半信半疑で、ドアを開けた。


二人は一心不乱に作業をしていたため、ノックの音を聞き漏らしたが、ドアを開ける音で気付いた。


 ダイシジは、そこに、あのやっかみのテディがいたので、一番見てもらいたくないやつに見つかったような気持ちがして、身体がこわばった。


 自分の縄張りに勝手に入られたような気持ちの悪さと、土足で踏み込まれたような悔しさとが、混ざって両者だまったまま見据えてた。


 テディは、小さな戸棚が敷き詰める中に呆然としている二人を驚愕の顔で見据えると、勤務表と部品を入り口の小さなテーブルに置き黙って出て行った。


 テディの足音が去ると、窓から彼の姿が遠ざかるところまで見る気にもなれなかった。

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