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〈連載版〉DAISHIJI   作者: 愛摘姫
3/14

〈三〉 リディの決断

〈三〉




 すると、不思議なことが起こった。


 窓一面に、白くまばゆい光がたちこめたかと思うと、そこから、真っ白いロープのような布に身を包んだきれいな女の人があらわれた。彼はその光の明るさに目をそばめながら、じっと見た。その人は、ふわふわと浮きながら、窓から入ってきたかと思うと、ダイシジの肩に、もっていたステッキのようなものをおき、こう告げた。




「ダイシジ、お前の持っている力を発揮させてほしいのです。わたしはそのためにやってきました。あなたが、どんなに迷うときにも、わたしは助けます。けれど、あなたも、それに報いなければ成りません。そのために、自分を偽らずに全うするのです。あなたはそのために、遣わされたのです。」




彼は口がきけずにいた。




「あなたの、つくる棚を妖精の国に進呈するのです。その数は、1000個。同じものを作りなさい。そして、本当に彼らが中に入ることを想定してつくりなさい。あなたがつくるものを、彼らにも送るのです。そして、いま、これが目覚めてから、すぐに取り掛かりなさい。」




 そういうと、いつのまにか、女の人を包んでいた真っ白い光は消えうせて、あたりはもとの月明かりに戻されていた。


 ダイシジは、目を開けると、なんだか、よくわからないけれど、言うとおりにしなきゃいけないような気がして、すぐに、納戸に材料を取りにいった。1000個ほどの戸棚を作れる材料はなかった。せいぜい2.3個しか作れない。蝶つがいや、鍍金もぜんぜん足りない。これを1000個も用意すると、すごい金と時間がかかってしまう。けれど、あの女の人が夢だなどとは思えなかったのだ。彼はどうにか、やらなければ、と決意した。まず、いま家にあるもので、つくってみることにした。


 夜分遅くに、リディが帰ってくると、まだ納戸の電気がついていて、ダイシジが何かしていることがわかった。覗いてみると一心不乱に、何かを作っている。こういうときは、声をかけないのが一番だと想い、そのままベッドに入った。


 翌朝、起きてみると、彼がベッドにいない。びっくりして納戸を見てみると、まだ彼が作っている。リディは、彼に声をかけると、彼はビクッとしたように振り向き、うん、とか曖昧な返事をして、また作業に戻った。彼は、その日、板金屋にでかけていき、大量の蝶つがいや、釘などを買ってもってきた。


リディは、どうしたのかと、聞くと、




「とにかく、やらなきゃいけないんだ。」




としか言わない。どう見ても、100個くらいある材料をみて、いくつ作るのかを聞くと、1000と答えた。ここには、まだ100個しかない。木の材料もぜんぜん足りない。なんとかしなければ、と。しかし、それらの材料を1000個も買うとなると、この街では、限られているし、そんなに大量においているところなんてない。そして、お金もかかってしまう。ダイシジは、懇意にしてもらっている大工職人に、余り木をわけてもらったりしていたが、同じものをつくるとなるとそうもいかないので、お金を払うから、なんとか1000個つくれるだけのパーツを集めてくれないだろうかとお願いした。その人もびっくりしていたが、訳はとくに聞かずに、なんとかできるか手配してみるよ、と言った。しかし、お金は、500ブール、かもしくは1000ブールそれ以上になるかもしれないとだけ言った。ダイシジは、予想はしていたけれど、そんなに高いとは、びっくりし、困り果てて、リディに相談することにした。


 お金の相談など、したことがない。彼女はどう思うだろうか。続いて、板金屋などを回り、蝶つがいなどの他のパーツなども、お願いした。1000個買うととなると、向こうも驚くが、そのお金も相当なものだった。とても、給料のあまった部分や、小遣いで買えるようなものではなかった。そして、それは、ゆうに、一月の給料の3倍にも上った。そして、これらを多量に注文した、ダイシジの話は、すぐに、街中に広まったのだった。何より人の中にいることや、集まりや、会話の端にでも自分の名前が上ることを嫌うダイシジだったが、無力にも、街中に名を広めてしまうことになってしまった。それまで、彼を知らなかった人も、興味の対象として注目するようになってしまった。仕事場にいっても、鍛冶屋の息子のテディが、嫌みったらしく、そんなに買って何をするんだ?などと聞いてきた。彼にとっては、人に干渉されたり、自分のしていることを他人に知られたりすることが大嫌いだったが、他の人は知りたくてたまらなかった。いつもおとなしい彼が話題に上ることが珍しかったのだ。




 帰ると、リディは神妙な面持ちで出迎えた。すでに、リディの耳にもうわさが入ってきていたのだ。彼が直接彼女に話をする前に、他人を通して知ることになった。彼女はそのふがいなさや、悔しさで、表情が沈んでいた。何故、一番にわたしに相談してくれなかったんだろう。


彼は、そんな彼女をみてすぐに、謝った。




「リディ、きみも、何か聞いたかもしれないけれど、あらためて、話があるんだ。聞いてほしい」




 リディは、ツンとしていた。情けない、他の人が話していたことをすでに聞いているのに、それに上塗りにして、また同じ話を聞かされたところで、なんになるんだろう。腹立ちはおさまらない。




「リディ、きみも知ってのとおり、俺は、木工や、パーツを1000個、街で購入したいと思っているんだ。今日、注文してきたが、すごいお金がかかってしまう。それをきみに相談したくて。たぶん、いまもらっているお給料の3ヵ月はなくなってしまうだろう。たくわえを持っても、厳しい生活になると思う、きみは、承知してくれるだろうか」




 リディは、大きなため息をついて、情けなく思った。彼女の悔しさは、お金がなくなるからではなく、彼がやろうとしていることの一番の応援者だと思っていたのに、彼はそんな彼女のことをちっともわかっていなかったことだ。お金の心配なら、自分も働きながら、なんとか助けることができるだろう。けれど、何をやろうとしているのかも、その訳も知らされないで、応援などできなかった。


彼にそのことを言うと、




「人に、どう話していいのか、わからないんだ。どうしたって、信じてもらえないと思うから。けど、いままでも、自分のことを話して、そうかといって、わかってもらえたことがあるだろうか、と怖くなる。もしきみにまで、拒絶されたらと怖くなるんだよ。何も言わずに、信じてくれるかい?」




 そういうと、彼は夜に女神のような女の人に会ったことを話した。そして、なぜ1000個つくらなきゃならないかなど、理由はわからないが、どうしてもやらなきゃと言った。リディは、黙って、いなくなると、しばらくして帰ってきて、手を握った。




「あなた一人じゃ、難しいでしょ。わたしにも、手伝わせて」




そういうと、黙って彼の持ってきた、パーツやらを組み立て始めた。



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